第二十三話 宝玉、そして……巨大ロボット?
「これは……何かの部屋だろうか」
シェライアが壁の紋様に手を触れながら言った。【光の道】のとはまた違う紋様。上下左右と中央に、紋章らしきものが刻印されていた。もちろん全く意味はわからない。だが、この通路の先に部屋がある事は、地図アプリでわかっていた。
「静か……ですね……」
サヤが少し怯えた声を出した。俺が彼女の手をそっと撫でると、サヤはにっこりと笑って、うなずいた。
確かに不気味なほど静かだった。つい先ほどの揺れと破壊音が嘘のようだ。衛兵達がこの通路を発見し、追いかけてくる気配もない。本当に大昔に忘れ去られ、存在を知るものもいないのだろう。
俺はマップを確認した。この壁の先に部屋。そしてその突き当りからさらに通路。枝分かれする事もなく、この神殿の中心に向かっている。その中心部に、ミュウの赤い点が移動してきていた。
「この先が、神殿の中心に続いてる。ミュウもきっとそこにいるはずだ。急ごう」
俺は指先で、壁の紋様にそっと触れた。
上下左右に刻まれた紋章が4色の光を放ち、俺達の目をくらませた。まだまだ目は暗さの方に慣れているのだ。
光が収まった時、目の前の壁は消えていた。
その部屋は、武器庫だった。
何列にもラックが並び、細身の剣やクロスボウといったクラシカルな武器が並んでいた。収納されて以来忘れられ、一度も使われていなかった武器たちは、既に使える状態ではなくなっていた。
「これは……歴史の遺物というやつだな……」
サヤに続いて入って来たシェライアが部屋を見回して感嘆のため息を漏らす。その後ろで音もなく壁がスライドし、通路と部屋を分断した。
「はやく、先に行きましょう……」
サヤが累々たる武器のミイラ達に怯え、俺の腕にしがみついてきた。だが俺は一つ、気になることがあった。
「サヤ、ごめん、ちょっと待って」
部屋の左側の壁が気になっていたのだ。この部屋はほぼ正方形で、通路から左右均等に広がっている。が、マップ画面では、この部屋のすぐ左に細長い部屋がくっついていて、全体では長方形になっているのだ。これは何かあるに違いない。
サヤは俺の腕にしがみついたままついてきた。シェライアも壁を調べ始めた俺に続き、コツコツと壁を叩いてみたりしている。
俺が壁の中央あたりに触れた時、壁は音もなく崩れ、人が一人通れる位の穴が開いた。
おそるおそる中をのぞいてみると、奥の壁には鈍く光る四つの祭壇が作られていた。いや、五つだ。だが、中央に位置する祭壇は光っていなかった。
光のない祭壇の真下に位置する祭壇には緑の光、右の祭壇は赤、左には青。そして真上にある祭壇は白い光を放っていた。
「きれい……」
サヤが思わずため息を漏らす。この【祭壇の間】というべき部屋の中は、四つの光が混じって幻想的な雰囲気を醸し出していた。
それにしても【鍵】の能力の万能っぷりは凄まじかった。この祭壇の間を封じていたのは扉+鍵ではなくて、壁だったのだ。要は完全にふさがれていたわけだ。その塗りこめられた壁まで崩してしまうとは。
さすがは最高レベルのチート能力。侮れん。
祭壇の間に入ってみると、祭壇に祭られて鈍い光を放っているのは、直径10cmくらいの宝玉だった。
「カイ殿、これは……?」
サヤとシェライアも続いて入ってきて、きょろきょろと見回していた。
「きれいですね……」
サヤが魅入られたように赤い祭壇に近づいた。
「おい、サヤ……?」
サヤが宝玉に手を伸ばすのを見て、俺は慌てて声をかけた。さすがに勝手に触れてはまずくないか?
