表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻獣の絆  作者: 斎佳奈
山寺編
26/28

攻防戦

敵襲の声を合図に、森の空気が一変した。


静子は迷うことなく綻びへ向かう。


結界は外からの攻撃を防ぐだけではない。こちらの攻撃もまた通さない。だから悠真たちは結界の外側で戦う必要があった。悠真と巌は綻びの前に陣取り、一成は木々の間へ姿を消した。


「静子先生」


悠真が呼ぶ。


「お任せします」


「はい」


静子は短く答えた。


綻びの前へ膝をつく。そこだけ場の流れが乱れていた。まるで丁寧に織られた布が無理やり裂かれたような違和感だった。


静子は静かに目を閉じる。乱れた流れを辿る。ほつれた糸を一本ずつ結い直すように。焦らず、丁寧に。少しずつ綻びが縮み始める。大丈夫。まだ閉じられる。そう思った瞬間だった。


修復したはずの箇所が再び崩れた。静子は目を開く。誰かが向こう側から干渉している。


敵の中から一人の男が前へ出てきた。三十代半ばほどだろうか。背が高く痩せている。特徴らしい特徴はない。だが周囲の男たちが自然と道を開けていた。術者だ。男は悠真へ視線を向けた。


「藤崎悠真先生ですか」


「私をご存じで?」


「昔、一度だけ講演を聞いたことがあります」


男は小さく笑った。


「龍脈と結界についての話でした」


「そうでしたか」


悠真は穏やかに頷く。


「それは光栄です」


男の視線が静子へ移る。


「朱鷺先生までいるとは」


その口調にはわずかな警戒が滲んでいた。


静子は答えない。綻びの修復に意識を集中する。男が指先を動かすと、綻びが広がる。見えない攻防が始まっていた。綻びを作るのは難しい。だが一度生じてしまえば広げるのは早い。修復する側は崩れた流れを一つずつ繋ぎ直さなければならない。


深く息を吐く。焦ってはいけない。他のみんなを信じて、自分がやるべきことをやるだけだ。



巌と悠真に向かって敵が突進してくる。巌が前に出て迎え撃った。男の腕を掴み、そのまま地面へ叩き付ける。別の男が横から飛び込む。巌は素早く踏み込んで手刀を男の首筋へ落とした。男が崩れ落ちる。


その背後で悠真は静かに印を結んでいた。龍の力は強力だ。だが発動には少し時間がかかる。だから巌が悠真を守りながら時間を稼ぐ。長年続けてきた連携だった。


やがて悠真が何かを呟くと背後に龍の幻影が揺らめいた。次の瞬間、空気が震える。衝撃波が森を駆け抜け、前方にいた敵たちをまとめて吹き飛ばした。


だが敵も訓練されている。すぐに体勢を立て直し、再び前へ出てくる。



一成は木々の上を移動していた。敵の進路をかき乱す。目印の木が見当たらなくなる。同じ場所を何度も通る。仲間の姿が別の場所に見える。景色そのものが歪んでいるようだった。敵は明らかに混乱していた。


「おかしい」


「さっきもここを通ったぞ」


頭上でカラスが鳴く。


敵術者はその様子を静かに見ていた。


「なるほど」


小さく呟く。


「天狗ですか」


男はしばらく戦況を観察していた。やがて静かに口を開く。


「計画を変更します」


周囲の男たちが顔を向ける。


「私が綻びを広げます。二名は侵入準備。残りは前衛を排除してください」


敵の空気が変わった。今までのような牽制ではない。全員が綻びへ向かって動き始める。


「天狗は無視すればいい」


男は続けた。


「私が盾を展開します。私の近くにいれば攻撃が通りません」


統制の取れた動きだった。一成の表情から笑みが消える。


「まずい」


珍しく緊張を含んだ声だった。


「このままだと突破される」



静子は修復を続けていた。だが状況は少しずつ悪化していた。綻びを閉じても、すぐに広げられる。繋いだそばから崩される。額に汗が滲んでいた。


巌が押され始める。流石に何人も一度にかかってくると捌ききれない。悠真の術も敵術者に阻まれて決定打にならない。


静子は再び綻びへ意識を向ける。だが修復より広がる方が早かった。やがて人一人なら身を縮めて通れそうな大きさになった。


誰かが叫ぶ。


「押し込め!」


敵が一斉に前へ出る。巌が一人を弾き飛ばした直後、その脇を別の男がすり抜ける。 一人でも結界を突破されたら静子には止めきれない。


その時だった。遠くで犬の遠吠えが響いた。


静子が顔を上げる。一成が小さく笑った。


「来ましたね」


今度は一つではなかった。山のあちこちから遠吠えが響く。


まるで森そのものが息を吹き返したかのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