瓦解
両陣営が互いを見据えたまま、神経を張り詰めている。
その時だった。
「うっ……!」
結界班の一人が突然胸を押さえ、その場へ膝をつく。
「大丈夫か!」
仲間が駆け寄ろうとした、その瞬間。
敵の一人が反射的に術を放った。風の刃が一直線に飛ぶ。
「させるか!」
巌が前へ踏み込み、その一撃を受け止めた。鋭い衝撃が響く。その一瞬で均衡は崩れた。
「結界師を守れ!」
戦闘が一斉に始まる。前衛達が互いにぶつかり合い、その間を縫うように術が飛び交う。互いに一歩も譲らないまま、戦いは膠着状態に陥った。
一成も敵の一人と交戦していた。相手と目があった瞬間、一成は見覚えのある顔に思わず目を見開く。
「お前……もしかして、楠田か?」
男は怪訝そうに一成を見た。
「……誰だ」
「養成学校で同じクラスだった、杉林一成だ」
男の表情がわずかに揺れた。
次の瞬間、再び二人の間へ術が飛び込む。互いに飛び退き、その一撃をかわした。
「今まで、どこにいたんだ」
一成が質問する。
「お前には関係ないだろ」
男は再び身構えた。
◇
敵術者はなおも呪文を唱え続けている。それに合わせて、洞窟から溢れ出す穢れはさらに濃くなって広がってゆく。
「どういうことだ!」
「あいつ……穢れを増やしてないか!」
「このままではだれも無事では済まないぞ」
動揺が敵陣へ広がっていく。
「おい!」
敵の一人が術者へ向かって叫んだ。
「何で穢れを増やしてるんだ!」
しかし術者は振り返ることなく、呪文を唱え続けている。やがて小さく息を吐くと、冷たく言い放った。
「あなた達は黙って自分の仕事をしていればいいのです」
その言葉に、その場の空気が凍てついた。
「……違う」
震える声に、誰もが振り返る。そこに立っていたのは、敵に協力していた協会職員だった。
「私は血脈者を縛る今の仕組みを変えたいと思っていた。だから、あなた達に協力した」
一度言葉を切る。
「だけど……こんなやり方は間違っている」
敵術者は表情一つ変えなかった。
「どちらにしても、もう手遅れです。結界は、すでに修復不能なまでに崩壊しました。もはや誰にも止められません」
その言葉に、全員が静まり返る。
宗厳は洞窟から溢れ出す穢れを見つめ、小さく息を吐く。
「確かに、結界は大きく崩れた。じゃが、まだ修復は可能じゃ」
宗厳はゆっくりと敵味方を見渡した。
「このまま続ければ、本当に手遅れになる。結界はさらに壊れ、穢れは全国へ広がる。人も血脈者も関係なく、多くの犠牲が出る」
「それが本当に、お前達の望みなのか?」
宗厳の言葉に、誰も答えられなかった。敵陣に重苦しい沈黙が流れる。
やがて、一人の男が静かに口を開く。
「俺は……」
男の声は震えていた。
「こんなことがしたかったわけじゃない」
それに続くように声が重なる。
「俺もだ」
「私も」
「話が違う」
敵術者は淡々と呟いた。
「もう目的は果たしましたのでお暇します」
男はゆっくりと宗厳へ視線を向けた。
「どうぞ、抗って下さい。無駄だとは思いますけどね」
「待て」
誰かが叫ぶ。
しかし次の瞬間、男の姿は跡形もなく消えていた。
宗厳はすぐに指示を飛ばす。
「結界班は修復を開始じゃ。戦闘班は周囲の警戒に当たれ。治療班は負傷者を頼む。一刻の猶予もない」
宗厳は術者に置き去りにされた敵の面々を見渡す。
「お前達はどうする」
誰も答えない。武器を握ったまま立ち尽くしている。
宗厳は静かに続けた。
「今は一人でも多くの力が必要じゃ。戦うつもりがないのなら、力を貸してくれ」




