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水母の骨を拾う  作者: とりにてぃ
ひび割れた水槽

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泡沫へ消える夢#2

 暖かい何かに抱きしめられ、総真は抱えていた身を起こし熱の元を探る。金色の瞳が涙にぬれ、総真の顔をしきりに触れて確かめていた。


「真っ青!どうしたの!?なにがあったの!?」

「かあ、さん……」


 カノンの存在を認識した瞬間、脳をいじられ記憶を奪われる感覚が薄れていく。

 嘘で塗り固められた映像がいつの間にか自身の中で嘘であることすら忘れてしまい、既に真実として記憶に定着していく。


 そうだ、カノンの葬術から秋仁が3人を護って、瀕死の重体になった彼をカノンが迎えに来た。

 総真は海魔との戦闘で怪我をし、白狼に運ばれ壁までやってきた。

 

 そうだ、そうだった。何故今まで忘れていだのだろうか。

 気を失った際に記憶が混濁したのだろうか。()()()()()()()()()()()()()


「大丈夫、母さん。ちょっと、頭が痛かっただけ」

「初めての戦闘で疲れたのかな。ごめんね、総真。お母さんが不甲斐ないばっかりに」

「ううん、母さんが無事でよかった。秋仁先生は?」

「意識が戻って、少しずつ自分で治療を始めているところ。できればロックお兄様に戻ってきて欲しいけど……」


 ロックは突然襲撃された西区に行ったっきり戻っていないという。

 連絡を取る手段がない彼のところへは側仕えの冬仕が向かった。直に冬仕を経由して状況報告できるはずだ。


 カノンと話をしているうちに先ほどの頭痛が嘘のようにすっかりおさまった。

 冷静に状況を俯瞰してみるだけの余裕が生まれ、眉根を寄せる白狼と心配そうにこちらを見る彩春と目が合う。


「ごめん、2人とも……心配かけて……」

「まだ心配なんだけど、今言っても解決しないでしょうね……」


 2人は総真へ何かを言いたげにし、言葉を形にできず口ごもる。

 

 彩春と白狼からすれば突然苦しみだし、彼の意志とは無関係に記憶が改竄され、違和感すら持たない総真の姿は酷く不気味だ。

 アビスから何かしらの影響を受けたと考えるのが妥当だが、葬術によるものなのかアビス固有のモノなのか判断できない。


 そもそも総真とアビスの関係はなんなのか。

 カノンとロックの焦りようから神達は何か知っているのだろうか。


 疑問点は増えるばかりだ。同時に被害も増える一方。

 総真との出会いから不可解なことが続きすぎている。偶然とは到底思えない。

 

「お前、ちゃんと検査受けろよ。深水に触れすぎておかしくなったんじゃねぇの。浸食被害に記憶喪失があるって聞いたことあんぞ」

「そうね。ロック様が戻り次第診てもらいましょう。秋仁は動けそうもないし」


 白狼の言葉通りならどれほどよかったか。秋仁の見立てでは総真はいくら深水に触れても汚染される確率はごくわずか。

 深水の影響による記憶喪失や改竄、補填といった現象ではないだろう。


 専門家に見てもらう必要がある。これが今だけのものなら真実を知るものが伝えればいい。

 だがもし仮に、日野総真という存在が生まれたときから発生している改竄なのだとしたら、彼はいったいどれほどの嘘に塗れて生きてきたのだろう。


 戸籍も生まれも彼の情報は裏がとれない。ロックが記録し、真実だと言い張っているだけ。

 人間にはあり得ない深水操作の無意識発動と、神に似た濃密な深水の保有。


「……総真」


 カノンに全身くまなく探られ、嫌そうに顔を歪めている総真。これだけ見れば年相応の15歳の少年。彩春と同い年のただの人間だ。


「どうしたん?」

「いえ……なんでもないわ」


 アビスは他の神を差し置いて総真の前に現れた。正確には、彼の身から突如発生した炎に殴られ、海魔がアビス・オーレリアへと変化した。

 アビスの存在を解明できていない今、結論を急く必要ない。だがどうしても、彩春は出現の瞬間に浮かんだ予想が頭を離れなかった。


 あの炎は、アビス・オーレリアなのではないか。


 総真が手にしていた炎は彼の意志と関係なく発動し、その後体を乗っ取った。

 炎で殴りつけられた海魔がアビスへと変化したことを考えると炎を介して体を乗り換えた、とも捉えられる。


 最初からアビスは総真の中にいた。もしくは一部が総真の中に入っていた。

 今尚その体にいるとすれば、記憶改竄の頭痛にも説明がつく。


「確証のないことを深く考えてはだめよ、彩春。公平性にかけ、主観が強くなりすぎるわ」


 彼の幼少期への考察に思考が飛んだところで、両の頬を手の平で叩く。思考の海にすぐに飛び込んでしまうのは悪い癖。

 あくまでこれは予想。真実ではないし、1人の人間に海魔の女王の意志が居続けたなんて馬鹿な話だ。


 彼の検査結果は深水の濃度以外は完璧に人間だったではないか。組成から違うロックやカノンとは別物だ。

 

「おい、主席。秋仁さんが医務官の指揮を執り始めた。俺は集合がかかった南区の常駐と合流する。テメェはどうする」


 考え事に頭を悩ませていた彩春へぶっきらぼうな声が飛ぶ。

 凍傷を治療して貰たのだろう。すっかり赤みの引いた手で一塊の葬務官達を指さした白狼に、彩春は周辺を見渡す。


「私たちは秋仁先生に従うわ」

「そうかよ。じゃあ俺は行くぞ。雑魚はテメェ1人で面倒見やがれ」


 まだ立てないのか、座ったまま指示を飛ばす秋仁を見て白狼へ肩を竦めた。

 担当官の意識がはっきりしているのなら秋仁に従うべきだろう。彼はその返事に鼻を鳴らし、捨て台詞を吐いて早々に立ち去ってしまった。


 声などかけずに行けばよいのに落ち着くのを待って律儀に報告してくれるどころか総真の心配もしてくれていたようだ。

 口が悪いだけで面倒見がよく、心根が優しい。


「白狼!またどこかで!」


 足早に去っていく背に声をかけても彼は振り返らなかった。

 

 

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