第二十四話 覚醒~大聖堂の攻防~
不快な声だった。それもそのはずだ。大聖堂の入り口から俺達に声をかけていたのは、あの「わかりやすいアホ悪役B」だった。
「長老、ここは我々に任せて、鎧の封印解除をお急ぎ下さい」
いけすかない男Aもいた。となると、あいつに声をかけられているご老人が長老という事か。
それにしてもでかいな長老。身長2m50cmくらいはありそうだ。身体もかなりゴツい。もうね、巨人。背が高いほど有能だというエルフの世界では、なるべくしてなった最高位なのだろうな。
大聖堂入り口に現れたのは、六人。
①:いけすかない男A。
②:わかりやすいアホ悪役B。
③:長老さんと思しき巨人。
④:長老よりは小さいが、2mくらいはありそうないかつい人。なんかえらそうな法衣を着て、顔はマスクで隠している。お前は赤い○星か。
⑤と⑥:多分下っ端。①と②の部下と思われる。
長老とマスクが大聖堂の二階、ギャラリー上の通路へと上がっていく。マスクの傍らを、きらりと光を引いてミュウが飛んでいた。
「ミュウ!」
俺は大声で呼びかけた。まるまる9話近いご無沙汰だ。しかし、ミュウは振り向きもしない。
「ミュウ! どうしたんだよ! 俺だ! カイだ! お前のマスターだ!」
「ミュウちゃん!」
しかし俺とサヤの必死の呼びかけにもミュウは無反応だ。
「……様子がおかしい」
シェライアが冷静につぶやいた。
「この距離でカイ殿の声が聞こえぬわけがない。ミュウ殿がカイ殿の言葉を無視するとは思えぬのだが……」
「叫んでも無駄だぜぇ、偽者のピクシーオーナー!」
いけすかない男Aが嘲るように言った。
「本物のピクシーオーナーが現れたんだ。ピクシーがお前ではなくてあの方に従っているのが何よりの証拠だよ。お前たちはピクシーオーナーを騙った罪人として、処刑されるんだ!」
そう言い放ついけすかない男Aの周りに、さらに下っ端と思しき男達が集まってきていた。これはやばい。
「ファミルエリシャはどうした! 彼女ならそのような一方的な判断は許さぬはずだ!」
シェライアが小さな身体を震わせて叫んだ。そうだ、彼女ならわかってくれるはずだ。
「ファミルエリシャぁ……?」
わかりやすいアホ悪役Bが鼻で笑うようにその名前を口にした。いけすかない男Aと顔を見合わせて意味ありげに笑う。
「ファミルエリシャが来てくれたらいいなぁ、チビすけ」
集まってくる人数が増えるごとにどんどん態度が高慢になっていくあたり、ほんとわかりやすいなこいつは。
「ファミルエリシャ様は、なんか重要な用事があるんだってよ。お前らクズにかまってる暇なんかねえってさ」
十数人に膨れ上がった手下集団の先頭に立ち、いけすかない男Aとわかりやすいアホ悪役Bが俺たちに近づいてきた。
「まさか……! 貴様ら、ファミルエリシャに何をした……!」
シェライアのかみしめるような声。
「さあね。ファミルエリシャ様にだってここに来られない事情があるんだよ。なかなか手が離せないんじゃねえかなぁ」
「白々しい……!」
シェライアがこぶしを握りしめていた。目の中に緑色の炎が見えた。
「カイ様、下がってください……!」
サヤが決然とした顔で俺をかばうように前に立った。この間の魔法の威力が頭に残っているのだろう。いや、でもあれは……。
「ズー・シュー・カラ・ベールフェムト……。現れよ! 護りの炎! 炎の障壁!」
サヤのかわいい声が大聖堂に響き渡った。
一瞬エルフたちは怯んだが、やはり何も起こらない。
「あれ……? また……」
サヤの顔が青ざめた。エルフ連中の中から徐々に起こる笑い声。
「へぇぇ、魔法使えないのか? クズな人間の中でも、特にクズってわけだ」
わかりやすいアホ悪役Bが言った。やべえ、こいつほんとにムカつく。
とは言えサヤの呪文を唱えるわけにはいかなかった。あいつらに一泡吹かせてやる事はできるが、その後サヤが行動不能になってしまう。
俺は周囲を見回した。大勢に対抗するには、細い通路に入った方が有利だ。しかし崩れかけた隠し通路に飛び込むわけにはいかないし……。
