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水母の骨を拾う  作者: とりにてぃ
あなたの為のアクアリウム

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16/39

春と秋と冬と#3

 一通り総真への激励の言葉と配属先の説明をしたのち、冬仕は早々に瓦礫の山を立ち去った。総帥の地位は忙しく、1秒たりとも無駄にできないと。

 先ほど私情でかなりの時間とコストを消費していたような気がするが、そこに突っ込んではいけない。


「しばらくは3人での行動だね」

「そうね。これで正式に同僚だわ。よろしく総真」

「こちらこそ。ていってもまだ全然実感湧かないけど」


 形式的に口にした挨拶も全く身が伴っていない。葬務官になるなど夢にも思っていなかったのだ。実感が湧かずとも当然である。


「実感は自ずと湧いてくるさ。正式に配属が決まったわけだし、ここらで一旦やらなきゃいけないことがあるんだよね」

「やらなきゃいけないこと?」

「何かあったかしら」


 彩春にも思い当たる節はないようだ。何をやる気なのだと2人そろって訝しめば、秋仁はわざとらしく肩を竦めた。


「あのさぁ?少しは俺のこと信用しない?」

「無理です」

「無理だろ」

「酷い!」


 バッサリと切り捨てられ、ヨヨヨ……とわざとらしい泣きまねをして見せる。そういうところだぞ。

 三文芝居に付き合うと面倒くさいことを重々理解している彩春が容赦なく背をひっぱたき、先を促した。暴力反対だと喚いていても知ったことではない。


 彼はしばし粘ったが、結局誰も相手をしてくれずしぶしぶ姿勢を正した。


「真面目な話ね。君達は診察を受けてもらいます」


 診察。告げられた言葉がピンとこず首を傾げると、彩春が何やら納得したように頷いている。診察とはあれか。いわゆる医者が行うアレのことなのか。


「どこも具合悪くないよ?」

「一昨日まで死にかけていた君達が具合悪くないわけないでしょ」


 言われてやっと先日大怪我したばかりなのを思い出した。ロックに治療してもらってから全く気にならなかったのですっかり忘れていた。

 骨が露出し、一部砕けたほどの大けがだったのだ。海魔との戦闘による浄化も一般の施設なら不完全。


 折よくシャーレの本部を訪れたのだからきちんとした設備で経過観察をしたいと秋仁は真面目な顔で2人を見た。


「先生がそう言うなら……」

「俺があとから治したんだ。問題ねぇだろ」


 同意しようとした総真の前にロックが割って入る。確かに治療を受けてから体の痛みは消え、残るだろうと言われていた痕も綺麗さっぱり消えた。

 見てくれは完治したと言っていい。だが、秋仁はロックに向かって強い拒否を示した。

 

「2人とも治してくださったことに心から感謝申し上げますがそれとこれとは別です。いくら深水操作に長けていても、いくら葬術が治療に適していても正確に判断できているかは複数の目を通す必要があります。人命がかかっているなら何より。俺は石橋をたたいて砕く派なんです」

「砕いたらだめじゃない?」


 彼の言い分は最もだ。特に葬術についてよくわかっていない総真にとって機械を通した診察の方が信頼できる。

 これから葬務官として訓練していくのなら体は資本。チェックの意味を兼ねて診察は賛成だった。


「チッ……勝手にしろ。だが今日はきちんと休ませろ。いいな」

「分かってますよぉ。俺これでも医者ですよ?」

「ハッ」


 ロックは小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、足元に落ちた瓦礫のクズを秋仁へと投げた。

 ぱらぱらと振ってきた残骸を払う間に、彼はいつの間にやら部屋の入口に立っている。意識が外れた瞬間に消えたようにも見えた。

 

「俺は部屋の修理を依頼したら兄貴の傍にいる。総真、良く身体を見てもらえ」


 言いたいことだけ一方的に伝えると、ロックはさっさと部屋から出て行ってしまった。気が付いたときにはエレベーターすら動いた様子もなくその場から消えている。

 唖然としている間に秋仁と彩春も立ち上がり、慌てて瓦礫から身を離した。


「さて、俺達も行きますか」


 2人が歩いていくのを追いかける形で部屋から出ていく。ひしゃげた扉はきちんと閉まることはなく、一瞬苦笑いが浮かんだ。

 先日戦った海魔はまさしく死闘であったが、冬仕とロックの戦いはそれを凌駕する厄災だ。彼らが交渉の余地がある神と人間でよかった。


 「医務室は地上にあるからまた長いエレベーターで昇るよ」

 

 再び地上を目指して長い上昇を待つ。地下を訪れるときは重苦しかった空気が、今は沈黙の只中にあっても軽く感じる。少しだけ肩の荷が下りたような感覚だ。

 

「ちょっとしか経ってないのに1日経ったような感覚がある……」

「変な連中に巻き込まれた所為だね」


 数時間の間に濃密な時間を過ごした。まだ呑み込めていない部分、目標のない部分は多くある。足りない知識を補完する機会には恵まれたが、得た知識が何なのかすら分からない現状、総真は堂々巡りの考えを追い出すように頭を激しく横に振った。

 そこでふと、秋仁の顔を見てとある人物を思い出す。彼が言っていた主人、カノンについてだ。


「今母さんはどこにいるの?シャーレにはいないって言ってたけど」

「カノン様は違う区で任務中。俺もついていきたかったんだけど、今回はカノン様御1人で十分。でもアレ期日が長いんだよね。数日は帰ってこない」


 中央区で働いていると嘘のような本当のことで誤魔化していた母とは当分会えないらしい。

 心優しく気弱な母。一体シャーレでどうやって生活しているのだろうか。最後に会ったのは数か月前の中学生だった頃だ。まさか自分から会いに来られるようになるとは。


「母さん、俺の徴兵をどう思うかな」

「卒倒するんじゃね?」


 横から入った秋仁の言葉に、総真は静かに同意の意を示した。

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