表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可変迷宮  作者:
第一部.BOY MEATS GIRL

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/116

18.材質

"緑の風"を出て学園へと向かう。

モカさんの部屋に行くと、快く歓迎してくれた。


「随分と機嫌が良いですね?」

「いや、忙しくて大変だ。学園の教頭が懲戒免職になってな」


部屋の中は前に来たときよりも更に散らかっており、実際に忙しいであろうことを伺わせる。

にも関わらず、モカさんは上機嫌だった。


「教授が、教頭の解雇と関係があるんですか?」

「何を言っているんだ。関係あるはずが無いだろう。

 全くこれっぽっちも関係ない。

 あぁ、勿論だとも。私には何の関係も無い」


やたらと関係ないことを主張している。


「直接の関係は無いが、それでも教頭だ。影響は出るさ。

 大して仕事もしていない偉ぶるだけの老害で、引き継ぐ仕事もない。

 あと何年かすれば莫大な退職金を貰って、円満に退職だったろうよ。

 人の足を引っ張ることに猿知恵を働かせる愚物だったがな」


余程その教頭が嫌いだったようだ。


「では、何故忙しいのですか?」

()()()、学園運営資金の不正流出についてのタレ込みがあってな。

 いや、全く恐ろしい。あっという間に懲戒免職だ。

 当然、退職金など出るはずが無い。

 あの年齢でどうするんだろうな、どっかで野垂れ死ぬんじゃないかな。ざまあみろ」


心底楽しそうに笑っている。


「そういうわけで、上層陣は不正流出の後処理でてんやわんや。

 普段の事務処理なんかが滞って、こっちにお鉢が回ってきているのさ」


てんやわんやって、和食料理屋の名前っぽい響きだな。

何となく天丼が食べたくなる。


「なるほど。

 教授は忙しいようですけど、どうしますか?」


イサナはこちらを見て尋ねる。

忙しいのであれば、仕事の邪魔するわけにもいかない。


「じゃあ、イサナと一緒に書き取りの勉強でもするか」

「ふ、ふーん。シンタさんは私と一緒に居たいんですね。

 仕方ないですね、文字でも何でも教えますよ。

 でも、私の邪魔しないでくださいね。

 いえ勿論何でも聞いて貰って構わないですけど」


最近、イサナが情緒不安定な気がする。

第一期の素直なイサナから第二期の嫌味なイサナを経て、第三期に突入したようだ。

期を増すごとに段々と接し難くなっているのは気のせいだと思いたい。


「何だ。私に用事だったのか。

 わざわざ来ると言うことは、魔封具絡みだろう?」


新しい発見があったのではなく、単に相談に着ただけなので急な用事ではないと伝える。


「そうか。しかし事務処理なんかよりも、シンタ君の用事を優先するつもりだ。

 もし何かあれば遠慮なく言ってくれ」


研究者としての好奇心から来るものかもしれないが、ありがたい言葉だ。

お礼を言って部屋を出ようとすると、目の前でドアが開いた。


「おっとっと」


つい先程、同じシチュエーションを体験したばかりだ。

同じように部屋に入ってきた人物も先程と同じ、ドワーフらしからぬ体躯の女性。イーズィさんだ。

バカだが腕はいい。とは窓口のお姉さんの弁。

前者は確認済みだが、後者については未確認だ。


「初対面の女性をジロジロ見るもんじゃないよ、少年」


とんでもない頭の悪いさだった。

からかうように、お姉さんぶって言って見せるのが更に痛々しい。

本当に初対面なら格好良い大人の女性の対応だったかもしれないのに。

ほんの1時間前に会った人に言われると、バカ丸出しにしか見えない。


「イーズィさん、さっき会ったばかりです」


イサナが訂正すると、「そうだっけ?」と首をひねった。


「あぁ、思い出した。噂の死霊使いだ」


何を話しても無駄になる気がする。もういいや。

