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水母の骨を拾う  作者: とりにてぃ
ひび割れた水槽

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埋葬するは骨か肉か#3

 突き刺さるような視線をまるで気にしない白狼は悠々と足を組み、気だるげに背もたれを揺らした。

 南区に配属されていた白狼が本部へと戻ってきたのは専門的な治療を受けるためと、壊滅的な被害を受けた南区の修繕を行うためだった。


 しかし、戻ってから流れ作業で治療を受け、誰も手の空いている葬務官がいないからと早々に待機命令が出されてしまった。

 放置もいいところで、全くやれることがない。


「訓練官は邪魔になるから本部に行ってろとよ。ったく。担当官もなしのフリーなんてあり得ねぇだろ」


 現状、各区で学生の身分に近しい訓練官の面倒を見る余裕はなく、多くの者が本部へ強制送還されているらしい。

 白狼は負傷を口実にさっさと送り返されたらしく、ぶつくさと文句を言いながら総真のフレンチトーストの半分を食べた。


 担当官も現在は再編中のためおらず、長らく戻っていなかった寮にいても暇でふらふらと食堂へやってきたのだという。


「テメェ等は本部配属だろ。担当官はどうした」

「秋仁先生が担当官なの」

「あの後どうなった?」

「治療は順調よ。幸い命に別状はないし後遺症は心配ないわ」


 自身を守ってくれた存在故か、口の悪い彼が素直に容体を訪ねてくる。

 先ほど見舞いに行ったときはぴんぴんしていたが、やはりその背はいつもより頼りなさげだった。

 

 しばらくは治療を優先して見舞いも控えたほうがいいだろう。

 身内である彩春が申し訳なさそうに面会謝絶であることを伝えると、彼は特に気にした様子もなく頷いた。


「あの怪我じゃ当たり前だ。助けてもらった礼は後日させてくれ」

「伝えておくわ」


 殊勝な態度をとる白狼に怪訝な顔を向けると、向こうも可笑しなものを見る顔で返された。

 思っていたことが顔に出ていたらしい。少しばかり怒りに眉間にしわが寄っている。


「俺ぁ礼を尽くす方だ。命助けてもらってなんもなしってのはおかしいだろ」

「真面目ね。訓練官同士、助け合うのは当たり前のことじゃないの」

「訓練官と秋仁さんじゃ価値が雲泥の差だろうが。あの人を失ったら人類の損失だ」


 むしろ人類が僅かに幸せになるのではないかと思う。

 あちこちから公害だの医療過誤だの散々な言われようの男だ。


 しかし白狼にとっては違うようで、少なからず秋仁を慕っている様子。

 非常に珍しい人種に彩春は可哀そうなものを見るような目で彼を見つめ、額に手を当てた。


「秋仁に夢を見るのは止した方がいいわ。後悔は直ぐに押し寄せてくるものなんだから」

「そりゃ身内だからだろ」

「付き合いが長くなれば分かるわ」


 確かに彼は肩書やシャーレで行ってきたことだけに焦点を当てれば非常に優秀で、失い難い人材だ。

 だがそれを上回る問題児であるが故に敬われることは一切ない。


 秋仁に治療されるぐらいなら放っておいた方がマシ、というのがシャーレの鉄板ネタだと彩春は肩をすくめた。

 痛みもなく治療の腕は最高峰で、綺麗さっぱり治るはずなのにこの言われよう。性格とは難儀なものである。


「つーか、雑魚はなんで食堂にいんだよ。テメェ一般人だろうが」

「だから葬務官なんだって。あなたと同じ4等」

「嘘くせぇ」


 未だに総真が葬務官であると信じていない白狼はじろじろと総真を見たのち、軽く鼻で笑った。


「葬術のねぇ葬務官はすぐ死ぬ。辞めさせた方がコイツのためだろ」

「南区で私についてこられた時点で彼は葬務官の実力があるわ。勝手なこと言わないで」

「ケッ!主席サマについていけたら葬務官だぁ?ンな馬鹿げた基準で命張れるか!」

「2人とも……」


 周囲から注目されている中、彩春と白狼の口喧嘩が始まってしまった。

 口は悪いが白狼は総真の身を心配してさっさと辞めろと助言しているのだ。

 

 一方彩春はその実力を認め、共に戦うべき仲間として見てくれている。

 どちらの意見もこそばゆく、何とか言い合いにならないように間に割りいる。


「何の訓練も積んでないのは事実だから」

「でも……」


 余計な言い争いでさらに場を悪くしたくない。言外に込めた意味を彩春は察してくれたのか、不満げに口を噤んだ。

 少しばかり勝ち誇ったような顔をしている白狼はスルーだ。


「それより、そろそろ寮に移動しない?俺の部屋が用意できているかも」

「ええ。そうね、時間を無為に浪費するより健全だわ」


 このままここにいると公共の場で不毛な争いをく広げるだけだ。

 幸いなことに2時間を少し越した程度に時間が経過している。


 怪訝な顔をした白狼に寮の部屋が未だなかったことを説明すると、にやりと笑って総真の肩を組み始めた。


「しゃーねぇから一緒に見に行ってやるよ」

「別に来なくてもいいのよ。夕方の4時までは私も男性寮に入れるし」

「そこはついてきてくださいってお願いしろ」

「そんな理不尽な」


 冷めた対応の彩春に噛みつきながら、総真の肩はホールドしたまま。

 本当にこのまま寮までついてい来る気らしい。用事がなく暇で、やることを探していた彼のセンサーに引っかかってしまったようだ。


「さっさと行くぞ。テメェの部屋がどこだか見てやる」


 彼はまだ食事中のフレンチトーストには目もくれず、ズカズカと食堂を出ていく。

 自分勝手な行動に再び怒ろうとした彩春を制止し、残ったフレンチトーストを口いっぱいに頬張った。

 


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