ただいま
寺へ戻ったのは夕方だった。見慣れた山門が見えた瞬間、香月はどこかほっとした気持ちになった。
境内へ足を踏み入れると、真っ先に声が飛んできた。
「香月姉ちゃん!」
康太だった。その後ろから千春や拓也、智樹も続いていた。
「おかえりなさい!」
「おかえり!」
口々に声が飛ぶ。香月は思わず笑った。
「ただいま」
その言葉が自然に口をついて出た。
「お土産です」
香月が桃太郎のイラストが描かれた紙袋を子供たちに差し出す。
「きびだんご!」
康太が目を輝かせた。
「桃太郎だ!」
子供たちはさっそく袋を覗き込んでいた。
◇
その日の夕食は、いつも以上に賑やかだった。里で見たもの。食べたもの。温泉の話。
子供たちからは寺であった出来事が次々と報告される。話題は尽きなかった。香月は時折笑いながら耳を傾ける。気付けば食卓を囲む時間が、以前よりずっと自然に感じられた。
◇
夕食後。事務所には宗厳達と教師陣が集まっていた。
宗厳は今回の旅で見聞きしたことを順を追って説明した。全国各地で起きている異変。各地の龍脈の乱れ。協会の動き。そして数か月後に予定されている富士での大規模な結界修復。説明が終わると、しばらく沈黙が流れた。
最初に口を開いたのは悠真だった。
「状況は思っていた以上に切迫していますね」
宗厳は頷く。
「楽観できる状況ではないのう」
静子も表情を引き締める。
「こちらも訓練内容を見直した方が良さそうですね」
「そのために来たんじゃ」
宗厳は湯呑みを置いた。
「結界を扱える者はできるだけ育てておきたい」
そして悠真へ視線を向ける。
「特に香月はこれから伸びるじゃろう」
悠真は黙って耳を傾ける。
「今回の旅で確かな手応えがあった。ここから先は訓練次第じゃ」
「分かりました」
悠真が頷く。宗厳は続けた。
「康太もじゃな」
巌が腕を組む。
「まだ荒いですが、伸びています」
「そうじゃろうな」
宗厳は静かに言った。
「明日から特訓を強化する」
全員が頷いた。
富士まで残された時間は多くない。そのことを誰もが理解していた。
◇
その頃。香月は客間の外にある縁側へ腰を下ろしていた。お風呂上がりの火照った体に、夜風が心地良い。
遠くから子供たちの笑い声が聞こえてくる。康太の声も混じっていた。香月は小さく目を細める。
本当の意味で物事が動き出すのは、これからなのかもしれない。そんなことを考えながら、静かな夜空を見上げた。




