再出発
翌朝、集会所には今回の事件に関わった者達が集まっていた。昨日の疲れはまだ残っていたが、誰もが真剣な表情で宗厳の言葉を待っていた。
宗厳は壇上に登り、全員を見渡してからゆっくりと口を開いた。
「まずは礼を言う。皆のおかげで、穢れの拡散は食い止めることができた。じゃが、本当の修復はこれからじゃ」
集会所が静まり返る。
「崩れた結界を元へ戻すには、数か月単位の時間がかかるじゃろう」
宗厳は後方に掲げられた地図へ目を向けた。
「富士へ残ることができる者には、引き続き結界の修復へ協力してもらいたい」
地図には富士を中心に、全国へ伸びる龍脈が記されていた。
「一方、各里へ戻る者達には、それぞれの地域にある龍脈の要所で、結界の維持と補強を続けてもらいたい」
「富士だけを修復しても足りん。龍脈全体の流れを安定させてこそ、この結界は本来の力を取り戻す」
宗厳は続けた。
「事件については、現在も警察と管理局による捜査、事情聴取が続いておる。情報を受け取り次第、皆にも共有する。協会としても今回の件を重く受け止め、再発防止に向けた体制の見直しを進めていく」
宗厳は頭を下げた。
「これからも皆の力が必要じゃ。どうか、力を貸してほしい」
誰もが頷いた。
◇
キャンプ場へ戻ると、悠真は全員に集まるよう声をかけた。
「昨夜の話し合いの結果、今後の予定が決まりました」
「まず、私と静子先生は、富士へ残ります。結界の修復には、高度な術を扱える者が必要ですので」
続いて、巌と一成へ視線を向けた。
「次に、巌先生と一成先生には、私たちが留守の間寺の運営全般をお任せします」
二人が頷いた。
「分かりました」
次は香月に向かう。
「まだ寺に来て間もないので申し訳ないのですが、私達が留守の間、事務作業をお願いします。もちろん大事な決断や決裁は巌に相談してください。それに、結界に週一、二回力を流す作業も子供達と一緒にお願いします」
香月が少し驚いて尋ねる。
「私に務まるのでしょうか」
悠真が頷く。
「もちろんです。香月さんは数ヶ月で大きく成長されました。立派にこなしてくれると確信しています」
香月は小さく頷いた。
「……分かりました。精一杯努めます」
悠真は再び皆へ向き直る。
「最後に、保護者の皆さんにもお願いします。子供達が安心して過ごせるよう、力を貸してください」
陽菜が真っ先に返事した。
「お任せください。子供達のことは、私達でしっかり見守ります」
皆の表情が引き締まる。
「ありがとうございます」
悠真が頭を下げる。
「それでは、皆さんは寺へ戻る準備をお願いします。私と静子先生はこれから宗厳先生のところへ合流します」
◇
警察署では、事件関係者への事情聴取が続いていた。
取調室には楠田と担当の警察官、そして管理局の鈴木が向かい合って座っていた。
「氏名をお願いします」
楠田が答えた。
「楠田俊文です」
警察官は手元の資料に目を落とした。
「杉林さんから話は伺っています。君は二十年前、養成学校襲撃事件で連れ去られた生徒だそうですね」
楠田は頷いた。
「……はい」
警察官は穏やかな口調で続ける。
「まずは、その時のことから聞かせてもらえますか」
楠田は少し俯いた。
「あの日は、いつもと同じように始まりました」
一度言葉を切る。
「教室で授業を受けていた時、突然、警報が鳴り響いたんです。担任の先生は、すぐに避難誘導を始めました」
楠田は、廊下で襲撃者と遭遇し、戦闘が始まるまでの経緯を語った。




