第三十五話 無人島生活、開始。
いやもうほんと、窒息寸前だった。激しく呼吸して体内に酸素を送り込む。肩で息をする俺の目の前で、おっぱいが揺れていた。
これは……でかい。
俺はこんなおっぱいに顔をうずめていたのか。そりゃあ窒息もする。あぶない。これで死んでたらまた転生してしまうところだった。
それにしても……このボリューム感はサヤのものではなかった。あの水沢優姫よりもでかいんじゃないか。しかも、水色のビキニ。顔をうずめていた時、大半は素肌に触れていたことになる。もう死んでもいい。いや死んだらよくない。
「~~~~っ!!」
声にならない声が聞こえ、目の前の大きなおっぱいがぷるんと揺れた。
視線を上に向けると、そのおっぱいの持ち主の顔が目に入った。いやー、ここまで完全におっぱいしか見てなかった。
で。顔を見た瞬間。おっぱいばかりに気を取られていた事を後悔。
美人さんです。超美人。俺、その美人さんを押し倒して、その胸に顔をうずめてたってわけ。
その美人さん、顔を紅潮させてこちらをガン見している。水色がかった青色のロングヘアが乱れて地面に広がっているのも色っぽい。上半身は水色ビキニの小さい布地だけが彼女の素肌を申し訳程度に隠している状態だ。
他愛なくまた鼻息が荒くなってしまう俺。
彼女はまた声にならない声を上げて身体をビクンと反応させた。胸元に息が当たっただけでこの反応。逸材すぎる。
そんな感動に浸っていた俺を、彼女は不意に突き飛ばして起き上がった。ひっくり返った俺は後頭部を地面に打ち付けた。痛い。でもまぁこれも天罰か。
彼女は何やら周りを手探りで探していたが、近くに落ちていた眼鏡を見つけてさっとかけると、俺の顔をじっと見つめた。
え、眼鏡っ娘? これはこれで可愛いんだけど!
可愛いというより美人タイプな顔なのに、きつめの眼鏡じゃなく丸い眼鏡なのがギャップ萌えだ。やばい、これ好き。
彼女は俺を上から下までしげしげと眺めると、突然真っ赤になって、また声にならない声を発して俺の右頬をひっぱたいた。
そして、ロングスカートをひるがえして海に駆け込み、泳ぎ去った。
……え? 海?
ぽつんと残された俺は、そこが海岸だった事に気付いた。波の音。さんさんと降り注ぐ日光。
やたら暑かった。それもそのはず、俺はまだスーツ姿だったのだ。
そうだ。思い出した。
俺達は突然地下から噴出した温泉に吹き飛ばされたのだ。サヤやシェリーも一緒に吹き飛ばされたはずだった。
周囲を見回すと、周りは全部、海。これっていわゆる、絶海の孤島ってやつだ。
俺はサヤとシェリーを探して島中をかけまわ……るほどの広さはなかった。長径100m、短径70mくらいの楕円形の島だ。サヤとシェリーは、島の反対側の海岸に倒れていた。
とりあえず、二人を起こすことが先決だ。俺は二人を起こすと、今俺達が置かれている状況を説明した。もちろん、あのおっぱい美人の件は割愛してのことだ。
この島は相当やばそうだった。そもそも、木が生えていない。川も流れていない。ただ地面があるだけだ。小さな無人島で、近くに大きな島がある気配もない。さっきも書いたとおり、まさに絶海の孤島だった。
「どこに飛ばされちゃったんでしょうか、私達……」
サヤの口調は不安そうだったが、実際はそうでもなさそうだった。自分の村から逃げてきたサヤとしては、どこででも生きていければいい、という気持ちが強いのだろう。
「水の領域……だろうな。随分遠くまで飛ばされたものだ」
シェリーは腕組みをして言った。
「我々がいた大地の神殿は、大地の領域の中でも火の領域に近いのだ。水の領域は正反対の方角だからな」
水の領域か、なるほど。確かにこれだけ完璧に海に囲まれていると、実感もひとしおだ。
それにしても暑かった。日差しを避ける方法が全くないのだ。このままでは全員日射病になってしまう。
俺はスマホを取り出した。実は対策がないわけではなかった。そう、【R-DL】機能だ。充電はまだ62%残っていた。これならなんとかなるだろう。