イサナも二度目は訂正する気にならなかったのか、視線をモカさんに向けている。


「彼らは私の客だよ。お前は何の用事で来たんだ、イーズィ」


モカさんとイーズィさんは知り合い同士のようだ。

くだけた口調から親しい間柄であることが分かる。


「そうそう、今日面白いものを拾ったんだ。

 この金属の円盤なんだけどな」

「預けたんですよ!」

「イサナ、いちいち食いつくと話が進まないから黙ってなさい。

 どうせ明日には何を話したか覚えてないから」


とっさに口を挟んだイサナだが、モカさんに言われて口をつぐむ。

先程の記憶力なら確かに明日には覚えてないだろう。

すっかり忘れてもう一度来たりするかもしれない。


「金属製のゴーレムなんだ。

 当然、魔力で動いていると思うんだけど、手持ちの魔力計に反応しないんだよ」

「ふむ、周囲の魔力を充蓄する機構でも積んでいるのかな」

「そう思って持ってきたんだよ。

 ちょっと魔力を流し込んでみてくれないか」


イーズィさんの差し出す円盤は、いつのまに分解したのか外装が外れて内部がむき出しになっていた。

外装の上からでも見えた青白い光が、幾重にも繋がった金属製の枝を伝って流れていくのが分かる。

巨大なパイプの繋がった工場をミニチュア化したような光景だった。

魔法の世界の電子基盤のような物なのだろうか。


「イーズィさんは、学園の関係者なんですか?」

「ん? 関係者といえばそうかな、割と最近だけど」


イサナに面識がないのであれば、ここ1年の間に学園と縁があったんだろう。

兄が関わっているのは間違い無さそうだ。


話を聞くと、イーズィさんは学園内に作業室を借りているらしい。

職人ギルドを追い出されて、職人街の工房は使えないのだとか。


「職人ギルドは、学園からの仕事をとられて怒るんじゃないですか?」

「逆だよ。つまらない仕事は、受けたがらないんだ」

「イーズィが来るまでは少なくない金を積んで、頭を下げて依頼していた」


円盤に集中していたモカさんが横から答えてくれた。

その何割かが職人ギルドに渡る前に消えていたがな、と付け足す。

件の教頭のことだろう。


「最もモカ先生とは、もっと前からの知り合いだけどな」

「教授、そうなんですか?」

「ああ、まあ、うん。昔の知り合いだ」

「アタシの爺さんが子供の頃に、ドワーフなのに魔法使いになるって言い出してさ」

「ちょっとまった、その話は」

「それでモカ先生に弟子入りしたんだけど」

「えっ」


何かおかしいことを言い出した。時系列が混ざっている。

イーズィさんのお爺さんが子供の頃に、今年50歳のモカさんに弟子入りできるわけが無い。

こんな記憶力でどうやって日常生活を送っているんだ。


「あの、計算がおかしいですよ」

「イ、イサナッ! 口を挟むなといっただろう!」

「ん? おかしくないよ。モカ先生って今年でひゃく……」

「うわぁあああああああ」

「ひゃく!?」


イーズィさんは物忘れが激しいが、忘れているのは俺とイサナのことだけだった。

兄やモカさんの事はちゃんと覚えているし、金属円盤についてはモカさんと難しい話をしていた。

親しい人や興味あることについては、人並み以上に覚えているんじゃないか。

とすると今の話に限っては、おかしいことを言っていたのは、モカさんかもしれない。


「……教授?」

「ゆーなよぉおおーっ! 年齢(とし)を誤魔化してたのがバレちゃっただろぉおお!」

「え、あ。ごめんなさい」


モカさんが顔を真っ赤にして、両手を上げて怒っている。

現在100歳以上ということは、エルフ族の血が濃く出ていて寿命が人間よりも長いのだろう。

それなら納得できる。むしろ50歳と言われたときよりも若く見えてくる。


「結婚できなくなったら、どうするんだよぉおお!!」


涙目でポカポカと殴りかかっているが、イーズィさんの筋肉の壁に阻まれて全く痛そうではない。


「教授、落ち着いてください。若く見えるから結婚できますよ、きっと」

「なぐさめんなぁ!!

