第二十八話 緑の戦士
ファミルエリシャの乗っている魔操鎧は全高18m位の大きさがあり、ゴーレムに引けを取らなかった。いや、ちょっとゴーレムより大きいか? いいなぁ、なんかずるい。
「ファミルエリシャ! 無事だったのか!」
シェライアの声が弾んだ。あのいけすかない男ズに軟禁でもされていたのだろうか。しかしなにはともあれ無傷で、しかも強力な援軍として駆けつけてきてくれたのは、もうさすがという他はない。
「ごめんなさいね、ちょっと駆けつけるのに手間取ってしまって」
ファミルエリシャは機銃でゴーレムを牽制しながら言った。この余裕発言。長老直轄の警備兵長の面目躍如というところだ。さすが。
「カイ様を……放せぇぇええ!!」
サヤの声が響いた。シェライアの回復呪文を受けて意識を取り戻したサヤが、カグツチ・カノンをぶうんと振った。いや、だからそれは……って、えええっ!
殴るのに使っている薬室部分がドンッと膨らんだ。その大きさたるや、直径3mほど。うそだろマジか。体積にしたらガイオウ以上だぞ。
「うおおおぉぉぉおおお!」
巨大なハンマー状のカグツチ・カノンを、ガイオウの右腕を掴んでいるゴーレムにたたきつける。カグツチ・カノンはゴーレムの右肩口に直撃し、ゴーレムの右腕が肩からもげ落ちた。
「カイ様! 今です!」
俺はサヤのおかげで自由になった右手で、左腕を掴んでいるゴーレムの手首を捕えた。ギリギリギリ……と力を加え、ガイオウの指先をめり込ませていく。
引きちぎるように、掴み潰すように、ゴーレムの腕を破壊して自由になった俺は、ガイオウ渾身の回し蹴りを放った。目前のゴーレムは胴体からまっぷたつに折れ、それぞれ吹き飛んでいった。だがしかし、その後ろにはまだまだ十数体のゴーレムが控えている。
ファミルエリシャの魔操鎧が俺を援護するように近づいてきた。かなり心強いが、やはり圧倒的に不利だった。二体の魔操鎧だけなら戦いようはあるだろうが、こっちにはシェライアや長老、そして気が抜けたようにぺたんと座り込んでいるサヤがいる。彼女達を守りきるには、二体では正直きつい。
「ファミルエリシャ、緑の鎧を使え! その魔操鎧は私が使ってみせる!」
シェライアがファミルエリシャの魔操鎧の足元で叫んだ。そうか。ファミルエリシャは緑の鎧の最有力候補なんだっけ。
なんとなく違和感を覚えたが、この状況で戦力が増えるのは大歓迎だった。多分、緑の鎧もガイオウと同じく特別な機体なのだろうし、大幅な戦力アップだ。二機で三人を守るより、三機で二人を守る方が明らかに有利だし。
「私はだめよ、シェライア。緑の鎧には、私は似合わないわ。私は、シェライアが乗るべきだと思う。シェライアなら出来るはずだって信じてる」
ファミルエリシャはそう言うと、魔操鎧をゴーレムの集団に向けた。
「それに、この魔操鎧【スプリーム】は私専用に開発されたもの。私以外には扱えないわ」
【スプリーム】。それがファミルエリシャの魔操鎧の名前か。なかなかかっこいいな。うん。
ファミルエリシャはスプリームの肩に装備された機銃を、ゴーレムに向かってばらまいた。しかし機銃程度ではゴーレムの進行速度を少し落とす程度の威力しかない。
「さっきの、あのすごいやつは撃てませんか?」
俺はガイオウをゴーレム集団に走らせながら叫んだ。
「ごめんなさい、あれはエネルギー消費が激しいので、再チャージにはもう少し時間がかかるんです」
「シェライア! 緑の鎧で援護してくれ!」
俺は叫びながら真ん中のゴーレムに体当たりを食らわした。ゴーレムの巨体が軽々と跳ね飛ばされていく。だがやはりこの作戦は無謀だった。いくらガイオウとは言えど、手足は合計四本しかない。どんなに頑張っても、五体以上を同時に相手にする事は不可能だった。
三体のゴーレムを弾き飛ばしたところで、ガイオウは脚を払われて倒れた。かわるがわる棍棒が振り下ろされる。全く途切れない打撃の雨に、起き上がることすら出来ない。
「カイ殿! ……私には緑の鎧など無理だ……。私などに……」
シェライアの悲しげな声が、棍棒で殴られる衝撃音の合間に聞こえてきた。
「出来るか出来ないか、試してみないとわからないでしょう!」
緑の鎧へ向かったゴーレムの一団を、機銃とトンファーで牽制しながらファミルエリシャが叱咤した。え、トンファー? ちょっとスプリームかっこよすぎやしないか。
「しかし……」
それでもシェライアはうつむいていた。その声で、心が凍り付いているのがわかる。自分には出来ないと決め付け、出来るかも知れないと思う事すら拒否しているようだった。
だが……本当の気持ちは別のところにあるんじゃないか。あの小さな体で、必死に無理をしているんじゃないか。
「行きなさい、シェライア。緑の戦士よ」
長老が厳かに言った。崩れかけたギャラリーにぶら下がったままで。いや、いい加減下りろし。
「わしは見ていた。大地の宝玉が緑色に輝くのを。その輝きは、お主の心そのものだ。シェライア。お主ならば、緑の鎧は扱えるはずだ」
俺を殴り続けるゴーレムたちは全く疲れを見せなかった。今んとこ全然問題ないんだけど、さすがに永遠に殴られ続けたら壊れるかもしれない。
「ねえマスター、なんとかならないのー?」
いや、何とか起き上がろうとはしてるんだけどね。頭を持ち上げたところでどうせすぐ叩きつけられるから、ちょっと休んでるとこ。
「シェライア! お願い、カイ様を助けて!」
サヤが必死に叫んだ。シェライアは静かに、重々しくうなずいた。
「……わかった。やってみよう」
片膝をついた像に歩み寄っていくシェライアは、さらに心が固くなっているように見えた。義務感とも違う、使命感とも違う。だが、『こうしなければならないのだ』という思いだけで動いているような、そんな印象が強くなっている。無理をして、自分を偽っているような……。
シェライアが像に触れると、両腕の緑の腕輪がはずれ、宝玉に戻った。
鈍く緑色に光る宝玉。それに呼応するかのように、像が緑色に変わって行く。
「緑の鎧が、蘇る……!」
「シェライア、まさか……!」
長老とファミルエリシャが同時につぶやいた。
シェライアははっとして手を引っ込めた。
「わ、私が……緑の鎧を……?」
信じられないという声だ。
「よかった! シェライア、カイ様をお願い!」
サヤが心から嬉しそうに叫んだ。
「よし……っ!」
シェライアが緑の宝玉を緑の鎧に向けて掲げると、像から発した緑色の光がシェライアを包んだ。
そして、シェライアの身体は浮き上がり、像に吸い込まれていった。
次回予告。
サヤです。
緑の鎧に乗り込んだシェライア。でも……。
シェライアの心に潜む闇。
カイ様はシェライアの心を救えるのか!?
次回、Take It All! 第二十九話
「シェライアの【鍵】。」お楽しみに!
うぅ、いいなぁシェライア……。




