一触即発
治療班はすでに動き出していた。
「こちらへ!」
「横になってください!」
「毛布を!」
救急箱が運ばれ、水筒が配られる。洞窟から少し離れた場所へ救護拠点が設けられ、倒れた者が次々と運び込まれていく。
「康太!」
香月が振り返ると、康太が胸元を押さえてうずくまっていた。
「すごく嫌な感じがする……気持ち悪い」
その隣では、智樹も額を押さえてしゃがみ込んでいる。千春が慌てて駆け寄り、その肩を支えた。
「二人とも、こっちへ!」
治療班員が声を掛ける。香月と千春は康太と智樹を支えながら、救護拠点へ向かった。
「こちらへ寝かせてください」
治療班員が二人の脈を確かめ、目や舌の状態を確認すると、水を飲ませた。
「大丈夫です。少し休めば落ち着くでしょう」
香月と千春はようやく安堵の表情を浮かべた。
救護拠点には次々と体調を崩した者が運び込まれてくる。
「こちらもお願いします!」
「毛布をもう一枚!」
治療班は慌ただしく動き回っていた。香月は千春と顔を見合わせる。
「私達にお手伝いできることはありますか」
「それなら、水と毛布をお願いします」
「はい!」
二人は頷くと、救護拠点の手伝いを始めた。
◇
洞窟の入口では敵術者が絶え間なく呪文を唱えながら何らかの術式を展開している。宗厳はそれをしばらく観察していた。
「そういうことか……反転術式を使っておるのじゃな」
周囲の結界師達が息を呑む。
「流れそのものを書き換え、修復の力を破壊の力へ変えておる。修復すればするほど、結界を壊してしまう仕組みじゃ」
宗厳は静かに首を振った。
「今までと同じやり方では駄目じゃ」
少し考えてから続ける。
「術式を切り替える。反転術式を無効化しながら、結界を修復しなければならん」
結界師達はそれぞれの位置に着くと、宗厳に合わせて術式を展開し始めた。洞窟の入口付近は敵の戦闘班が陣取っている。そのため味方の結界班は少し離れた位置からの作業を余儀なくされていた。それを守るように戦闘班が展開すると、ちょうど敵の戦闘班と向き合う形になった。人数は向こうのほうが上だ。
その時だった。
「大丈夫か?」
森の奥から声が響く。
見回りに出ていた巌たち巡回班が、爆発音を聞きつけて急いで戻ってきたのだ。
「これは……」
崩れ落ちた洞窟を目の当たりにし、巌が息を呑む。一成もまた、周囲へ鋭い視線を巡らせた。状況を把握すると、巡回班はそのまま戦闘班と合流した。
張り詰めた空気の中、誰も先に動こうとはしなかった。