「あ……はい、カイ様……」
少しぼうっとした表情のサヤ。宝玉の光に引き寄せられているように心ここにあらずと言った感じだ。
シェライアも、緑色の宝玉に手を伸ばしていた。
俺が声をかけようとした時、赤い宝玉と緑の宝玉が強い光を放ち、サヤとシェライアの腕の中に飛び込んでいった。まるで、二人と共にここから出たいという意思を持っているかのように。
「これは……一体……」
シェライアが宝玉を抱くようにして見つめながらつぶやいた。
「あったかい……」
サヤも宝玉を胸に抱きしめ、感じ入ったように言った。
そういえば、二人の心の色はちょうど宝玉と同じ色だった。宝玉が二人に共鳴しているのかも知れない。
俺に共鳴する宝玉はないようだった。他の三つの宝玉に、全く変化はない。
「たぶん、この玉は君たちのものだと思う。君たちが近づいたら光が強まったし、玉の方から君たちに引き寄せられていった。持って行ってしまっていいと思う」
俺はそう言いながら、残りの三つの宝玉にスマホを向けた。俺もかなりこの宝玉に興味をひかれていたのだ。
俺はスマホのカメラに宝玉を捉えると、【O-TS】機能を使用した。
オブジェクトテンポラリーセーブ機能。物体をそのままスマホ内のメモリに一時保存する機能だ。実は昨日まで着ていた服や浴衣などもこれで保存してある。まぁ、四次〇ポケットみたいなものだ。
スマホの画面をタップすると、残り三つの宝玉が消え、スマホの中に保存された。
全ての祭壇から宝玉が消えると、静かだった武器庫に断続的に続く衝撃音が響いてきた。
「カイ様っ」
サヤがおびえて俺の腕にしがみついてくる。
そうか、この空間はこの宝玉によって守られていたのか。この隠し通路に入ってから不気味なほど静かだったのは、宝玉によってある種の封印が機能していたからなのだろう。今までここが手付かずだったのも、それが理由だったのかも知れない。
「カイ殿、急いだ方が良さそうだ」
シェライアがそう言って壁の穴をくぐった。シェライアの言うとおりだった。天井からぱらぱらと砂や石のかけらが落ち始めている。この上で何が起きているんだ?
俺はサヤを壁の穴に押し込んで元の武器庫へ押しやり、祭壇の間を出た。
最初に入ってきたのと逆側の壁を触って扉を開き、さらに通路を進む。地図アプリでこの先が神殿の中心部へ続いていることはわかっていた。ミュウを示す赤い点もその付近をゆっくり移動している。
「急ごう、この先にミュウもいる!」
振動と衝撃音は続いていた。天井にひびが入り始めていた。この通路が崩れるのは時間の問題だろう。俺は二人の手を取って走り始めた。
通路の先の螺旋階段を上ると、突き当たりになっていた。聞こえてくる衝撃音は激しく、大きくなっている。この向こうで、何が起きているのか。
俺は意を決して突き当たりの壁に手を触れた。壁が光り、音もなく上にスライドしていく。
天井の高い、広大な空間が目の前に広がった。
「これは……大聖堂……」
シェライアが声にならない声でつぶやいた。
大地の神殿の中心部、エルフの大聖堂に俺達は立っていたのだ。
俺達が出てきたのは大聖堂の一番奥だった。衝撃音は大聖堂の外から聞こえてくる。地図によると、大聖堂の外は中庭になっているはずだ。
何が起きているんだ。
「カイ様……」
サヤが心細い声を出し、俺の腕にしがみついた。自分がとんでもないところへ来てしまったのではないかと言う恐怖がその表情に刻まれている。
シェライアも同様だった。いや、サヤ以上だったかもしれない。エルフにとって神聖不可侵な場所へ、許可も得ずに立ち入ってしまったのだ。シェライアの顔は青ざめていた。
だが、俺はこの衝撃音の原因が気になっていた。ミュウを示す赤い点が、中庭を回ってこの大聖堂に近づいて来ていたからだ。ミュウに更なる危険が迫っているという事だろう。
俺が中庭に面した大扉の方へ一歩踏み出した時、重々しくきしむ音を立てて大扉が開きはじめた。高さ30メートル、幅15メートルはある大扉が開いていくのは壮観だった。
開いた大扉の向こうに存在する衝撃音の正体が俺達の目に飛び込んできた。
巨大な人型の兵器による乱戦。
「シェライア、あれは?」
俺はシェライアを振り返った。シェライアは青ざめたまま、厳しい表情で口を開いた。
「あの大きい方、多分あれはゴーレムだ。魔操鎧部隊が出動しているところを見ると、あのゴーレム達は神殿に害をなす存在だという事だろうな」
詳細はよくわからないが、まぁ巨大ロボットによる戦闘中という認識で問題ないだろう。
さてどうするか。騒ぎに乗じてミュウを助け、神殿を脱出する事はできるのか。
「貴様ら! どうやってここに忍び込んだ!」
俺が答えを出す暇はなく、聞き覚えのある声が大聖堂内に響き渡った。
次回予告。
サヤです。
大地の神殿の中心、大聖堂は大変な事になっていました。
そして、私達にも魔の手が!
お願い、私にもカイ様を守る力を……!
次回、Take It All! 第二十四話
「覚醒~大聖堂の攻防~」お楽しみに!
私だって、キレる時はキレます!思いっきり!




