帰る場所
家へ戻ると、宗厳たちは居間で茶を飲んでいた。向かいに腰を下ろす。
「どうじゃった?」
宗厳が尋ねる。香月は少し考えてから答えた。
「何かを、感じました」
宗厳が静かに頷く。
香月は鏡の前で感じたことを話した。今まで一つにしか感じられなかった流れが、二つに分かれて感じられたこと。互いに絡まりながら存在していたこと。
話を聞き終えると、宗厳は腕を組んだ。
「やはりのう」
由里子も頷く。
「それだけはっきり感じられたなら取っ掛かりとしては十分ですね」
宗厳は香月を見る。
「ここから先は訓練あるのみじゃ」
祖母も静かに頷いた。
「昔の巫女はな、力を繋ぐ役目をしとったそうじゃ。力を強くすることもあれば、逆に整えることもあった。複雑に絡まった力をほどいて、本来の形へ戻すこともできた」
祖母は少し笑った。
「もっとも、私にはできんけどね」
香月はふと思いを馳せた。玄武の地の奥深くから伝わってきた大きな流れ。青龍の海と潮の流れ。白虎の空気の流れ。そして麒麟が人を、力を、繋ぐ。
今まで旅の中で感じてきたことが、全てひとつに繋がったように感じた。
◇
「次は朱雀へ向かう予定じゃったが、予定を変えるかの」
由里子が顔を上げた。
「寺へ戻るんですか?」
「うむ」
宗厳は頷く。
「香月はしばらく訓練に集中した方が良い。ここまで見えたのなら、後は伸びやすくなっとるじゃろう」
清志も頷いた。
「僕もそう思います」
香月は少し驚いた。まさか予定を変えるとは思わなかった。
だが宗厳は真剣だった。由里子も清志も当然のように頷いている。それだけ重要だということなのだろう。
◇
夕刻が近づく頃、宗厳が立ち上がった。
「そろそろお暇じゃの」
香月は祖父母へ頭を下げた。
「今日は、ありがとうございました。お会いできて嬉しかったです」
祖母が微笑む。
「こちらこそ来てくれてありがとう」
祖父は腕を組んだまま頷いた。
「また来い」
短い言葉だった。少し間を置く。
「秋は神楽の時期じゃ」
祖母がくすりと笑う。
「おじいさん、今でも毎年舞うんじゃ。香月さんに見てもらいたいんじゃよ」
「余計なこと言わんでええ」
祖父が顔をしかめた。香月が答える。
「はい、是非また来ます」
◇
麒麟の里での滞在を終えて、東京行きの新幹線に乗る。見慣れぬ街並みが目まぐるしく後方へと置き去りにされていく。香月は窓にもたれた。頭の中に様々なことが浮かぶ。父と母のこと。祖父母のこと。力のこと。そして寺のこと。
康太、悟、悠真、静子、千春、沙耶香、寺のみんな。離れていたのはほんの1週間ほどだ。それなのに、なぜだろう。もうずいぶん長い間会っていないような気がした。香月は小さく息を吐く。
知らない間に、あそこは自分の帰る場所になっていたのだ。




