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水母の骨を拾う  作者: とりにてぃ
酸素は水面へ上りゆく

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雷は遥か遠く#2

 何かに頭を垂れる剱は総真が近づいても微動だにせず、顔すらも上げようとしなかった。

 彼が祈る先にはいくつもの泡のようなものが浮かび上がっており、誰かがいるようにも見える。


 はっきりとは視認できていないが、何故だかリュードがそこにいるような気がして小さく手を振ってみる。

 泡はたじろいだように後ろに下がっていったが、次第にぶくぶくと大量の泡が湧き出て、しばらくすると消えてしまった。


 リュードがこの場を離れたのだろうか。

 泡が消えると同時に立ち上がった剱は変わらない無表情のまま総真にも頭を下げた。


「リュード様が大変お喜びでございました」

「やっぱり伯父さんがいたんだ。なんとなくしか分からなかったんですが……」

「ご家族は皆泡のようなお姿を無条件に視認できると聞き及んでいます」

「泡……」


 確かに泡が無数に浮かび上がっていた。

 ロックとカノンも同じように見えていることがあるらしく、リュードが姿を現す気があるときに視認できるらしい。


 本気で隠れられると家族でさえ意識体のリュードを探すことはできない。

 体から離れて地上を見て回るとは一体どんな感覚なのか。


「今回パグロ・イデアが何用で北区に侵入したのかを目下調査中です。リュード様へは総真様の保護と調査の進捗状況を報告しておりました」

「そういえば、どうしてパグロはここに来たのか分からないですね……北区って深水や葬術の研究を行っているところですよね?」

「左様です。侵入や襲撃の痕跡はございませんが、パグロ・イデアと思われる姿は街のいたるところで確認できております」


 シャーレが管理している研究施設は死角とプライバシーがない程に監視カメラが付いている。

 街中もかなりの数、カメラが設置されておりどこにも映らず移動することは難しい。


 パグロも例にもれず街のいたるところで姿が映っていた。

 深水研究施設の辺りをうろついては直ぐに離れていくの繰り返しで調査は難航していた。


「アストロの姿はなかったんですか?」

「はい。不審な点としてアストロの捜索も行っておりますが、自治区の方での目撃が最後のようです」

「自治区?」


 パグロもアストロも自治区を通って北区を訪れたらしい。

 壁付近でアストロと別れ、パグロだけこちらにやってきた。


 別行動の理由ははっきりとしないが、それまでは2人で行動していたと目撃情報が相次いでいる。

 代わりに2人が分かれてからの足取りがすっかり追えなくなり、誰にも分からないと首を横に振った。


「故に接敵できているパグロからできうる限り情報を収集することが葬務部門の長として最優先と判断しております。刃夜は良き相手となるでしょう」


 離れた位置にいるパグロと刃夜の姿は高低差故か、少しだけ見えている。

 激しく動き回る2人がどうなっているのかじっと目を凝らしたが、はっきりとは見えなかった。


 そうしていると剱が後ろで屋上に布を敷き、せっせと物資箱から様々な物を取り出している。

 いつの間にかティーセットが並び、総真は座布団の上に座らされた。


「ハーブティをご用意いたしました。疲労に効く医務室特性でございます」

「あ、ありがとうございます……え?いや?のんびりしてていいんですか!?」

「問題ございません。観戦はこちらのモニターをご覧ください」


 湯気立つハーブティーは少しばかり漢方に近い香りがしており、薬味が鼻腔を擽る。

 暖かな器を手に取って飲むように促され、渋々口を付けた。


 すっと熱が引いていくようなさわやかな味わいと、肩に圧し掛かった重りがほどけていく感覚。

 今にも頽れそうな身に支えが付いたような頼もしさに、状況も忘れて力が抜けてしまう。


 ティーセットの前に差し出されたモニターには少しばかり遠く、泡の外側から刃夜とパグロの戦闘を記録している映像が出力されていた。


「刃夜に何かあればこちらのモニターには映像が送られなくなる仕組みになっております。安心してご観戦ください」

「逆に怖いです」


 それ即ち刃夜に重大な怪我があれば強制的に見えなくなってしまうのだ。

 状況が見えない分不安と恐ろしさが倍増しそうで嫌なシステムである。


「俺は戦力になりませんが、剱さんは助けに行った方がいいんじゃ……」

「私は老骨故、刃夜の邪魔になってしまうかと」


 絶対に嘘だ。

 剱が年を理由に衰えたというのなら世の中の葬務官の大半が言い訳の言葉を失う。


 だが剱は確かに刃夜の実力を認めていると受け取ることもでき、総真はそれ以上何も言わず画面を覗き込んだ。

 モニターの向こう側は泡の乱反射で時々見えづらくなっているが、2人の姿は視認できている。


 パグロが徒手空拳なのに対し、刃夜は変わらず両刃の剣で応戦していた。

 だが先程と違うのは閃光が常に周囲を舞っている点だ。


 あちこちに青白い光が浮かび上がっており、その1つ1つが弧を描いた形で止まっている。


「何あれ!」


 そのどれもが葬術と思われる輝きを放ち、よく見ると数百という数が浮かび上がってはあちこちに潜伏している。

 もはやパグロに逃げ場はない。戦場となっている場所には雨のように斬撃が降り注ぎ、パグロはほんの数センチの隙間を躱し続けていた。

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