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可変迷宮  作者:
第一部.BOY MEATS GIRL

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17.修理

目が覚めると、人に囲まれていた。

身体を起こして見回すと、王都の馬車着き場に止まっているようだ。

荷車の周りを、警備の兵士や通りがかりらしき人たちが興味深そうに覗き込んでいる。


「おい、生きてたぞ」

「誰だよ、陸走トカゲが死体を運んできたって言った奴は」


3人とも荷車で眠っていたので死体だと思われたらしい。

寝ていたのは俺だけで、イサナとセイサさんは酔いが酷くて倒れているのかもしれない。


「いや、女2人は死体かもしれんぞ、あれは生者の顔色じゃない」

「それなら、あの男は死霊使い(ネクロマンサー)かよ」


ひそひそ話がうるさくなって来て、ゾンビ扱いされている女子2人が目を覚ました。


「王都に着いたんですか……?」


イサナは顔が青白いのを通り越して土気色をしている。

途中で食べていた食事は戻してしまったのだろう、酸っぱい臭いが漂ってきた。


「うぐっ……! なんて臭いだ。腐りかけてやがる」

「あんなに可愛いのに、死体を弄ばれるとは不憫な……」

「もう一人の死体はエルフ族だぞ。なんて奴だ」


とんでもない勘違いをされている気がする。

何か言わないと残虐非道な死霊使いにされそうだ。


「別に、誰も死んでないぞ」

「……いっそ、死んだ方がマシだったわ」


セリアさんが余計なことを言いながら身体を起こした。

周囲から、やっぱり、とか言う声が聞こえる。


「違う。ちょっと待て」

「おい、こっちにくるぞ」

「逃げろ、死んだ方がマシな操り人形にされるぞ」


もう何を言っても無駄そうなので、無視して王都に入ることにした。

荷車を降りると集まっていた人たちが散り散りに逃げていく。

流石に兵士は逃げなかったのか、恐る恐る声をかけてきた。


「気を悪くしないで教えて欲しいんだけど、王都に何の用かな?」


これ以上ないくらい怪しまれている。

妙にフレンドリーなのに警戒心が隠れていないのは、警察の職務質問と同じだ。

これで"緑の風"に所属しているなんて言ったら、問答無用で拘束されるかもしれない。


どうしようかと考えあぐねていたら、意外な人に声をかけられた。


「何かあったのか?」


振り返ると、いつか馬車で相乗りした赤い髪の人だった。

確か"赤い飛竜"に所属している冒険者のはずだ。

馬車着き場にいるということは、馬車に乗ってきたんだろう。

前にあったときと同じように、乗り物酔いで酷い顔色をしていた。


「死体が増えた」

「今度は、男の死体だ」

「3体も操るなんて、上位の死霊使いだぞ」


更に騒然する周囲をよそに、赤髪のお兄さんは兵士に声をかける。


「ケビィ、彼らは怪しい者じゃない」

「トーガの知り合いか。なら構わないが、あまり無茶なことはしてくれるなよ」


赤毛の人は、トーガというらしい。

勘違いされたままだが、何とか王都には入ることが出来た。

トーガさんにお礼を言う。


「気にしなくていいさ、前に助けてもらったしね」


爽やかに笑うトーガさんは、顔色を気にしなければ見事なイケメンだった。

青白イケメンに別れを告げ、何とか持ち直した女性2人を連れて、"緑の風"に向かう。

何度見ても、今にも崩れそうな建物だ。

つい昨日来たばかりなのに、妙な懐かしさを感じる。

扉を開けて中に入ると、前は感じなかった人の気配がする。


「セリア、遅いぞ」

「あっ……」



酒場のテーブル席には兄の他に、"白い一角獣"のギルド長シータと知らない男性が座っていた。

ルマエ少年がらみのことで話していたのだろう。

"白い一角獣"は、いつのまにか居なくなっていると思ったら、既に王都に戻ってきていたようだ。


「置いてきてごめんね、あんまりぐっすり寝てたから」


シータは花の咲いたような笑顔で話す。

昨日泣きながら謝っていた姿は何かの間違いだったのかと思ってしまう。


「初めてだね、"白い一角獣"のシズキだ」


シータの隣に座る男性が、真のギルド長シズキさんらしい。

ちょっと神経質そうな中世的な顔立ちの優男だが、昨日のシータへの罰からすると鬼畜メガネなのかもしれない。


「じゃあ、そろそろ帰るぞ」

「えー、もう少しお話していきましょうよ」

