第二十話 大地の神殿へ
「さ、サヤ、その格好……」
俺はどぎまぎして視線を反らした。刺激が強すぎるぞもう。
「似合います? 私、ビキニアーマーって着た事なかったから、ちょっと恥ずかしいな……」
び、ビキニアーマー?
「カイ殿、このマント、付け方はこうで良いのだろうか」
ま、マント?
ゆっくりと二人の方を向くと、やはりサヤの姿が目に飛び込んでくる。なんとも目の毒だ。
サヤは水色のショートパンツに薄ピンクの縞ブラだけの姿。シェライアは女剣士の服をしっかり着込んで、白のノースリーブを背中に纏おうとしている。ノースリーブの肩の部分を首の前で結ぼうと苦労していた。
「珍しいデザインのマントだが……ここに……留め金とかは、ないのか……?」
ダメダメダメ、そんなに引っ張ったら破れる!
「シェライア、ちょ、ストップ! それマントじゃないから!」
俺はシェライアからノースリーブを取り上げ、サヤにすっぽりとかぶせた。
「これはこうやって、サヤが着る服なんだよ、もう!」
「そうだったんですね。確かにこのトップス、アーマーにしては柔らかいなって思っていたんですけど……」
サヤはノースリーブに腕を通しながら申し訳なさそうに言った。
「でも、どうしてこんな重ね着するんですか?」
どうやらこの世界には、下着のブラジャーの概念がないらしい。そういえばサヤはずっとノーブラだった。なるほど、それで水着やビキニアーマーのように、下着ではない「トップス」だと思ったんだ。
「その方が、楽じゃない? ……かな?」
サヤは少し体をゆすったり飛び跳ねたりして、ぱっと顔を輝かせた。
「ほんとです! すごく楽です! さすがカイ様! ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げるサヤの胸元から、良い感じのブラチラ。ブラがなかったら……とかも思うが、これはこれで捨てがたい。
そのままアウターだと誤解させといてもよかったかな、とか、ずっとノーブラのままでいさせても良かったかな、とか、よからぬ考えが頭をよぎったが、これはこれでよかったと思うことにしよう。うん。じゃないと俺の理性がやばい。
ルームサービスで朝食が運ばれてきたのをしおに、俺達はリビングに移動して朝食を摂った。
午後。
ミュウの位置を表すと思われる赤い点は、また少し右に動いていた。この微妙すぎる動き、一体どんな状況なのだろう。
俺は真新しいスーツをビシッと身につけた。
うーんやはり仕立てのいいスーツを着るというのはいいものだ。気が引き締まる思いだった。
「営業マンたるもの、イザと言う時の一張羅は用意しておくもんだ。戦闘服だからな」
世話になった先輩営業マン(超有能)の言葉を思い出す。まぁ、その一張羅はコーヒーまみれになっちゃったわけだけど。
俺は引き締まった漢の顔になって、リビングに出た。
サヤとシェライアがお茶を飲んでいた。いや、シェライアは表情を固くして、縮こまっていた。いよいよ近づいてきた長老との面会に、改めて緊張し始めたのだろう。
「もうそろそろかな?」
俺は二人に声をかけた。超絶イケボ+スーツ。最強の組み合わせだ。
「あ、カイ様!」
二人がいっせいに振り向いた。そして、表情が固まった。……え?
「……カイ殿、あー……、随分と、奇抜な格好だな」
え? 奇抜? いやむしろ、どフォーマルなんですけど!
そうか、この世界ではスーツは存在しないのか。この世界では、全体的に動きやすい洋服が発達しているようだった。スーツみたいな服は「見たこともない奇抜な服」になるのだろう。
「そ、そんなに変かな……?」
「いえ! そ、そんな事ないです! す、素敵ですっ!」
サヤが慌ててフォローを入れた。が、いつもの、目がハートになっている感じではない。やっぱちょっと引いてるんじゃ?
