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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
里巡り編
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麒麟の里

青龍の里の人々は最後まで親切だった。浜崎たちに見送られ、一行は麒麟の里へ向かった。


移動は特急がメインで、思ったよりもスムーズだった。窓の外には山々の間にたまに集落が顔を出すくらいで、あまり変化がない。途中で由里子が買ってきた名物だというかに寿司を食べた。乗り換えを含めても三時間とかからなかった。


気が付けば、一行は駅のホームへ降り立っていた。目的地は徒歩で数分らしい。


「こっちじゃ」


宗厳が先導する。香月たちはその後に続いた。


駅前には焼き物の店やギャラリーが並んでいた。瀟洒なカフェも見える。通りはそれなりに賑わっており、観光客らしい姿もちらほら見えた。


やがて宗厳が足を止めた。


「着いたぞ」


香月は目の前の建物を見上げた。五階建てほどのオフィスビルだった。


「ここですか?」


「そうじゃ」


宗厳は頷く。


「ここがわしの勤める協会の本部じゃ」



自動ドアを抜ける。エレベーターを最上階まで上がると、待合室のような部屋に着く。見晴らしの良い窓からは町並みが一望できた。レンガ造りの煙突が点在し、その向こうに山が見える。


受付の女性が顔を上げた。


「お久しぶりです、宗厳先生」


「うむ」


「どうぞ座ってお待ちください。担当のものにお伝えします」


宗厳は軽く頷いた。しばらくすると、すっきりとしたスーツ姿の女性が迎えに来た。


「お待たせしました。井出神奈子です。協会の事務局長をしております」


丁寧に頭を下げる。


「理事長がお待ちです」


一行は神奈子の後について会議室へ向かった。



会議室にはすでに数人が集まっていた。中央に座っていた男性が立ち上がる。


「久しぶりだな、宗厳」


「相変わらず忙しそうじゃな、嶺二」


二人は軽く握手を交わした。


近藤嶺二。血脈者の協会の理事長だという。


その後、他の出席者もそれぞれ自己紹介をした。財務担当者。経理担当者。代議士。地域企業の代表者。どれも普段なら香月とは縁のない肩書きばかりだった。正直、顔も名前も半分も覚えられなかった。


「では始めましょう」


神奈子が資料を開く。その時だった。


「失礼します」


職員が大型のパネルを運び込んできた。ガラガラと音を立てながら壁際へ設置する。香月は思わず目を向けた。


そこには日本地図が貼られていた。北海道から九州、沖縄まで。至る所に付箋、写真やメモが貼られている。


宗厳が満足そうに頷いた。


「ほう。ちゃんとまとめてあるな」


「各地から届いた報告を整理したものです」


神奈子が答える。


香月は地図を見つめた。今まで回ってきた里は、その中のほんの一部に過ぎない。全国にはまだ香月の知らない里が数多く存在している、と改めて実感した。


「まず結論から申し上げます」


神奈子が資料をめくる。


「各地で確認されている異変ですが、個別の事象ではなく、全国規模で発生している可能性が高いと考えています」


会議室の空気が少し引き締まる。神奈子は地図の数か所を示した。


「白虎の里では森の活力低下。玄武の里では地脈の乱れ。青龍の里では海流や魚群の変化」


「全国各地からも類似報告が届いています」


宗厳が腕を組む。


「やはり全国規模か」


「様々な統計を分析しましたが、同じ結論に至りました」


嶺二が頷いた。


神奈子はさらに資料を進める。


「問題はこちらです」


次に映し出されたのは統計資料だった。出生率や死亡率、農業、漁業、医療、治安に関する様々な数字が並んでいる。


「現時点で因果関係は証明できていません」


神奈子は慎重に言った。


「ただし、龍脈の弱体化が確認されている地域と重なる傾向があります」


代議士の男性が眉をひそめる。


「どの程度ですか?」


「収穫量の低下。水流の乱れ。森の枯死。犯罪件数の増加。原因不明の体調不良。事故件数の微増などです」


神奈子は資料を示した。


「どれも単独なら誤差の範囲です。ですが、同じ傾向が全国で確認されています」


会議室が静かになる。

香月にはよく分からない話も多かった。だが一つだけ分かることがある。放置していい状況ではない、ということだ。


「富士の件はどうなっておる」


宗厳が尋ねた。嶺二が資料を開く。


「準備段階です。現在、必要な人員の洗い出しを進めています」


結界師、治療担当者、後方支援の召集。宿泊設備、運搬、資材などの手配。資金繰り。次々と項目が挙げられていく。


「まだ正確な日時は断定できん」


宗厳が言う。


「じゃが準備だけは進める必要がある」


「その点は同意します」


嶺二が頷く。


会議はさらにしばらく続いた。皆が真剣な表情で議論を続けている。やがて神奈子が資料を閉じる。


「本日の議題は以上です」


会議室の空気が少し緩む。皆が資料を片付けて立ち上がろうとした、その時だった。


「ところで」


宗厳がふと思い出したように口を開く。出席者たちが振り返る。


「一つ頼みがあるのじゃが」


宗厳は香月を見た。


「この子の父親についてじゃ」


香月の背筋が伸びる。


宗厳は知っている情報を簡潔に説明した。少なくとも二十五年前に里を出ている。おそらく麒麟の里の出身であること。当時、京都にいたこと。背が高く、痩せ気味であったこと。左肩の後ろにひょうたん型の痣があったこと。話を聞いた出席者たちは顔を見合わせた。


「古い話ですね」


「その頃に里を出た者なら何人かおります」


「心当たりがないこともありませんが……」


誰も即答はできない。それが当然だった。それでも、皆それぞれの人脈を当たると約束してくれた。



会議の後は歓待の席が設けられた。


豪華な料理と酒でもてなされ、その後案内された宿も立派なものだった。


部屋へ入ると、香月は大きく息を吐いた。今日一日で見たものはあまりにも多い。全国地図。各地の異変。富士。そして父のこと。明日には何かめぼしい情報が入ってくるだろうか。


そんなことを漠然と考えながら、香月は布団へ潜り込んだ。

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