表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻獣の絆  作者: 斎佳奈
里巡り編
31/41

調和

翌朝、まだ朝霧の名残が漂う中、寺の裏手にある御神木の前へ全員が集合した。宗厳は杖を手に一同を見回す。


「さて」


静かな声だったが、不思議とよく通る。


「結界を張る前に、まずは、おぬしらの力を見せてもらう」


宗厳は地面に杖を突いた。


「結界とは壁ではない」


香月は思わず耳を傾ける。


「流れじゃ」


宗厳は御神木へ視線を向けた。


「異なる力を繋ぎ、調和させ、循環させる。それが結界の本質じゃ」


悠真も静かに頷いている。


「まずは二人一組になれ。組み合わせは昨晩、適性や経験を考慮して教師陣と決めたものだ」


由里子が組み合わせを読み上げる。悠真と香月。静子と千春。巌と康太。一成と悟。由里子と沙耶香。清志と智樹。陽奈と隆之。


宗厳はその様子を眺めながら続けた。


「まず、向かい合って手を合わせろ。こう言う風に」


手のひらを外に向け、胸の前に持ち上げる動作をする。全員が向かい合って、手のひらを互いへ向ける。


「未経験者は相手へ力を流すつもりでやれ。経験者はそれを導き循環させる。二つの力を調和させるのじゃ」


その言葉に香月は首を傾げた。


「調和……?」


宗厳は頷く。


「自分の力と相手の力を混ぜ合わせて一つの流れにする。押し込むのでも、押し返すのでもない。まずはやってみろ」



最初に宗厳が足を止めたのは静子と千春の前だった。二人の間にはすでに穏やかな流れが生まれている。宗厳は小さく頷いた。


「ほう」


静子が微笑む。


「一年以上一緒にやってますから」


千春が少し照れたように笑う。宗厳は満足そうに頷いた。


「よく育っておる」


続いて清志と智樹。二人の間にも安定した流れが生まれていた。宗厳が近づく。


「悪くない。肩の力を抜けば、もっと通りが良くなるじゃろう」


智樹の表情が少し明るくなる。清志が笑った。


「うまく出来てるだろ?」


「おぬしのことは褒めておらん」


「ええー」


周囲から小さな笑いが漏れた。



陽奈と隆之の組も順調だった。


「こんな感じでしょうか」


「たぶんな」


二人とも半信半疑だったが、流れは自然だった。宗厳が頷く。


「悪くない」


陽奈が少し驚く。


「そうなんですか?」


「頭で考えすぎておらん。それが良いのじゃろう。」


宗厳は言った。隆之が苦笑する。


「考えるのは苦手なんで」


「私もです。でも、難しく考えすぎない方がいいのかも知れませんね」


陽奈も笑った。



次に由里子と沙耶香の前で宗厳は足を止めた。しばらく黙って様子を見る。


「ほう」


沙耶香が不安そうな顔をする。


「うまく出来ているのでしょうか」


宗厳は首を振った。


「力は弱い」


沙耶香の肩が少し下がる。だが宗厳は続けた。


「じゃが柔らかい」


由里子が目を閉じたまま頷く。


「やりやすいです。抵抗がありません」


宗厳が目を細める。


「私の力が流れやすくなっています」


沙耶香は目を瞬いた。


「そうなんですか?」


「大国主の力らしい」


宗厳は頷く。


「人を繋ぎ、調和させる力じゃ」


沙耶香は少し照れたように笑った。



一成と悟の組も順調だった。宗厳がしばらく二人の様子を観察する。悟から流れ込む力は一定ではない。だが、一成は慌てることなく、その流れを自然に循環へと変えている。


「ふむ」


宗厳が小さく頷く。


「よく力を調和させておる」


宗厳が感心したように言った。一成が少し照れ臭そうに頭を掻く。



次に宗厳は巌と康太の前で足を止めた。ここだけ空気が違った。康太の額に汗が浮かんでいる。巌も険しい顔だった。


「どうした」


宗厳が尋ねる。巌が低い声で答える。


「力が大きすぎる」


宗厳は即座に言った。


「おぬし、受け止めようとしておるな」


巌が黙る。宗厳は杖を軽く地面へ突いた。


「だからいかんのじゃ。ここで必要なのは剛では無く柔じゃ」


巌が眉をひそめる。


「柔?」


宗厳は頷いた。


「柔道と同じじゃ。剛に剛をあてれば、ぶつかり合うだけじゃ」


宗厳の目が細くなる。


「相手の力を受け止めるのではなく、利用するのじゃ。川の流れを堰き止めるのではない。そのまま流すのじゃ」


巌はしばらく黙っていた。やがてゆっくり頷く。


「なるほどな」


巌は再び目を閉じた。今度は力で受け止めようとはしない。ただ流れに身を任せる。康太も慎重に力を流した。すると先ほどまでぶつかり合っていた力が、不思議なほど自然に循環し始めた。


「おお……」


康太が驚いたように声を漏らす。宗厳は満足そうに頷いた。


「それでよい」


老人は静かに言った。


「柔とは弱さではない。受け流す強さじゃ」


巌も納得したように頷く。


「勉強になりました」


宗厳は小さく笑った。


「おぬしは元々剛の人間じゃ。じゃが、時には柔も必要なのじゃよ」


そう言って次の組へ向かう。最後に残ったのは悠真と香月だった。二人は何度も試していた。香月も集中して力を流しているつもりだった。だが上手く循環しない。悠真も首を傾げていた。


「おかしいですね」


香月も困惑していた。


「何かが引っかかる感じがするんです。でも、それが何なのか分からなくて」


宗厳はしばらく黙って二人を観察した。やがて小さく頷く。


「なるほどな」


その声に悠真が顔を上げる。


「何か分かったのですか?」


宗厳は香月を見た。


「この娘の中には二つの流れがある」


香月は思わず目を瞬いた。


「二つ?」


「しかも互いに反発し合っておる」


宗厳は淡々と言う。


「流れようとしても途中でぶつかり、打ち消し合ってしまうのじゃ」


悠真の表情が変わった。香月自身も言葉を失う。宗厳はしばらく考え込む。


「根本的な解決はすぐには難しいな」


香月の胸が少しだけ重くなる。だが宗厳は続けた。


「じゃが、方法が無いわけではない」


老人は香月の肩へそっと手を置いた。


「難しく考えるな。今は儂の流れに乗れ」


香月が目を閉じる。すると、宗厳の力が流れ込んでくる。不思議だった。先ほどまで互いにぶつかり合っていた二つの流れが、宗厳の力を介することで少しずつ整っていく。


「あ」


香月が思わず声を漏らす。


「もう一度やってみろ」


香月が一人で試す。完全ではない。だが、今までよりは流れる。


「今回のは応急処置じゃ。根本は何も解決しておらん。じゃが、今回はそれでなんとかなるじゃろう」


香月は小さく息を吐いた。完全には理解できない。だが少なくとも、自分の中で何かが起きていることだけは分かった。


宗厳は全員を見渡した。


「午前はここまでじゃ」


皆が顔を上げる。


「午後からは実際に御神木へ力を流す」


老人の視線が御神木へ向く。


「今度は土地の力と繋がる。結界そのものと向き合うのじゃ」


その言葉に一同の表情が引き締まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