「お前は帰ったら説教だ」

「えぇ、そんなぁ!?」


俺たちが帰ってきたからなのか、入れ替わりに帰ろうとするシズキさんと、説教と言われて悲鳴を上げるシータ。

しかし、シータの妙にそわそわした動きに見覚えがあった。あれはすぐに帰ったほうがいい。


「それでは、また」

「またね」


気まずいことを思い出してしまった。恐らくイサナも気づいているだろう。


「えっと、何のお話をされてたんですか?」


見なかったことにしたようだ。


「お前たちは知らなくていい、ギルド間の話だな」


細かい内容を言うつもりはないらしい。


「それとコイツを持って来た」


兄が指差したのは、テーブルに置いてある金属の円盤だった。


「あ、これは」

「迷宮の壁に埋まってたのって、これなの?」


お掃除ロボットのような外見をした、しゃべるポンコツだ。

今は円盤の上に静かに青白い光を揺らしている。


「大剣で叩かれて動かなくなっちゃたんですよ」

「光ってるって事は、何かしら動いてるってことでしょう。

 ゴーレムだし、イーズィなら直せるかもね」


知らない人の名前が出た。最近、人が増えすぎていて、そろそろ覚え切れなくなりそうだ。


「イーズィさんというのは、どんな方なんですか?」

「職人ギルドを追い出されたドワーフだ」


このギルドには追い出された人しかいないんだろうか。

ドワーフと聞くと、背の低い白ひげを生やしている気難しい小人というイメージだ。

ギルドを追い出されるほどだから、余程の頑固親父なのだろう。


「ゴーレムは普通は魔術師の領分なんだが、職人が作ってもいいじゃないかと言い張って追い出された」

「イーズィなら、喜んで調べて分解して直して、余計なものを付け足して返してくるわね」


追い出されたのは他にも理由がありそうだ。

金属盤は俺たちが預かり、もしイーズィさんが現れたら兄に連絡を取るように窓口のお姉さんに伝言を頼んで解散した。

別れ際に兄から依頼の成功報酬として金の入った袋を受け取る。俺の取り分だそうだ。

中身を見てみるが、相変わらず貨幣価値は分からないので、コインチョコが無いことだけ確認してイサナに渡した。


「うわっ。お兄さん、気前がいいですね。それともブスター家から沢山貰えたんでしょうか」


そこそこの金額が入っていたようだ。

余裕があるなら風呂の付いている宿に泊まりたいのだが、「贅沢できるほどではありません」と言われてしまう。

結局、前と同じ【マンドレイクの根】に泊まった。

風呂は無いし、飯は薬っぽいし、布団があるだけマシだが床は固い。


「シンタさん、たまにはベッドで寝ませんか」

「イサナの寝る場所が無いだろう」

「私は、隙間でも大丈夫ですから」


大きくも無いベッドだ。いくらイサナが小さくても2人で寝るのは無理だろう。

それこそ、身体をぴったりとくっ付ければ話は別だが、そんなことが出来るはずも無い。

自分だけベッドで寝ていることに罪悪感を感じているのか、何度かこの提案をされているが床以外で寝たことは無い。

その日も床に寝転がりながら眠くなるのを待っていると、イサナが話しかけてきた。


「明日から学園に通って卒業用の論文を書いてしまおうかと思います」


必要なことだけ書いてあれば、2週間くらいで出来上がってしまうものらしい。

前に聞いた話では2年間の猶予が与えられているはずだが、その殆どが未知の発見へと費やされるのが普通だそうだ。


「シンタさんはどうしますか? 頼めば料理をする場所は貸してもらえると思いますよ」


最初の村で俺が料理をしていたことを言っているのだろう。

そういえば豆芋をどうにかして美味しくしてやろうとして、まだ手をつけていなかった。


「いや、料理はしばらくしない」

「そうなんですか?」


最初はこの世界の料理のレベルの低さにがっかりした。

元の世界の味が恋しかった。美味いものが食べたかった。


しかし、昨日食べたパーリャは美味しかった。シータが言うには、王都で流行っているという。

ということは、この世界の住人も、俺と同じような味覚を持っていてパーリャを美味しいと思っているということだ。

それにパーリャの作り方だ。魔法を使っていた。


こればかりは、現代日本の科学力が発達していても再現できないところだ。

今はまだ、外が熱くて中が冷たい程度の簡単な料理だが、まだまだ伸び代がある。

この世界の料理は、これからどんどん美味くなる。この世界独自の料理だ。


