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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
原点編
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その後

学校が閉鎖された後、能力者たちを取り巻く環境も大きく変化した。


事件の影響を受けて能力者の登録制度が強化され、政府は新たな管理部門を設立した。協会も教育や相談支援の体制を見直し、各地で様々な取り組みが進められていった。だが、それですべての問題が解決したわけではなかった。


能力を持つ子供たちは今も生まれ続けている。その力に戸惑う子供たちも。そして、どう接していいか分からず悩む家族も。



当時の関係者たちも、それぞれの道を歩み始めた。


静子は医療施設へ戻った。治療師として経験を積み、多くの患者と向き合った。治癒能力を伸ばすだけではなく、薬学や看護の知識も学び続けた。


巌は実家の道場へ戻った。厳しくも面倒見の良い師範として広く知られ、多くの弟子を育てた。


悠真は協会へ戻った。結界や龍脈の研究を続け、全国各地を飛び回った。


宗厳も顧問として協会に籍を置きながら、能力者たちへの助言や支援を続けていた。


一成は高名な天狗へ弟子入りして偵察や索敵の技術を磨き、能力者の間で一目置かれる存在となった。だが、どこにも長くは留まらなかった。依頼があれば赴き、気付けばまた別の土地にいる、そんな放浪にも似た生活が続いていた。


宵司は知り合いに誘われ、商店街で喫茶かまいたちを開いた。そして鎌鼬のネットワークと、様々な客から入ってくる情報をもとに独自の情報網を築いていった。誰よりも早く情報を掴み、誰よりも早く危険を察知する。それが宵司なりの答えだった。



事件から、十八年が経過した。


協会での会議を終えた後、資料を片付けている悠真に宗厳が声を掛けた。


「少し時間はあるかの」


「ええ」


宗厳は手にしていたファイルを机へ置いた。


「最近こういう相談が増えておってな」


悠真は資料へ目を通した。能力者の子供に関する相談だった。能力に関する悩み、学校での問題、周囲との軋轢など。家族だけでは対応しきれないケースも少なくない。


「増えているんですか」


悠真が眉をひそめる。宗厳は小さく頷いた。


「登録制度や支援体制はある程度整った。じゃが、それだけではどうにもならん問題もある」


悠真は黙って資料を読み進めた。いずれも能力の扱いに悩み、家族が相談を寄せている子供たちだった。


「どうしたものですかね」


悠真が呟く。宗厳は少し考え込むように腕を組んだ。


「わしにも答えは分からん」


静かな声だった。


「じゃが、放っておくのも何か違う気がしてな」


しばらく沈黙が続く。悠真は再び資料へ目を落とした。どの相談にも共通しているものがあった。子供たちが居場所を無くしていること。そして、それを支えようと必死に足掻く家族の姿だった。


悠真がゆっくり口を開いた。


「もし、預かれる場所があったらどうでしょう」


宗厳が顔を上げた。


「ほう」


悠真は言葉を選んだ。


「学校ではなく、少人数で一人ひとりと向き合う場です」


宗厳は何も言わない。悠真もまだ考えがまとまっているわけではなかった。ただ、漠然とした形だけは見え始めていた。


宗厳はしばらく考え込んだかと思うと、やがて小さく頷いた。


「やるなら止めはせん。ただし、今度はお前の番じゃ」


悠真は静かに頷いた。



初期の構想をまとめて申請すると、資金は宗厳の後押しで協会が支援してくれることになった。場所も宗厳の伝手で半ば廃寺のような状態になっている寺を、維持と管理を条件に無償で借りられることになった。


悠真が現地を訪れると、境内には雑草が伸び放題だった。本堂や庫裏もあちこち傷んでいる。正直、人を迎えられる状態ではない。それでも不思議と何とかなりそうな気がした。



悠真は旧友たちへ連絡を取った。


巌は二つ返事で引き受けた。後進も育っており、次の日には電車に乗っていた。


静子は「少し考えさせてください」と答えた。数日後、「引き受けます」と連絡が来た。ただ病院の都合もあり、来るのは数週間後になるらしい。


一成は長居出来るか分からないけれど、とりあえず手伝いには行く、と返事をしてきた。


何人か他にも連絡を取ったが、それぞれ事情があり参加は叶わなかった。それでも四人だけでも当面の間は十分だった。


これでとりあえず場所と教師が揃った。次は生徒だ。



最初に連絡を取ったのは山口拓也の母親の陽菜だった。数日後、悠真は陽菜の元を訪ねていた。


拓也は能力に恵まれていた。だが、それが裏目に出ることもあった。自分なら何とかできると思ってしまうのだ。人へ頼ることは少なく、危険なことでも一人で抱え込む。陽菜はそんな息子を心配していた。


一通り話を聞いた後、悠真は自分の考えを説明した。


「まだ構想段階なんですが、子供たちが安心して過ごしながら能力を伸ばしていける場所を作れないかと考えています」


陽菜は少し考え込んだ。


「施設のようなものなんでしょうか」


陽菜が尋ねた。悠真は首を振る。


「いえ、保護者の方も一緒に来ていただいて、皆で生活する場を考えています」


その言葉に陽菜は驚いたような顔をした。


「私もですか」


「ええ」


悠真は頷く。


「子供だけではなく、ご家族も含めて支えていきたいんです。まずは数週間試してみて、合わないと思ったら戻っていただいても大丈夫です」


陽菜はしばらく考え込んでいた。やがて小さく息を吐く。


「それを聞いて、少し安心しました。正直、子供を一人で送り出すのは不安だったんです」



寺に最初に到着したのは巌だった。境内を見回し、大きくため息を吐く。


「思ったより荒れとるな」


「まあね」


悠真が苦笑する。巌はしばらく境内を眺めていたが、やがて草刈り鎌を手に取って雑草の中へ入っていく。


寺作りは、そこから始まった。

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