第三十三話
どうやら妖艶美女達は、港の外れに停泊させてある船の中で生活をしながら、そこで店を開き商売をしているらしい。その店とは酒や摘まみを提供したり客の傍に寄り添って話を聞いたりと、まぁこちらの世界で言うキャバクラのようなものだった。まぁ後は本人達の同意により、その先に進んだり進まなかったりと・・・ゴニョゴニョ。遊郭に近いのかな。ターゲットとなる客層がこの島の人達ではないらしく、港にやってくる海賊達なのだそうだ。その為、このゴチャゴチャとした港で商売をする為に、船を利用しているらしい。通りで、この島の雰囲気に合っていないと思っていた。
どうやらセイン達は、この後彼女達の店に飲みに行くらしい。金髪妖艶美女もといリテさんが私にも店に来るよう誘ってくれたが、正直言って行きたくなかった。セインが・・・いや皆が彼女達と楽しそうにしているところなんて、見たくなかったからだ。しかしだからといって、一人置いてけぼりにされるのも凄く困る。
(諦めて着いていくしかないのかな。)
そうやって諦めかけていた私に助け船を出してくれたのは、なんとも意外な人物だった。
「船長、俺は乙女を連れて町の方を偵察してきます。」
驚き声のした方に目を向けると、それはなんとメース君だった。彼は一度私の方を見ると、そのままセインと話し出す。
(何故、メース君が。)
そう疑問に思い呆気に取られる私をよそに、二人の話はどんどんと進んでいく。
「・・・かもしれぬな。
まぁ、そうさな。確かに、女には面白くないところさ。頼めるか、メース。」
「はい、お任せ下さい船長。」
セインと話を終えたメース君が、ゆっくりとこちらへやってくる。
「行くぞ、乙女。」
一人ポカンとしている私を通り過ぎ、メース君はそのまま町の方へと歩いて行ってしまった。どうしたら良いのか分からずオロオロとしていた私だったが、意を決してメース君の後を追う事にした。
「なんだよ、リン。来ないのか~?」
私達のやり取りが聞こえたのだろうか。こちらに気づいたロディが声を掛けてきた。
「うん。ゴメンね、ロディ。行ってきます!」
妖艶美女を腕に抱えて不貞腐れるロディに笑い掛けながら、私は皆に背を向けて走り出した。
セインがこちらを見ているような気がしたが、私は振り向かなかった。いや、振り向けなかったといった方が正しいのかもしれない。きっと私は今、とても酷い顔をしているだろう。そんな顔を見られたくなかったのだ。
「ありがとう、メース君。私の思い違いかもしれないけれど、気をつかってくれたんだよね?」
町へと向かう道中で、私はメース君に話しかけた。先を歩いていたメース君が、ゆっくりと振り返る。私の顔を見てメース君はやや思案顔になるも、歩きながらゆっくりと話し出した。
「いや、俺も遊郭船には行きたくなかったしな。町にも用事があったし、そのついでだ。」
そうか。年も若く少年であるメース君にとって、きっと女の人とかそういう色事にはまだ興味がないのだろう。きっと、そうだ。
メース君は用事があるからと言っていたが、用事のついでだろうと何だろうと助けられた事に変わりはない。メース君には、本当に感謝だ。
何故だか私は嬉しくなり、満面の笑みを浮かべた。
「そうだよね!メース君は、遊郭になんて興味ないよね。」
「あぁ、出来ればあまり行きたくはないな。女は、抱いた後が一番面倒臭い。必要以上にベタベタしてくるし、一晩抱いたってだけで勘違してくる女までいる。鬱陶しくて仕方がない。本当に、どうしようもないな。」
メース君の言葉に、私は笑顔のまま凍り付いてしまった。ちょっと、お待ちなさい。何か、聞いてはいけない言葉を聞いてしまったような気がする。私の聞き違いではないだろうか。
「・・・メース君って何歳なの。」
「俺の年齢か?何故。」
そう言ったメース君は、何故そんな事を聞きたがるのか心底不思議で仕方がないといった感じで、コテンと首を傾げた。先程の言動とは裏腹に、そんな彼のしぐさや瞳が凄く純粋で・・・う、直視出来ない。
「いや、やっぱりいいです。聞くのが怖い。」
「なら、いいが。」
そう言って、メース君は再び前を向いて歩いていってしまった。
うぅ、海賊って本当に怖い。改めて、そう実感した瞬間だった。