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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
里巡り編
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39/73

見送り

翌朝。


食卓には湯気の立つ味噌汁と焼き魚、炊きたてのご飯が並んでいた。海苔、おひたし、漬物。地鶏の玉子をご飯の上に割る。やはり実家の朝食は落ち着く。


香月は箸を伸ばしながら小さく息をつく。東京で働いていた頃は、こういう朝食を毎日食べる機会はそう多くなかった。


焼き魚をほぐし、ご飯を口へ運ぶ。味噌汁をすすりながら、香月はぼんやりと思う。またしばらく実家の味が食べられなくなるのか。


その向かいでは宗厳と勲が話していた。会話の端々が聞こえてくる。


「最近、若い者も減ったしな」


「どこの里も似たようなもんじゃ」


香月は卵をご飯に落としながら、昨夜見学した工房の光景を思い出した。整然と並ぶ反物。手入れの行き届いた道具。それでも売れないのだという。そんなことを考えながら箸を進める。


朝食は静かに終わった。



出発の準備を終え、一行は玄関先へ集まった。荷物は既にまとめてある。迎えの車ももうすぐ来るらしい。香月は宗厳へ声をかけた。


「昨日の話はどうだったんですか」


宗厳は杖に手を添えたまま答える。


「まあ、まとまった。皆、協力は惜しまんそうじゃ」


「そうですか」


「どこの里にも悩みの一つや二つはあるもんじゃ」


宗厳は穏やかに笑った。


ほどなくして車が到着した。一行が乗り込む前に、弥生が香月の前へ来る。


「今度はちゃんと連絡してちょうだいね」


「うん」


「特に今回みたいなことがあった後なんだから」


香月は苦笑する。


「ごめん」


「本当に心配したんだから」


「今度はちゃんと電話する」


弥生はため息をついた。だがその顔には安堵も見えていた。


香月は勲の方を見る。勲はいつも通りの顔だった。


「達者でな」


短い言葉だった。


「うん。今度はもっとゆっくり帰るよ」


香月は少し笑う。


「ありがとう、おじいちゃん」


勲は照れ臭そうに頭を掻いた。


車がゆっくりと動き出す。窓越しに手を振る。祖父と母の姿が少しずつ遠ざかっていった。



列車が走り出す。窓の外には深い緑の山々が続いていた。川が光を反射しながら流れ、ところどころに田畑や小さな集落が見える。


香月は流れていく景色をぼんやりと眺めた。数日しか滞在していないはずなのに、不思議と名残惜しい。母のこと。祖父のこと。父の話。昔の話。様々な想いが頭をよぎる。


「話は聞けたか?」


宗厳が尋ねた。


「結局あまり何もわかりませんでした」


香月は正直に答えた。


「母も父の正体は結局知らないみたいだし、背が高くて、当時の母より少し年上で、肩の後ろにあざがあるくらいしかわかりませんでした」


宗厳は頷く。


「そうか」


香月は窓の外へ目を向ける。


「次はどんな里なんですか」


宗厳は少しだけ考えた。


「玄武の里じゃ」


それから付け加える。


「酒がうまい」


香月は思わず笑った。


「それだけですか」


宗厳も笑う。


「まあ、行けば分かる」


列車は山あいを縫うように進んでいく。


その先には、まだ見ぬ玄武の里が待っていた。

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