第二十二話 【鍵】→【鍵】→おっぱい、そして壁。
扉は音もなくスーッと開いた。おお、マジか。鍵が開いたらこの重そうな扉を開けなきゃいけないんだと覚悟していたのだが、この能力、アフターケアもバッチリだな。
「か、カイ殿、いったいどうやって……」
俺がさっさと部屋を出ると、シェライアが驚いて追いかけてきた。
「まぁね。俺は自由人だからさ。俺を閉じ込めておける鍵なんか存在しないんだ」
俺の超絶イケボがきらきらと反響する。なんか俺、こっちの世界に来てからだいぶキザになった気がする。
「さすがカイ様! だからさっき、あんなに余裕たっぷりだったんですねっ!」
サヤが目をハートにして俺を見上げた。
「さて……とりあえず、ミュウを助けに行くぞ」
スマホの表示からすると、ミュウの赤い点と、俺らの現在地ではまぁまぁ距離がある。見つからずに進むのは難しそうだった。
こういう時、良くあるのが「敵から服を奪ってなりすます」という作戦だが、これは無理だろう。何しろ、身長が違いすぎる。
まぁやばそうだったらどっかの部屋にもぐりこむという手もある。音を立てずに扉を開く事ができるのはかなりラッキーだ。
俺はミュウの居場所までの最短ルートを検索し、ミュウ奪還に向かった。
「ファミルエリシャは無事だろうか……」
シェライアがぽつりとつぶやいた。俺も気になっていたところだ。
本来なら俺達を迎えに来るのは彼女だったはずだ。あの、わかりやすいアホ悪役Bが彼女の代理になれるわけがない。「急用」などと言っていたが、彼女までが監禁されている可能性すらある。
「え、ファミルエリシャさん、危険なんですか? どうして?」
サヤが不思議そうに聞いた。サヤにしてみれば、位も高く優しいファミルエリシャが危険にさらされているなんて信じられないのだろう。
「ファミルエリシャは私や人間を差別したりはしない。だから他の高位のエルフ達から疎まれていたのかも知れぬ」
シェライアの言う通りだった。人間である俺がピクシーオーナーであるなど許せない、という輩からして見れば、差別主義者ではないファミルエリシャが邪魔である事は間違いないだろう。
大地の神殿を守る民の長老という人物が、果たしてどちらに与する者なのか――。
まぁ、もし長老が差別主義者側であったのなら、いくら実力があろうがファミルエリシャを要職につける事などありえないだろう。
「そうだな。ファミルエリシャもきっちり助け出してやらなきゃな」
励ますように、二人の肩をぽん、と叩いた時、突然地面が激しく揺れ、何かの破壊音が聞こえた。続いて衛兵と思われるエルフ達の声が近づいてきた。
「逃げるぞ!」
俺は二人に叫んだ。二人は揺れと音に度肝を抜かれて呆然としている。しかし、衛兵に見つかったら相当ヤバい。爆破テロの犯人か、もしくは仲間だと思われるのは必至だ。
地図によるとこの付近に隠し通路があるらしい。ご都合主義なようだが事実なのだから仕方がない。これも中心に近づいているせいだろう。
しかし、入り口らしき物は全く見当たらなかった。そりゃ【隠し】てあるのだから当然なのだろうが、それにしても開け閉めしたわずかな痕跡とか、そういうのも全くなかった。もしかしたら作られた直後に忘れられて、一度も開いた事がないのかも知れない。
まずい、とにかく入れるところを探さないと。
「サヤ、シェライア、ついてきて!」
俺は二人の肩をゆすって正気づかせ、通路の端に身を寄せてさらに奥に向かった。
三歩歩いたその時、俺の足元が音もなく開き、俺の身体は支点を失って、石の階段を転げ落ちていった。
痛い。クソ痛ぇ。
もうね、痛いという事しか考えられないくらい痛い。だって石の階段だぜ? 固いんだぜ? 多分まるまる3階分くらいは転げ落ちたと思われる。気を失わなかった俺、偉すぎる。
「カイ様ー! 大丈夫ですかー?」
サヤの声が上から降ってきた。
見上げると、俺が落ちたと思われる穴からサヤとシェライアが降りてこようとしていた。
そうか。隠し通路の入り口は足元にあったんだ。俺がそこを踏むか触るかしたせいで入り口の鍵が開き、扉自体も開いたってことね。【鍵】能力の効果すげえ。すげえ痛い。
それにしても入り口、意外と近いな。10段くらいしかない。3階分くらい落ちたと思ったのは気のせいだったらしい。
隠し通路の中は暗く、サヤたちはおそるおそるといった足取りだった。下から見上げる俺の視界にサヤの生脚が踊る。あー、こんなことならショートパンツじゃなくてミニスカートにしておけば良かった!