「ちょっと待ってて。今休めるところを用意する」
俺は二人に声をかけると、ブラウザを開いて検索を開始した。見ているのは「最新! 高機能ログハウス特集」だ。3LDK、太陽光発電、冷暖房バストイレ完備。よし、これだ。
さすがにこんなでかいものが【R-DL】出来るのか不安だったが、いや、いけるでしょ。
早速写真をタップし【R-DL】を開始。さすがに時間がかかる。しかもみるみる充電が減っていく。あー、また充電かぁ。あの感じ、あんまり好きじゃないなぁ。
サヤとシェリーは、信じられないという顔で、出現していくログハウスに目を奪われていた。うん。何もないところに突然家が現れようとしているんだから無理もない。
ログハウスは思ったより大きかった。三人にそれぞれ個室を用意すべく3LDKにしたからね。充電も一気に17%にまで落ちてしまった。
中に入ると、広いリビングに涼しげな内装、程よく効いた冷房に採光を兼ねた天窓と、もう完全に別世界だった。
俺はネクタイを緩めながら、所在なげにきょろきょろしている二人に声をかけた。
「とりあえず、冷たいものでも飲もう。これからどうするか、落ち着いて考えなきゃな」
キッチンにある大きな冷蔵庫を開けると、新鮮そうな食材と、ペットボトル入りのドリンクがたっぷり入っていた。冷蔵庫の横にはウォーターサーバーまで付属している。マジか。元の世界での俺んちの何倍も快適なんですけど。
多分ジュースなど飲んだことがない二人には炭酸飲料はまだちょっと刺激が強すぎるな。
俺はグラス三つに氷を入れ、2リットルペットボトルを一本抱えてテーブルに運んだ。
三つのグラスに注いだ透明な液体。サヤもシェリーも喉が渇いているのだろう、興味津々な顔でテーブルについた。
俺は一気に飲み干して見せる。あー、懐かしい味。あっちの世界の飲み物だというのもあるが、そもそも大人になってからはあんまり飲んでいなかったせいもあって懐かしさが強い。
「くぁ~! うめぇっ!」
思わず地が出てしまう。イケボには似合わない台詞だったか。
しかし、その俺の様子をキラキラ光る目で見ていた二人は、それぞれグラスを取ってぐいっとひと飲みした。あ、いきなりその勢いで飲むのはやめた方が……。
「~~~~!!」
二人の、声にならない声。二人とも、完全に固まってしまっていた。
サヤはグラスを置いて、両手で口を押さえて涙を流している。シェリーはきつく口を閉じたまま、右手に持ったグラスを信じられない物を見る驚きの眼で凝視していた。
そう。グラスの中身は、サイダー! やっぱ暑い日にはこれでしょ!
炭酸飲料はまだちょっと刺激が強すぎるな、とは思ったが、だからこそでしょうよ。やっぱり。
「こ、これなぁに? おにいちゃん……」
シェリーがやっと口を開いた。
「おいしいだろ? 暑い時にはやっぱりサイダーが一番だよな!」
俺はそう言うと、もう一杯グラスに注いで飲み干した。あ。いかん。げっぷ出そう。
「カイ様、痛いです……」
やっとの事で飲み込んで、サヤが涙目になって訴えかけた。
「最初はね、痛いもんなんだ。だけど慣れてくれば美味しさがわかるようになる。それが、大人になるってことなんだ」
なんだこの意味深な言い方。なんか前の世界の味を味わったせいか、変なテンションになってるぞ。
それにしても胃の辺りがもう限界近くなっていた。いや、もうげっぷ出る。さすがに美少女二人の前で盛大にげっぷするのははばかられる。
「……ちょっと、着替えてくる」
俺はやっとの事でそう言うと、真ん中の部屋に駆け込んで、盛大にげっぷを放った。
次回予告。
サヤです。
いよいよ無人島生活がスタートしました!
着替えも済ませ、一息ついた私達。
しかし、カイ様に不気味な気配が……。
次回、Take It All! 第三十六話
「見られている……?」お楽しみに!
私も、一生懸命料理の腕を振るいますっ♪




