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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
里巡り編
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同行

結界の構築が一通り終わると、宗厳はゆっくりと一同を見回した。


「これで土台はできた」


全員が顔を上げる。


「じゃが、まだ完成ではない」


宗厳は御神木へ視線を向けた。


「結界は張って終わりではない。しばらくは交代で力を流し、馴染ませながら強化していく必要がある」


悠真が頷く。


「数日ほどかかりそうですね」


「うむ」


宗厳は杖を軽く地面へ突いた。


「焦る必要はない。管理維持はおぬしらで出来るじゃろう」


その言葉に皆の表情が少し和らいだ。


「今日はここまでじゃ。解散してよい」


子供たちがほっとした顔をする。その時だった。


「香月さん」


宗厳が呼び止めた。


「はい」


「悠真もじゃ」


悠真も顔を上げる。


「少し話がある。後で事務所へ来なさい」



事務所へ入ると、悠真がお茶を勧めてくれた。宗厳は湯呑みを掌の中でゆっくりと回した。器の風合いをしばし眺めてから、茶をすすった。しばらく静かな時間が流れる。


やがて宗厳が口を開いた。


「香月さん」


老人の視線が向く。


「おぬしの中にある二つの流れについてじゃが」


香月は背筋を伸ばした。


「はい」


「心当たりはあるか」


香月は少し迷った。だが首を横に振る。


「ありません」


宗厳は頷いた。


「そうか」


少し考えるように目を閉じる。


「儂にも確証はない」


宗厳は静かに言った。


「じゃが、麒麟に似た流れを感じた」


香月は思わず目を瞬いた。


「麒麟……ですか?」


悠真も静かに宗厳を見る。宗厳は続けた。


「儂も麒麟の系譜なのでな。少し気になった」


「おぬしは白虎の里出身と言っていたが、ご両親は二人とも白虎かね?」


香月は苦笑した。


「母は白虎です。でも、父については何も知らないのです」


そして母から聞いている話を簡単に説明する。母は白虎の里の出身。父は里の外で出会った人。母は妊娠に気づく前に里へ戻っていたので、父とは接点が全くないこと。母が話したがらないので、父親について詳しいことは何も聞いていない。宗厳は黙って聞いていた。


「そうか」


静かな返事だった。


「もう一つの流れの正体が分からんことには、上手く導くのは困難じゃ」


香月は小さく俯く。すると宗厳が続けた。


「母親に話を聞くことは可能か?」


香月は少し考えた。


「今まで詳しいことは話してくれませんでした」


正直に答える。


「でも、大事なことだと説明すれば、話してくれるかもしれません」


宗厳は頷いた。


「そうか」


そして湯呑みを置いた。


「ちょうど良い機会かもしれんな」


香月が顔を上げる。


「実は儂は今、各地の里を回っておる」


「里を?」


宗厳は頷いた。


「全国各地で龍脈上の結界に綻びが生じておる」


香月は息を呑む。


「他の里でも起きているんですね」


「うむ」


宗厳の表情は穏やかだった。


「だから各里へ協力を要請しておる」


悠真も頷く。


「先生はその中心になって動いておられるんです」


宗厳は続けた。


「白虎の里にも向かう予定じゃ」


香月の胸が僅かに高鳴る。


「おぬしの祖父にも会って話をする予定じゃった」


香月は目を見開いた。祖父には何年も会っていない。結界のことを教えてくれた人。そして、自分が里を離れる時も反対しなかった人。


宗厳は静かに言った。


「どうじゃ。一緒に来るか」


香月は言葉を失った。


白虎の里。母。義父。祖父。懐かしさが込み上げてくる。そして父親のこと。聞きたいことがたくさんある。けれども。


「ご迷惑ではありませんか?」


思わずそう尋ねていた。宗厳は少し首を傾げる。


「何がじゃ?」


「私もご一緒して大丈夫なのでしょうか」


宗厳は小さく笑った。


「三人も四人も同じことじゃ」


「それに、おぬしの力の問題も大事なことじゃ」


悠真も頷く。


「私も良い機会だと思います。原因が分からなければ、今後の指導も難しくなりますから」


香月は黙り込んだ。宗厳は急かさない。


「少し考えさせて下さい」


やがて香月はそう答えた。


「うむ、いいじゃろう」


宗厳は頷いた。



その夜。香月は縁側で悟と康太へ話をした。話を聞き終えた悟は静かに頷く。


「行った方が良いと思います」


「でも……」


香月が口を開く。悟は小さく笑った。


「僕たちに遠慮はしないでください」


その言葉に香月は少し驚く。


「今までたくさん助けてもらいましたから」


康太も頷いた。


「僕も大丈夫だから」


そう言って胸を張る。


「香月姉ちゃんが戻ってくる頃には、僕もっと強くなってるから」


香月は思わず笑った。


「そう?」


「うん!」


康太は大きく頷く。その顔を見ていると、不思議と迷いが薄れていく。



翌朝。香月は宗厳のもとを訪れた。


「ご一緒させてもらってもよろしいでしょうか」


宗厳は静かに頷いた。


「ありがとうございます」


香月が頭を下げる。


「うむ」


返事はぶっきらぼうだったが、不思議と心強かった。


「では結界が安定したら出発じゃ」


香月は小さく頷く。


故郷へ。何年も帰っていない白虎の里の皆に会いに行く。


何が待っているのか、まだ分からない。不安もある。けれどそれ以上に、家族に会える喜びに胸の奥が熱くなった。

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