後に続くシェライアはスカートタイプの衣装だ。期待値は高い。
サヤの脚が至近距離に近づき、シェライアのスカートの中が覗けそうな角度にさしかかった時、音もなく通路の入り口が閉まり、俺達は闇に包まれた。
「サヤ、シェライア、大丈夫か?」
完全に光が遮断された闇の中で、サヤとシェライアの息遣いが聞こえた。恐怖に震える息遣い。階段の途中で突然暗くなり、身動きが取れなくなっているようだ。
光が完全に閉ざされている闇の中では、いくら目が慣れたところで何も見えるようにはならない。
「大丈夫だ……が、何も見えぬ……」
「カイ様はご無事ですか? お怪我とかされてませんか……?」
二人の恐怖交じりの声が、少しずつ近づいているのがわかる。俺の事を心配してくれているのか……。
「大丈夫。二人とも、無理するな。ちょっと待ってて」
俺はまだ痛む体にうめきながら、ごそごそとスマホを探した。当然ながらライトの機能はついている。これが俺の、【閃光の魔術師】たる所以だ。
やっとの事でスマホを取り出し、画面をタップすると、画面から強烈な光があふれ出した。
「きゃっ!」
至近距離でサヤの声がした。サヤの顔がすぐそばにあった。手探りでここまで近づいて来ていたらしい。
サヤが突然の光にびっくりしてバランスを崩した。次の瞬間、サヤの悲鳴とともに、俺はまた、目の前が真っ暗になった。
甘酸っぱいいい匂いと、顔中に広がる柔らかい感触。こ、これは……!
「ぁん……っ」
サヤがたまらず漏らしたため息まじりの声が俺の耳をくすぐった。いやもうだめだ。脳みそとろける。
「あ、あ、カイ様! ご、ごめんなさいっ!」
サヤが慌てて身を起こす。俺の目の前でサヤのおっぱいが遠ざかっていった。サヤは俺の上に倒れ掛かり、その胸が俺の顔に押し付けられていたわけだ。
くー!! こんな事ならプレゼントの下着はパンツだけにするべきだった!
サヤはきゅっと自分の胸を抱きしめるようにして、本当に申し訳なさそうに何度も俺に謝った。いや、謝る事ないぞサヤ。むしろお礼を言いたい!
身体中でがなり立てていた痛みの大合唱が、嘘のように気にならなくなっていた。いやほんと、おっぱいの威力は偉大だ。
シェライアが、スマホ画面から漏れる明かりを頼りに降りてきた。最初見た時は強烈な光と感じたが、何のことはない。単なる待ち受け画面の明るさが、暗闇に慣れきった目にまぶしかっただけだったのだ。
俺は改めてスマホのライトを点けた。今度は本当に、結構強烈な光が周囲を照らした。
「おぉ……」
シェライアが感嘆の声を漏らす。ランプなどとは比較にならない光だ。
「さすが、【閃光の魔術師】様ですねっ!」
サヤのテンションも上がっていた。ここのところ、俺が【ピクシーオーナー】とばかり言われていたから、やっぱり内心フラストレーションを抱えていたのだろう。
「む……ぅ」
シェライアは納得したくない様子だったが、目の前で俺が閃光を発している現在、反論のしようがないといったところだ。
「さぁ、先に進むぞ」
二人のそんなさや当てを敢えてスルーして、俺は通路の奥へ向かった。
「あ、カイ様!」
「カイ殿!」
二人は慌てて俺に追いつき、腕を取った。
いや、通路狭いから、横に並ぶなって……!
左右から身体を押し付けてくる二人の美少女の感触を心地よく感じながら、俺は通路の突き当たり、また不思議な紋様の入った壁の前に到着した。
次回予告。
シェライアだ。
暗闇の通路を進む私達の前に現れたのは、謎の部屋だった。
古き結界に守られたその部屋にあったものとは……!?
そして、地上に出たカイ殿を襲う更なるピンチ!
次回、Take It All! 第二十三話
「宝玉、そして……巨大ロボット?」お楽しみに!
あ、あれは、まさか……!




