襲撃
一成たちが入学して一年ほどの時間が過ぎた。生徒たちも学校生活にすっかり慣れて、日常に溶け込んでいた。
その日の授業もいつも通りだった。教師の説明が続き、生徒たちはノートを取っていた。窓の外では風に揺れる木々が見えた。
突然、警報が鳴り響いた。耳をつんざくような音に、教室の空気が一瞬で凍る。生徒たちが騒ぎ出した。教師が周囲を確認する。どこからともなく現れた連絡札を見て顔色を変えた。
「全員落ち着きなさい!」
教室が静まり返る。
「侵入者が感知されました」
一瞬、誰も言葉の意味を理解できなかった。教師はすぐに続ける。
「避難訓練通り行動してください。講堂へ向かいます」
生徒たちは慌てながらも席を立った。その時だった。一成が窓の外を見たまま動かない。
「一成お兄ちゃん?」
霞が不思議そうに声を掛ける。
一成は何かを感じ取っていた。結界の流れ。空気の揺らぎ。何かがおかしい。
「ちょっと行ってくる」
そう言うなり、一成は教室を飛び出した。
「おい!」
宵司が声を上げた。だが一成は振り返らない。
「霞を頼む」
それだけを残して消えるように駆けていった。教師が止める間もなかった。宵司は小さく舌打ちする。
「行くぞ」
霞へ声を掛ける。
避難が始まった。
◇
一成が校舎の外へ出ると、すでに結界の一部が破られていた。あちこちに侵入者が散らばってゆく。遠くで爆発音が響く。別の方向でも戦闘が始まっているらしい。
一成は高所へ移動した。敵の位置を確認する。複数の班に分かれて動いている。訓練された集団だった。しかも動きに無駄がない。明らかに何かを探している動きだ。急いで講堂へ向かい、教師たちへ情報を伝えた。侵入口、敵の人数、確認できた配置。その情報は後の対応に大きく役立つことになる。
◇
避難する生徒たちは講堂へ向かっていた。教師たちが前後を固めている。皆、訓練通りに動いていた。だからこそ油断していた。まさか避難経路に突然敵が現れるとは思っていなかったのだ。
廊下の曲がり角から突然人影が現れた。見知らぬ男たちだった。教師が叫ぶ。
「下がれ!」
戦闘が始まった。術が飛び交う。銃声が響く。悲鳴が上がる。教師たちが前へ出る。戦闘向きの生徒たちも援護へ回った。避難列は混乱に包まれた。
宵司は霞を庇いながら後退した。
「霞!」
その時だった。別方向から飛んできた攻撃が霞を直撃する。宵司の反応よりも速かった。霞の身体が崩れ落ちる。
「霞!」
宵司も吹き飛ばされ、肩から血が流れていた。だが構っている余裕はない。霞が動かない。
周囲ではまだ戦闘が続いている。宵司は霞を抱き上げた。
「霞、聞こえるか?」
返事はなかった。
◇
保健室は戦場のようだった。負傷者が次々と運び込まれている。静子は治療を続けていた。止血。応急処置。治療。休む暇もない。
そこへ宵司が飛び込んできた。
「先生!」
静子が振り向く。そして霞を見ると、青ざめた。
「こちらへ!」
静子は傷口を確認する。表情がさらに険しくなった。
他の負傷者もどんどん運ばれてくる。外ではまだ戦闘が続いている。
一成が霞たちを探して保健室へ来ると、ベッドに横たわる霞を見て唖然とした。
「霞……」
静子は治療の手を止めなかった。
「全力を尽くしています」
それ以上は何も言わなかった。一成は霞の手を握り、宵司も一成の肩に手を置いた。二人とも一言も喋らなかった。
◇
戦闘が終息したのは、それからしばらく後だった。
侵入者の一部は死亡、残りは逃走した。だが被害は大きかった。死傷者多数。行方不明者もいた。
そして――
霞は帰らなかった。
◇
養成学校襲撃事件は大きな社会問題となった。能力者養成学校の安全性を疑問視する声は日に日に大きくなっていった。
そして事件からしばらくして、学校は閉鎖された。




