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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
原点編
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57/73

準備完了

「そんなことがあったんですね」


香月は話の余韻を噛み締めながら静かに言った。


「昔の話ですよ」


悠真は笑う。



気付けば、里巡りから二か月近くが過ぎていた。残暑はまだ続いていた。


ある日の夕食後、悠真がおもむろに切り出した。


「皆さんにお知らせがあります」


食卓にいた全員が顔を上げた。


「富士行きの日程が決まりました。決行は十月十五日です」


香月は少し驚いた。


「結構先なんですね」


「全国から人が集まりますからね」


悠真は頷く。


「それに今回は大規模な結界修復です。龍脈の流れや月の巡りなども考慮して、一番条件の良い日が選ばれたそうですよ」


香月は少し緊張した。里を巡りながら多くの血脈者と出会ってきた。だが、全国規模となると話は別だ。どれだけの人が集まるのだろう。


「まあ、まだ先の話だ」


巌は湯飲みを傾ける。


「今はやれることをやろう」


富士行きが決まっても、寺の日常は大きく変わらなかった。それぞれの日課をこなし、訓練を続ける。



十月に入る頃には、香月たちの訓練にも変化が現れていた。


香月は目を閉じる。体内を流れる力を一本ずつ分ける。さらに別の流れを重ね、再び紡ぐ。かつては互いに干渉し合い、制御に苦労していた力だったが、今では必要に応じて分離し、組み合わせることができる。


悠真はその様子を見て静かに頷いた。


「随分滑らかになりましたね」


香月も小さく笑う。自分でも成長は感じていた。



康太も以前より大きく成長していた。訓練用の木刀を構え、相手との距離を測る。無闇に飛び込まず、相手の動きを観察し、隙を待つ。そしてここぞという時に力を使う。


「悪くない」


巌が頷いた。康太は汗を拭いながら笑う。以前より上手く動けている実感があった。



悟もまた着実に力を付けていた。相手の次の動きを予測して半歩ずつ位置を変える。受け止めるのではなく流す。動きにも無駄がなくなっていた。


「もう初心者とは言えませんね」


悠真が感心したように言った。悟は苦笑する。


「先生方のおかげですよ」



出発が近付くにつれ、寺の中も少しずつ慌ただしくなっていった。静子は薬や応急処置の道具を確認し、一成は現地の情報を集めていた。陽奈たちは滞在中に必要な食料や日用品の準備に追われていた。


そうこうしているうちに、出発の日は目前まで迫っていた。

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