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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
原点編
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始動

翌朝、朝食が終わると、悠真が皆へ声をかけた。


「少し話があります」


皆が振り向く。食器を片付けようとしていた子供たちも手を止める。宗厳たちも同席していた。悠真は皆の顔を見渡した。


「数か月後、富士で大規模な結界修復が行われます」


康太が目を瞬く。


「富士山?」


「そうです」


悠真は頷いた。


「全国各地から結界師や支援要員が集まります。寺からも何名か参加する予定です」


子供たちの間に小さなどよめきが広がった。だが悠真は続ける。


「ただし、勘違いしないでください」


場が静かになる。


「皆さんを主戦力として連れていくわけではありません」


康太たちが顔を見合わせた。


「富士には経験豊富な結界師や支援要員が集まります。皆さんには学ぶために参加してもらいます」


悠真は穏やかに言った。


「実地研修だと思ってください。これほど大規模な結界修復を見る機会は滅多にありません」


宗厳も頷く。


「うむ。見て学ぶだけでも大きな経験になるじゃろう」


子供たちの表情が少し和らいだ。


「そこで今日から訓練内容を変更します」


悠真は紙を取り出した。


「結界組」


静子、千春、智樹、香月。


名前が読み上げられる。


「後方支援組」


一成、拓也、陽奈、隆之、沙耶香。


「索敵、連絡、調理、治療補助などを担当してもらいます」


皆が頷く。


最後に悠真が視線を向ける。


「護衛・戦闘組」


巌、悟、康太。


一瞬だけ沈黙が流れた。


巌が腕を組む。


「今日から訓練内容を変える」


康太が悟を見る。


「嫌な予感がする」


悟も苦笑した。



午前中、香月は静子に連れられて訓練場へ来ていた。千春と智樹も一緒である。


「今日は少し変わったことをします」


静子が言った。


「まず、千春ちゃん、智樹君、私と一緒に小さな結界を張ってみましょう」


三人が机の上に小さな結界を張る。淡い光が空中へ広がった。


「香月さん、結界を観察して、感じたことを教えてください」


香月は目を閉じる。結界に意識を向けた。初めは特に何も感じなかった。いつもの結界と変わらないように見える。


「普通の結界です」


静子が念を押す。


「もっと集中して。僅かでもいいから、違和感はない?」


集中していくうちに、僅かな違いが見えてくる。


「あ……」


静子が促した。


「何本ある?」


香月は慎重に答える。


「三本……です」


静子が頷いた。


「そう」


千春が少し嬉しそうな顔をする。


「本当に分かるんですね」


「まだ何となくだけど」


香月は苦笑した。


「じゃあ次」


静子が指先を動かす。


三本の流れが少しずつ絡まり始めた。


「今度はそれぞれの流れを分けてみましょう」


香月は集中する。だが上手くいかない。複雑に絡まった糸を無理やり解きほぐすような抵抗がある。


結界が少し揺らいだ。


「焦らなくていいから」


静子が優しく言う。


「最初からできる人なんていないわ」


もう一度。さらにもう一度。何度か繰り返すうちに、少しずつ違いが見えるようになっていった。



昼前。


「では次」


静子が言う。


「今度は繋いでみましょう」


香月は瞬きをした。


「繋ぐ?」


「そう」


静子が頷く。


「ひとつひとつの糸を、今度は三つ編みのように紡ぐイメージで」


香月は三人の流れへ意識を向けた。無理に引っ張らない。流れに寄り添うように、そっと触れる。すると、ほんの一瞬だけ、別々だった流れが自然に重なった。結界がわずかに安定する。千春が目を丸くした。


「今、結界が強くなりました」


智樹も頷く。静子は小さく目を細めた。


「なるほどね」


香月自身が一番驚いていた。解きほぐすよりも、こちらの方がずっと自然に感じた。



その頃、巌の訓練組は山道をかけ登っていた。


「まだ走るの!?」


康太が悲鳴を上げる。


「まだ始まったばかりだ」


巌は振り返りもしない。悟が肩で息をする。


「康太、諦めろ」


「兄さまも息、切れてるけど!?」


「気合いで何とかするしかない」


二人の後ろを着いて来ていた清志が思わず笑った。



夕方。訓練を終えた香月は縁側へ腰を下ろした。静子が隣へ座る。


「どうだった?」


香月は少し考えた。


「音楽みたいだと思いました」


「音楽?」


「はい」


香月は頷く。


「みんなそれぞれ音が違うんです」


少し言葉を探す。


「違う音が重なって音楽を奏でているみたいで」


静子は静かに耳を傾けていた。


「少しだけ、やり方が分かったと思います」


静子は小さく微笑む。


「それで十分よ」


境内の向こうでは康太や悟たちがストレッチをしている。訓練場には千春と智樹の姿も見えた。


富士の集結に向けて、寺は少しずつ動き始めていた。


香月もまた、自分の進むべき道を見つけ始めていた。

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