元の世界では和食の他にも、中華も洋食もジャンクフードも好きだった。

全てに違う味があり、異なる発想と着眼点で開発された食べ物だ。

だから、この世界だけの料理も、そういった物がこれから出てくるはずだ。

そこに俺の持ち込んだ異世界の料理法で水を差したくない。


「少し思うところがあってな」

「それなら、待ってる間どうするんですか。冒険者として活動でもするんですか。

 でも一人じゃ危ないですよ。今回だって運が良かっただけで大怪我するところだったんですから。

 怪我ならまだいいですけど、一人でおなか空いたらどうするんですか。そんなにご飯くれる人なんかいないんですよ。

 あ、でもご飯もらえるからって誰にでも付いていったらダメですよ」


凄い勢いでまくし立てられた。そんなに不安なのか。まるで小さい子供に対する扱いだ。


「モカさんと会おうと思う」

「教授と?」


兄は何を考えているか分からないし、元の世界に戻る方法を探さないといけない。

迷宮が遠い場所と繋がることがあると言うなら、過去にも俺や兄のように迷宮に呼び出された人もいるはずだ。

教授をやっているくらいだから、きっとモカさんはそのあたりも詳しいだろう。


「教授も、あれで結構忙しい人ですよ?」

「モカさんの邪魔にならないようにはする」

「私で分かる範囲なら、お教えしますよ?」

「モカさんの方が詳しいだろ」


イサナがやけに食い下がる。何だか機嫌が悪い。


「そんなに年上が好きなら、好きなだけ二人きりで過ごしたらいいじゃないですか」


別に年上好きではないし、モカさんとは親子ほども離れている。

またプリプリと怒り出すので、どうしたらいいのか分からずに黙っていたら、いつの間にか眠ってしまった。


次の日、薬っぽいスープを食べてイサナと一緒に"緑の風"に顔を出す。

窓口のお姉さんに挨拶をして、暫く学園にいるので兄にもそのように伝えて欲しいと告げると、ドアの開く音がした。

入ってきた人物は、初めてみる人だ。


麻黒い肌にがっしりした体型、身長は180cm以上あるだろう。

オリンピックで見るような人だって、こんなに筋肉があるだろうかというほど引き締まった肉体をしていた。

作業服のツナギに似た丈夫そうな服に身を包んでいるが、その鍛えられた肢体をより強調しているようにも見える。


「丁度良い、彼女がイーズィだ」

「……女性だったんですか」


イサナの考えていることは分かる。また女か、だ。

昔から兄の周りには女性ばかりが集まるので、慣れている身としては何の不思議も無い。

妹が兄を指して主人公体質と言ったことがあるが、言いえて妙だ。


「アタシに何か用? 見ない顔だけど新入り?」

「えっと、こっちのシンタさんが、カズさんの弟さんです」

「へぇ、カズの弟ってことは噂の死霊使い(ネクロマンサー)か。

 隣の子は死体?」


頭が痛くなってきた。その噂はどれだけ広まっているんだろう。

意味も分からず死体扱いされたイサナは、とりあえず愛想笑いをしている。


「死霊使いではないです」

「死体でも無いです」

「じゃあ、あんた誰だ?」


さっきとは違う意味で頭が痛くなってきた。


「イーズィは腕はいいけどバカだから、そのつもりで会話しなさい」


窓口のお姉さんがアドバイスをくれた。


「イーズィさんに修理してもらいたいものがあるんです」

「あぁ、いいよ」


まだ物も見せていないのに二つ返事で了承された。かえって不安だ。


「多分、ゴーレムだと思うんですけど」


ギルド内に置かせてもらっていた金属円盤を持ってくる。


「ほぉう」


イーズィさんの目つきが変わった。

さっきまでの雰囲気とは違う、職人の顔になる。


「ふーん。ふんふん。なるほどね」

「直せそうですか?」


直ったからどうだということもないので、別に直らないならそれはそれで構わない。

兄は無理にでも直せと言いそうな気がするが。


「これは……多分ゴーレムだね」


それはさっきイサナが言った。

この人に修理を任せて本当に大丈夫なんだろうか。

不安しかないが、腕が確かなのは間違いが無いと言う話を信じて、金属円盤をイーズィさんに託した。

何か用があって"緑の風"に来たんだろうに、イーズィさんは金属円盤だけ受け取って帰ってしまった。

どこかで金属円盤を落として無くさないことを祈るばかりだ。

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