ギャラリーではマスクがミュウを連れて走っていた。長老は立ち止まって俺たちのやり取りを見下ろしている。
マスクが向かう先、大聖堂最奥の祭壇に、二つの巨像が安置されていた。中央に位置する全高6mほどの立像。そしてその横に片膝をついてかしずいている像。こちらの方が巨大だった。立ち上がったら20m位はあるだろう。ギャラリーはそれらのそばまで続いていた。
ギャラリーに上る階段がもう一つ。それが今の俺たちに一番近い逃げ道だ。だが奴らに捕まらずに俺たちがそこに到達するのは距離的に不可能そうだった。絶体絶命と言っていい。
「すまないな、カイ殿。このような不快な目にあわせてしまって。エルフを代表してお詫びする」
シェライアが一歩前に進んで言った。
「私の力では彼らには通用しない。だがせめて足止めはする。カイ殿はサヤを連れてあの階段まで走ってくれ」
シェライアは小声でそう言うと、さらに一歩前に出た。
「シェライア、ダメだよ!」
必死に止めようとするサヤに、シェライアは覚悟を決めた笑顔を見せた。
「行け、サヤ。カイ殿は本物のピクシーオーナーであるはずだ。白き鎧だって……」
しかし、シェライアの言葉をかき消すように、わかりやすいアホ悪役Bの笑い声が響いた。
「人間ごときがどんなに頑張ったって、伝説の英雄であるピクシーオーナーになれるわけがねえだろ! クズ人間とちびエルフ連れただけの【ただの男】が、我々エルフを騙そうなんてなぁ……」
「うるせえ!」
俺は叫んだ。もうさすがに我慢の限界を突破していた。シェライアが連れてきてくれた所だから、ファミルエリシャの部下たちでもあるからと我慢してきたのだ。でももう無理。無理です。
「おい、そこのわかりやすい単純クソアホ悪役B! てめえだ。……いやおめえだよ。今てめえが言った、クズだのちびだのって言うのは、俺の大事なこの二人の事か?」
一瞬自分の事だとわからなかったようなので、念を押してやる親切ぶりを発揮して、俺はわかりやすい単純クソアホ悪役B(突然ですが改名しました)を指さした。
俺のあまりの剣幕|(しかも超絶イケボ)に、わかりやすい単純クソアホ悪役Bは一瞬たじろいだが、状況が圧倒的に有利な事を思い出して、なんとか心を持ち直す。
「そ、それがどう……」
「許さぬ……」
わかりやすい単純クソアホ悪役Bにかぶせてシェライアの怒りの声が響き、続けてサヤの声が轟いた。
「カイ様を、侮辱するなぁぁあああ!」
二人とも、完全にブチ切れていた。
赤い光と緑の光が二人の身体から発していた。いや、正確には彼女達が持っている宝玉が強い光を発していた。
シェライアが腰に下げていた袋、そしてサヤのお尻のポケットから宝玉が飛び出して、二人を光で包んだ。
エルフ達は目をくらまされてうめき声を出した。小さいほうの立像にたどり着いたマスクはこちらの様子をちらっと見たが、ミュウとともに像の陰に姿を消した。
長老は身を乗り出すようにしてこちらを見ている。
光がおさまった時、二つの宝玉は完全に形を変えていた。
シェライアの両手首には緑色の腕輪が、サヤの腰にはガンベルトが巻き付いていた。赤いカラーリングのサブマシンガンのような大きさの銃が下がっている。
「これは一体……」
シェライアが腕輪を見つめてつぶやいた。
「……アイビー……ウィップ……?」
腕輪に刻まれた文言を読み上げるようなシェライアのつぶやき。腕輪はそれに呼応した。
腕輪の手のひら側から、いばらの蔓のような物がスルスルと伸びた。長い。十数メートルはあるだろうか。
シェライアが腕を振ると、その蔓はシェライアの意志のままに動き、エルフ達を薙ぎ払った。
次回予告。
シェライアだ。
戦う力を手に入れた私達。さぁ、反撃だ。
ミュウ殿を取り戻すぞ!
しかし、ミュウ殿の様子がおかしい。まさか、これは……!
次回、Take It All! 第二十五話
「禁呪を打ち破る秘策。」お楽しみに!
……こんな魔法を使う奴はクズだ! 許せぬ!




