表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻獣の絆  作者: 斎佳奈
原点編
PR
52/73

学校

「一成先生がですか?」


香月は思わず聞き返した。悠真は少し笑う。


「結構な問題児でしたよ」


その言葉に香月は目を丸くした。今の一成からは想像がつかない。


「もちろん優秀ではありました。ただ、気になったことがあると放っておけない性格でしてね」


少し懐かしそうに目を細めた。



養成学校には全国から能力者の子供たちが集まっていた。授業も多岐にわたり、結界術、戦闘訓練、治癒術、幻術、付与術に加え、各地の血脈や歴史について学ぶ座学もあった。


その日の授業は結界術だった。教室では教師の説明が続いていた。生徒たちは真面目にノートを取っていた。だが、一成だけは窓の外へ視線を向けていた。校庭の木に止まった一羽のカラス。何度か鳴いたあと、落ち着きなく枝を移っている。どこか様子がおかしかった。


「杉林」


教師に名を呼ばれる。一成は視線を戻した。


「今の質問の答えを言ってみろ」


教室の空気が少しだけざわつく。だが一成は淡々と返事をした。教師はため息をつく。


「聞いているなら結構だ」


教室に小さな笑いが広がった。だが一成の意識は再び窓の外へ向いていた。授業が終わると、一成は席を立った。


「どこへ行くの?」


後ろから声がする。幼馴染の森岡霞だった。


「ちょっとな」


それだけ言って教室を出る。霞は何も言わず後を追った。


少し離れた席では、不破宵司が面倒そうに頬杖をついていた。


「またか」


小さく呟いて立ち上がる。


校舎から少し離れた丘の麓。カラスが騒いでいた辺りだった。しばらく周囲を調べていた一成が足を止める。


「どうしたの?」


霞が尋ねた。


一成は地面の一角を指差した。結界の一部が僅かに歪んでいた。放置しても大事にはならない程度の小さな綻びだった。だが一成は眉をひそめる。


「何か見つけたの?」


霞が覗き込む。宵司も少し遅れて斜面の上から覗き込んだ。


「また面倒事か?」


「さあ?」


一成は首を傾げた。大袈裟に騒ぎ立てるほどではない。ただ何となく引っ掛かった。自然に傷んだのかも知れないが、誰かが弄ったようにも見えた。もちろん確信はない。


「先生に報告しないと」


霞が言う。


「もう少し見てくる」


一成は斜面を降り始めた。


「危ないって」


霞が声を上げる。


足場はあまり良くなかった。一成は構わず進む。もう少し近づけば、もっと細かく様子が分かる気がした。


その時だった。足元の土が崩れ、一成の身体が傾く。咄嗟に近くの岩へ手をつき、体勢を立て直した。


「一成お兄ちゃん!」


霞が駆け寄る。


一成は顔をしかめながら腕を見る。肘の辺りを岩で擦ったらしい。血が滲んでいた。


「たいしたことない」


そう言って立ち上がる。


結局、その綻びについては教師へ報告した。もっとも、その時は誰も深刻には考えていなかった。後で修復すれば済む程度のものだったからだ。


ただ、一成だけは最後まで少し気にしていた。



保健室の扉を開けると、中では静子が書類へ目を通していた。足音に気付いて顔を上げる。


「どうしたんですか?」


そして一成を見るなり少し苦笑した。


「また怪我ですか」


一成は何も言わない。代わりに霞が前へ出た。


「一成お兄ちゃんがまた無茶をしたんです」


「無茶って言うほどではないと思うけど」


静子はさらに苦笑した。


「とりあえず見せてください」


一成は渋々椅子へ腰を下ろした。静子は傷口を洗い、丁寧に消毒していく。


「少し沁みますよ」


消毒液が触れた瞬間、一成が僅かに顔をしかめた。静子は慣れた手付きで包帯を巻き終える。


「これで大丈夫です」


「ありがとうございます」


「次からは気を付けてくださいね」


一成は曖昧に頷いた。


静子は少しだけ笑った。



昼になると、生徒たちは一斉に食堂へ向かった。全国から集まった生徒たちが思い思いに席へ着き、賑やかに昼食を取っていた。


一成たちも空いている席へ腰を下ろした。霞は隣。宵司は向かい側だ。


「午後は格闘技の訓練だったっけ」


霞が言う。


「そうだ」


一成が答えた。宵司がぽつりと言った。


「午後の訓練、巌先生か。終わったな」


その言葉に三人は少しだけ顔を見合わせた。



午後の訓練は予想通り過酷だった。訓練場では巌の声が何度も響く。生徒たちは汗だくになりながら走り回っていた。


「足が止まっとるぞ!」


容赦のない叱咤が飛ぶ。だが理不尽ではない。誰よりも先に動き、誰よりも生徒のことを見ているからこそ、生徒たちも文句は言わなかった。


訓練が終わる頃には、皆がへとへとになっていた。夕日が校舎を赤く染めている。一成は訓練場の端に腰を下ろし、水筒の水を飲んでいた。


「一成お兄ちゃん!」


聞き慣れた声が飛んでくる。霞だった。


「一緒に帰ろう!」


「先に帰れ」


「ううん、待ってる」


こうと決めたら霞は譲らない。一成は呆れたようにため息をつく。


「なんでだよ」


「そんなの、別にいいでしょ」


霞は笑った。その時、後ろから声がした。


「そろそろ帰るか」


振り返ると宵司が立っていた。一成は眉をひそめる。


「お前もか」


「悪いか」


結局、三人は並んで寮へ向かった。


夕暮れの校庭にはまだ生徒たちの声が残っていた。自主訓練を続ける者。仲間と盛り上がっている者。寮へ戻る者。


ごく普通の学校生活だった。



「本当に手の掛かる生徒たちでしたよ」


悠真は苦笑した。香月も思わず笑う。


「でも、楽しそうですね」


悠真は少しだけ目を細めた。


「ええ」


窓の外へ視線を向ける。


「あの三人は、いつも一緒でしたから」


まるで遠い昔に思いを馳せているかのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