回想
「今日はもう休もう。話は明日でいいから」
そう言うと、少年は少し迷ったあと、小さく頷いた。布団を敷いてあげると、少年は遠慮がちに横になった。そして数秒もしないうちに、張り詰めていた意識が途切れたように、そのまま眠りに落ちていった。よほど限界だったのだろう。
私はしばらく、静かな寝息を聞きながら窓際に座っていた。窓の外では雨がまだ降っている。規則正しい寝息を聞いていると、妙に胸の奥がざわついた。昔の自分を見ているみたいだ、と思った。
白虎の里で生まれた私は、何処か馴染めない、少しだけ「外れた子供」だった。父親が誰なのか、私は知らない。母は族長の一人娘だった。けれど婚姻を決められる直前、突然里を飛び出し、数ヶ月後、子供を宿して戻ってきた。そして父親については頑なに口を閉ざした。
母は結局、里で決められていた相手と結婚した。相手もまた、母のお腹の子を自分の子として育てると約束してくれた。次期族長として期待されていた人だった。寡黙な人だったけれど、私にはいつも優しかった。血の繋がりなんて関係ないと言うように、当たり前の顔で肩車をしてくれて、当たり前の顔で叱ってくれて、当たり前の顔で褒めてくれた。だからこそ、余計に居心地が悪かったのかもしれない。
里の大人たちは、私の生い立ちのことを表立って口にはしなかった。けれど子供は、大人の空気に敏い。
「あいつ、父親いないんだって」
「本当は誰の子かわかんないらしいぞ」
そんな言葉を、聞こえるように囁かれたこともある。遊びに混ざろうとすると、一瞬だけ妙な間が空くこともあった。誰かが困ったように視線を逸らす。親に「あそこの子とはあまり関わるな」と言われた子もいたらしい。
露骨に虐められたわけじゃない。石を投げられたことも、殴られたり蹴られたりしたこともない。そういうことは部族の掟で固く禁じられていた。同族では争わない。それは子供達にまで徹底的に教え込まれていた。
けれど私は、ずっと知っていた。自分が“少し違う”ものとして扱われていることを。誰かに強く拒絶されたわけじゃない。ただ、見えない壁のようなものが、いつもそこにあった。




