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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
富士編
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65/73

瓦解

両陣営が互いを見据えたまま、神経を張り詰めている。


その時だった。


「うっ……!」


結界班の一人が突然胸を押さえ、その場へ膝をつく。


「大丈夫か!」


仲間が駆け寄ろうとした、その瞬間。

敵の一人が反射的に術を放った。風の刃が一直線に飛ぶ。


「させるか!」


巌が前へ踏み込み、その一撃を受け止めた。鋭い衝撃が響く。その一瞬で均衡は崩れた。


「結界師を守れ!」


戦闘が一斉に始まる。前衛達が互いにぶつかり合い、その間を縫うように術が飛び交う。互いに一歩も譲らないまま、戦いは膠着状態に陥った。


一成も敵の一人と交戦していた。相手と目があった瞬間、一成は見覚えのある顔に思わず目を見開く。


「お前……もしかして、楠田か?」


男は怪訝そうに一成を見た。


「……誰だ」


「養成学校で同じクラスだった、杉林一成だ」


男の表情がわずかに揺れた。


次の瞬間、再び二人の間へ術が飛び込む。互いに飛び退き、その一撃をかわした。


「今まで、どこにいたんだ」


一成が質問する。


「お前には関係ないだろ」


男は再び身構えた。



敵術者はなおも呪文を唱え続けている。それに合わせて、洞窟から溢れ出す穢れはさらに濃くなって広がってゆく。


「どういうことだ!」


「あいつ……穢れを増やしてないか!」


「このままではだれも無事では済まないぞ」


動揺が敵陣へ広がっていく。


「おい!」


敵の一人が術者へ向かって叫んだ。


「何で穢れを増やしてるんだ!」


しかし術者は振り返ることなく、呪文を唱え続けている。やがて小さく息を吐くと、冷たく言い放った。


「あなた達は黙って自分の仕事をしていればいいのです」


その言葉に、その場の空気が凍てついた。


「……違う」


震える声に、誰もが振り返る。そこに立っていたのは、敵に協力していた協会職員だった。


「私は血脈者を縛る今の仕組みを変えたいと思っていた。だから、あなた達に協力した」


一度言葉を切る。


「だけど……こんなやり方は間違っている」


敵術者は表情一つ変えなかった。


「どちらにしても、もう手遅れです。結界は、すでに修復不能なまでに崩壊しました。もはや誰にも止められません」


その言葉に、全員が静まり返る。


宗厳は洞窟から溢れ出す穢れを見つめ、小さく息を吐く。


「確かに、結界は大きく崩れた。じゃが、まだ修復は可能じゃ」


宗厳はゆっくりと敵味方を見渡した。


「このまま続ければ、本当に手遅れになる。結界はさらに壊れ、穢れは全国へ広がる。人も血脈者も関係なく、多くの犠牲が出る」


「それが本当に、お前達の望みなのか?」


宗厳の言葉に、誰も答えられなかった。敵陣に重苦しい沈黙が流れる。


やがて、一人の男が静かに口を開く。


「俺は……」


男の声は震えていた。


「こんなことがしたかったわけじゃない」


それに続くように声が重なる。


「俺もだ」 


「私も」


「話が違う」


敵術者は淡々と呟いた。


「もう目的は果たしましたのでお暇します」


男はゆっくりと宗厳へ視線を向けた。


「どうぞ、抗って下さい。無駄だとは思いますけどね」


「待て」


誰かが叫ぶ。


しかし次の瞬間、男の姿は跡形もなく消えていた。


宗厳はすぐに指示を飛ばす。


「結界班は修復を開始じゃ。戦闘班は周囲の警戒に当たれ。治療班は負傷者を頼む。一刻の猶予もない」


宗厳は術者に置き去りにされた敵の面々を見渡す。


「お前達はどうする」


誰も答えない。武器を握ったまま立ち尽くしている。


宗厳は静かに続けた。


「今は一人でも多くの力が必要じゃ。戦うつもりがないのなら、力を貸してくれ」

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