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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
東京編
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夜刀神

「まず、俺たちが何者なのかから話した方がよさそうですね」


そう言って湯呑みを置いた。


「俺たちは夜刀神を先祖とする一族です」


「夜刀神?」


聞き慣れない名前だった。私が首を傾げると、悟は頷く。


「古い伝承に出てくる蛇神です」


「蛇の神様、ですか」


「ええ」


悟は静かに続ける。


「夜刀神は滅んだと言われていますが、首長と契約して暗殺や斥候などを引き受ける部族としてその存在を秘匿し、現代まで細々とその血脈が受け継がれてきました」


康太が自分の湯呑みを見つめている。その横顔は年齢よりずっと幼く見えた。


「もっとも、今では伝承をどこまで信じるかは人それぞれです」


悟は少し苦笑する。


「ですが、力そのものは確かに存在します」


私は黙って耳を傾けた。こういう話なら多少の知識はある。私の家も似たようなものだからだ。


「康太は、その中でも特別でした」


空気が少し変わる。悟の視線が弟へ向く。


「康太は、先祖返りだったんです」


康太の肩がわずかに震えた。私は背中をそっと撫でた。先祖返り。血脈者にとって特別な意味を持つ言葉だ。祖父から聞いたことがある。何世代も薄まった血が、ある時突然濃く現れることがある。そういう者を先祖返りと呼ぶのだと。そしてそれは何の前触れもなく突然顕現することがある。


「力が強すぎたんです」


悟の声は静かだった。


「本人が望む望まないに関係なく」


康太が俯く。鉄斎は何も言わない。


「両親が亡くなったのは半年前です」


私は息を呑んだ。


「事故だと聞かされました。けれど、本当に事故だったのかは分かりません。不審な点が多すぎました」


その言葉に、鉄斎の目がわずかに細くなる。


「それ以来、康太はみていられないほど塞ぎ込んでしまいました」


悟は弟を見た。


「無理もありません」


まだ子供なのだ。親を失った現実を簡単に受け入れられるはずがない。


「食事も睡眠もまともに摂っていない状態で、力だけが強くなっていった」


悟は拳を握る。


「そして、ある日、事故が起きました」


康太が小さく身体を縮めた。


「家に閉じこもってるのも良くないと、散歩に連れ出そうと思ったのが間違いでした。近所の子供達が話しかけようと近づいてきた時に、康太の力が暴発して、子供たちに怪我を負わせてしまったんです」


私は黙っていた。康太も黙っていた。その沈黙が何より雄弁だった。


「誰も康太を責めませんでした。責められるはずもありません。一番傷ついていたのは明らかに康太自身でしたから」


悟が言う。


「でも、このままではいけないと判断されました」


私には分かる気がした。力が強いほど危険も大きい。本人にそのつもりがなくても。


「色々協議した結果、師匠のところへ預けることになったんです。師匠だったら力の制御も、精神の統一も教えられる。でも家族と引き離すのは酷なので、俺も一緒に行くことになったんです」


「その師匠というのは?」


「昔、里で子供たちに力の扱い方を教えていた人です。俺も昔お世話になりました。」


悟の表情が少し和らぐ。


「今は引退して、東京近郊の寺で住職をしています」


「引退?」


「若い頃に色々、無茶をし過ぎたんですよ」


悟が苦笑した。鉄斎が咳払いをする。


「色々じゃ済まんだろ」


「本人が話したがらないんです」


「そりゃそうだ」


鉄斎が湯呑みを傾ける。


「昔話を自慢するような歳でもない」


少しだけ場の空気が和らいだ。悟も小さく笑う。


「とにかく、その師匠なら康太を導けると、里の皆がそう判断しました」


私は康太を見る。少年はまだ俯いたままだった。だが、兄の話を黙って聞いている。


「それで東京へ?」


「ええ」


悟は頷いた。


「康太を師匠のところへ預けるためです」


そして少しだけ表情を曇らせた。


「本当なら、もっと簡単に済むはずだったんですが」


その言葉に、鉄斎が視線を上げる。


「で、辿り着く前に襲撃されたわけだ」


「はい」


悟は静かに答えた。


「あきらかに、狙われているのは康太でした」

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