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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
原点編
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56/73

仲間

季節が一つ進む頃には、寺の景色も少し変わっていた。境内の雑草は姿を消し、傷んでいた建物もほぼ修繕を終えていた。庭には椿の花が満開だ。


陽菜と拓也も最初は数週間だけの予定だったが、いつの間にか帰るという話は出なくなっていた。陽菜は毎日のように台所へ立ち、献立を考えている。拓也も掃除や修繕を手伝い、訓練を受ける生活が当たり前になっていた。



その日も朝から境内には木槌の音が響いていた。拓也が材木を運んでいると、本堂の縁側から声が掛かる。


「それは、こっちへ置いてくれ」


一成だった。


いつ戻って来たのか分からない。


「帰ってたのか」


「昨夜な」


そう言いながら釘を打ち込んでいく。


一成は相変わらずあちこちを飛び回っていた。だが、気付けば寺で顔を合わせることも増えていた。


拓也は材木を下ろす。


「今度はどこ行ってたんだ?」


「札幌」


「何しに?」


「仕事」


いつもの返事だった。拓也は苦笑する。詳しく聞いても教えてくれないことは分かっていた。



昼食の席で、陽菜がふと口を開いた。


「そういえば、一成先生は最近よく帰って来ますね」


「そうか?」


一成は味噌汁をすすった。


「前はもっと長く空けていた気がします」


巌が小さく笑う。


「まあ、帰る場所ができたからな」


「余計なお世話だ」


一成はそう言ったが、皆は微笑むだけだった。



それからしばらくして、新たな親子が寺へやって来た。辻隆之と、その息子の智樹だった。


「しばらくお世話になります」


隆之が頭を下げる。


「こちらこそ」


悠真も笑顔で応じた。智樹も隣で頭を下げる。


「よろしくお願いします」


拓也とは対照的な印象だった。礼儀正しく落ち着いている。


「客間は隣です」


悠真が案内する。智樹は部屋へ入る前に境内を見回した。


「思ったより広いですね」


そう呟いた。



智樹が寺へ来て数日が過ぎた。境内を歩いていると、不意に頭上で木の枝が揺れた。見上げると、拓也が木の上のかなり高い所にいた。


「何してるんですか」


智樹が声を掛ける。


「別に」


拓也が答えた。智樹は首を傾げた。


「じゃあ、どうしてそんなところにいるんですか」


「なんとなく」


しばらく見上げていると、拓也がこちらを見る。


「登ってみるか?」


「え?」


智樹はもう一度見上げた。かなり高い。


「落ちませんか」


「大丈夫だろ」


根拠のない返事だった。だが拓也は本当に落ちそうに見えない。智樹は少し迷った後、幹へ手を掛けた。


「そっちじゃない」


拓也が上から声を掛ける。


「先にその枝」


智樹は言われた通り足を掛けた。思ったより安定している。


「次はそっち」


「こうですか」


「そう」


何とか途中まで登ったところで、智樹は息を吐く。


「どうしてそんなに上手に登れるんですか」


拓也は少し考えた。


「まあ、猿神系だからな」


「関係あるんですか」


「さあ」


拓也は肩をすくめるだけだった。



隆之はすぐに寺の生活へ馴染み、数日後には当たり前のように台所へ立っていた。


「辻さん、今日の献立はこんな感じでどうですか」


陽菜が問い、隆之が答える。


「いいと思いますよ。ただ、味噌汁よりすまし汁の方がバランスがいいと思います」


食卓の品数も少しずつ増えていった。



冬を超えて春を迎えた頃、今度は渡辺千春と沙耶香も寺へやって来た。


沙耶香はすぐに寺の生活へ馴染み、配膳、掃除や洗濯も手伝うようになった。一方で千春は、到着して間もなく静子の後ろを付いて歩くようになっていた。


「これは何の薬草ですか?」


「これはオオバコといって、咳止めなんかに使います」


静子の説明を千春は真剣な顔で聞いていた。静子はそんな様子を見て小さく微笑む。まるで昔の自分を見ているようだった。



その日の夜、子供たちが寝静まった後、本堂に教師陣が集まっていた。


「随分賑やかになりましたね」


静子が湯呑みを手に言う。


「そうだな」


巌が笑う。悠真も頷いた。


「皆さんのおかげです」


しばらく雑談が続いた後、悠真が資料へ目を落とした。


「そろそろ担当を決めようと思うのですが」


誰も異論はなかった。子供たちも増えたし、最初の頃のように全員で全員を見るだけでは難しくなってきている。


「千春さんは静子先生」


静子が頷く。


「智樹君は巌先生」


「分かった」


そして悠真は最後の一枚へ目を落とした。


「拓也君は一成先生にお願いしようと思います」


一成は少しだけ眉を上げた。


「俺か」


巌が指摘する。


「最近はどこへ行くにも一緒じゃないか」


一成は小さく息を吐く。


「まあ、いいだろう」



翌日の夕食後、悠真は子供たちを見回した。


「先生方とも相談して、皆さんの担当を決めました」


子供たちが顔を上げる。


「拓也君は一成先生」


拓也は特に驚かなかった。


「千春さんは静子先生」


千春も素直に頷く。


「智樹君は巌先生です」


「よろしくな」


巌が笑う。智樹も頭を下げた。


「よろしくお願いします」


悠真は皆を見回した。


「もちろん担当はありますが、皆で協力しあっていくことに変わりはありません。困ったことがあれば誰に相談しても構いませんからね」


子供たちはそれぞれ頷いた。



それから寺の生活は少しずつ今の形になっていった。

千春は静子と薬草畑を手入れしながら、治療や結界について学ぶようになった。智樹は巌との訓練を軸に他の先生の授業にも頻繁に参加した。拓也は一成の任務にも時々ついて行くようになった。気付けば二人揃って姿を消していることも珍しくない。


「拓也は?」


そう尋ねると、


「一成と一緒だろう」


そんな答えが返ってくる。それがいつの間にか当たり前になっていた。


台所では陽菜と隆之、そして沙耶香が夕食の準備をしている。


境内には子供たちの賑やかな声が響いていた。

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