 お見合いで、サバ読んで50歳って言っても引かれたんだぞっ!!」


それは中途半端にサバを読むから引かれたんだろう。


「ほ、ほら、男だろ。頼むから、何か言ってくれよ」


この人は俺に何を期待しているんだ。

誰かの言葉を借りるしかないが、兄のアドバイスは役に立たないだろう。

脳裏にクラスメイトの顔が思い浮かぶ。


「多分、実年齢を前面に出したほうがもモテますよ」


クラスアンケートで『将来なりたいもの』に【ロリババア】と書いた上に

「実年齢と見た目の年齢の乖離(かいり)は間が広いほど需要があるんだ」

と豪語していた安田君の言葉を信じるなら、きっとモカさんは需要があるだろう。


安田君はその後、激昂した担任に昼休みまで廊下に立たされて反省の言葉を求められたが、

「申し訳ないのじゃ」

と答えたことで、水入りバケツが追加され放課後まで延長になっていた。


「やめろよぉ……期待もたせんなよぉ………」


モカさんは涙目を通り越して泣いている。

何だか悪いことを言った気になってきた。

そもそも安田君の言葉のどこに信じる要素があったんだろう。


「ちなみに、本当は何歳なんですか?」


イサナが余計なことを聞く。

"白い一角獣"の時も知りたがっていたし、好奇心旺盛なんだろう。

こっちには「好奇心は猫をも殺す」という(ことわざ)はないんだろうか。


モカさんはチラチラとこっちを見ていたが、意を決して口を開く。


「……ひゃくにじゅう」


言いづらそうに実年齢を教えてくれたが、大丈夫だ。

現実感がなさ過ぎて、そういうものだと思えてきた。


本当の年齢の方が良いですよ。と言ってみる。


「そっかぁ。120歳でもいいんだぁ、えへへ……」


誰だお前。

モカさんとイサナの師弟間で、考え込む癖が引き継がれるように、情緒不安定もイサナに引き継がれた物なのかもしれない。

今後のお付き合いはなるべく控えさせて貰いたい。


「その円盤は、何か珍しい物なんですか?」


何かを察したイサナが話を元の方向に戻す。


「えへへ……え、あ。うん。そうだな。

 魔力を流してみたが、全部吸い取られているようだ」


戻ってきてくれた。


「この真ん中の核が怪しいと思うんだけど。モカ先生、何か分からないかな?」

「うーん、希少金属かな……。どこかで見たことあるような」


何かを思い出そうと視線を泳がせるモカさんと目が合う。


「あっ、シンタ君。魔封具を出してくれ」


言われるままに包丁を取り出す。


「やっぱり、どこかで見たと思ったが、同じ材質だ」


円盤の中身と包丁の刃を見比べている。

覗き込むように顔を寄せてみると、モカさんは顔を赤くして逃げていった。

似合わないとは言わないが、もう少し年齢を考えて行動して欲しい。


「シンタさん、思ったことは口にしたほうが良いですよ」


言えるか。


「その包丁は?」

「イーズィは知らなかったか。変り種の魔封具だ。

 食べ物が出たり武器が出たりする」

「何だそれ、何でも呼び出せるのか」


イーズィさんの発言に、モカさんが目を見開いた。


「それだ! イーズィ、年齢をバラした件は許してやる!」


モカさんは急に走り出して部屋を出て行ってしまった。


「何だ……?」

「さあ、分かりません」


イーズィさんの言葉で何かを思いついたのだろう。

確か、呼び出すと言っていた。変換じゃなくて召還か。


少しだけ考えてみたが、さっぱり分からなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