まぁだからと言って失礼にあたる事もあるまい。見慣れてないからちょっと奇妙に見えるだけで、曲がりなりにもスーツだ。そのうちこの二人にもその魅力がわかるに違いない。
俺がそう思って必死で自分を慰めていると、部屋のドアがノックされた。ファミルエリシャが迎えに来たようだ。
「……いよいよだな」
シェライアが覚悟を決めて立ち上がった。
「よし、行こう」
意を決してドアを開けると、そこに立っていたのは「もっといけすかない男B」だった。
「ファミルエリシャはどうしたのだ? 彼女が迎えに来るものと思っていたが」
宿から神殿に向かう馬車のようなものの中で、シェライアがもっといけすかない男Bに尋ねた。この「馬車のようなもの」というのは、構造的には馬車と同じなのだが、引いているのが馬ではないからだ。こちらの世界の動物で、名前がわからないのだから仕方がない。
もっといけすかない男Bの態度は昨日と全然違っていた。宿でも挨拶の後、昨日の態度について丁寧な謝罪があったほどだ。ファミルエリシャからみっちりお説教でもされたのだろうか。まさかこのスーツの威力という事でもあるまい。
「申し訳ありません。ファミルエリシャ様は急用が入ったとのことで、私が案内役を仰せつかりました。著しく礼を失していることは重々承知しておりますが、何卒ご容赦下さい」
丁寧だった。丁寧すぎるくらいだった。なんか怪しいぞ。
俺は疑念の目で、もっといけすかない男Bを見た。
俺は女子の言葉は信じる方だが、その分男の言葉は疑ってかかる癖がある。まぁそれで元の世界では随分失敗をしてきたものだが、それは「可愛い女子の言葉を信じすぎたことによる失敗」であって、「男を疑ってかかった事による失敗」はない。なかった。……はずだ。うん。
俺達の乗った馬車のようなものが神殿の門をくぐり、止まった。
馬車のようなものを降りると、荘厳な石造りの神殿が目の前にそびえ立っていた。その威容。迫力。何かすごい力が満ち溢れ、流れているような感覚。そんじょそこらのパワースポットとはわけが違うという事だろう。
シェライアじゃなくても気圧されて身震いしてしまうほどだ。
「すごいですね……」
サヤがほうっとため息をついた。それ以上の言葉を思いつかなかったのか、そのまま黙ってしまう。
「こちらへどうぞ。長老と会食の準備が整っております」
もっといけすかない男Bがうやうやしく俺達にお辞儀をした。
俺は違和感を感じながら、彼の後に続いて神殿に足を踏み入れた。
神殿は広大な規模と複雑な内部構造を持っていた。中に入ってからもう10分以上歩いているだろうか。似たような石造りの壁。交差する通路。何度も角を曲がり、階段を上り、下り……、自分がどこにいるのか、もうさっぱりわからなくなっている。
こいつ、俺達をわざと歩き回らせてないか?
いやまさか、こいつ自身、道に迷ってるんじゃないだろうな?
そんな疑いがぐるぐると頭の中をかけまわる。
「申し訳ありません。このような構造になっておりますのは、神殿の中心部におります長老や、所蔵されている魔装鎧等を守るためでございまして……」
もっといけすかない男Bは本当に申し訳なさそうに言った。
「そうだろうな。私は神殿の中を歩くことが出来てとても光栄だ。気に病まれるな」
シェライアは健気にそう言ったが、サヤはもう結構疲れているっぽい。てゆうか、おなかが空いているっぽい。さすがに文句を言うほどはしたなくはないが、かなりテンションが低いのが見て取れた。
「一旦、こちらの部屋でお待ち下さい」
もっといけすかない男Bは通路の突き当たりにある扉を開いた。小ぢんまりした部屋で簡単なテーブルと椅子が置いてあった。待合室か?
「準備が出来次第、すぐにご案内します」
もっといけすかない男Bが丁寧にお辞儀をすると、サヤとシェライアは部屋に入ろうとした。やっと座れる、というほっとした雰囲気だ。
「サヤ、シェライア!」
俺はいやな予感がして二人を呼び止めた。
「どうしたんですか? カイ様」
サヤがきょとんとして振り向く。シェライアも不思議そうにこちらを見ていた。
「ピクシーオーナー、カイ様。何か?」
もっといけすかない男Bがにこやかに俺を見つめていた。正直、気持ち悪い。
「……いや、なんでもない」
俺はいやな予感が確信に変わっていくのを感じながら、サヤとシェライアに続いて部屋に入った。
石で出来た扉が重い音を立てて閉められた。
そして、鍵がかかる金属音が響いた。
次回予告。
シェライアだ。
罠に落ちたカイ殿と私達。
しかしカイ殿の自信は微塵も揺るがない。
一体どんな秘策があるというのだろうか。
次回、Take It All! 第二十一話
「罠と俺の決意」お楽しみに!
え、え? カイ殿、いくらなんでもそれは煽りすぎじゃ……




