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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
山寺編
23/28

深まる不穏

夕食の席は昼間と変わらず賑やかだった。


香月はご飯を一口食べて思わず顔を上げた。


「この山菜ご飯、美味しいですね」


「でしょ?」


陽菜が嬉しそうに笑う。


「今朝採ってきたばかりなのよ」


「え、ご自分で?」


香月は思わず聞き返した。


「そう」


陽菜は黒い小鉢を指差した。落ち着いた黒に、フキの若葉色が鮮やかだった。


「こっちのフキも美味しいでしょう」


香月は煮物を口に運ぶ。


「本当だ」


柔らかいのに歯応えがあり、香りも豊かだった。


「新鮮だからね」


陽菜は笑う。


「沙耶香ちゃんにも手伝ってもらったの」


「私はあまりお役に立ってません。何が食べられるのかも全然分からなくて」


沙耶香が申し訳なさそうに言う。


「十分助かったわよ」


香月はもう一度山菜ご飯を食べた。


東京にいた頃も山菜ご飯を食べることはあった。けれど、それはスーパーで山菜の水煮を買って作るものだった。


朝に採ってきた山菜が、その日の夕食に並ぶ。そんな生活は久しぶりだった。


「そういえば」


香月は康太を見た。


「午後の授業はどうだったの?」


その瞬間、康太が顔を上げた。


「ずっと線を引いてた!」


「線?」


「能力でだよ」


悟が補足する。


「地面に力を流して円を作る練習です」


「力の制御を学ぶ訓練です」


悠真が付け足す。康太は不満そうな顔をする。


「簡単そうに見えるのに全然うまくいかないんだ」


「康太君は途中で力が暴れていましたからね」


悠真が穏やかに言う。


「暴れてないもん!」


康太がちょっとムキになって返す。


「でも、よく頑張ったと思うよ。最後の方はいい線行ってたと思う」


悟が慰めると、康太は黙り込んだ。


「悟君は?」


香月が尋ねる。悟は苦笑した。


「俺も人のこと言えないな。最後がうまく繋がらなくて、螺旋っぽくなってました」


悠真が補足する。


「綺麗な螺旋になってましたよ。円にはなりませんでしたけど」


再び笑いが起きた。その時、康太が身を乗り出した。


「でも拓也君はすごかったんだ」


「そうなの?」


「円がいっぱい重なってて」


両手を広げる。


「なんかすごくややこしいやつを描いてたんだ」


拓也は少し困ったような顔をした。


「大したことないですよ」


「でもすごいのは本当だろう」


悟が苦笑する。


「俺たちとは全然違ったぞ」


「何年もやってますから」


拓也は肩をすくめた。悠真が湯呑みを置く。


「皆それぞれ課題があります」


穏やかな声だった。


「康太君は力を安定させること」


「悟君はもう少し丁寧に力を流すこと」


「拓也君は少し先を急ぎすぎる傾向がありますね」


拓也は素直に頷いた。


「はい」


そこで康太が香月を見る。


「香月姉ちゃんは?」


「私?」


「別の授業を受けてたんだろ」


香月は少し考えた。


「まだ難しいかな」


静子が微笑む。


「そうですか?」


「結界を張るところは見たけど、どうやって張ったのかは全然分からなかったし」


香月は苦笑した。


「でも空気が変わるのは分かった」


「綻びも見つけてましたよね」


千春が言う。


香月は首を傾げた。


「あれは偶然じゃない?」


静子は否定も肯定もしなかった。ただ穏やかに微笑んでいる。


その時だった。


「でもさ」


康太が箸を止める。


「結界って壊れたりするのか?」


食堂が少し静かになった。


「うちの結界は大丈夫なの?」


智樹も気になっていたらしい。


巌は腕を組んだまま言った。


「そう簡単に破られるもんじゃねえ」


巌が言うと、不思議と安心できた。


悠真も頷く。


「この場所が選ばれたのにも理由がありますから。今は心配しなくて大丈夫ですよ」


康太は安心したように頷いた。


やがて食事も終わり、それぞれが後片付けや風呂へ向かっていった。


夜。


寺の一室に教師たちが集まっていた。卓を囲むのは悠真、静子、巌、一成の四人だった。


昼間よりも少しだけ張り詰めた空気が流れている。


「それで」


悠真が口を開く。


「状況はどうですか」


一成は湯呑みを置いた。


「今のところ二組です」


静子が顔を上げる。


「二組」


「一つは政府か警察関係でしょう」


一成は淡々と続けた。


「張り込みのやり方がお手本通りだ。監視と聞き込みが中心で、結界には近づいていない」


悠真は小さく頷いた。予想の範囲内だった。


「もう一つの方は?」


巌が尋ねる。一成の表情が僅かに険しくなる。


「こっちは厄介です」


部屋の空気が変わった。


「人数が増えています」


「昨日の時点では五、六人程度でしたが、今日は倍近い。それに結界への干渉も確認しました」


静子が眉をひそめる。


「試しているんですね」


「ええ」


一成は頷いた。


「まだ突破できるレベルではありません」


「ですが探っています」


沈黙が落ちた。悠真が静かに言う。


「引き続き監視を」


「分かっています。カラスたちにも見張らせていますし、私も見回りを強化しています」


「無理はしないでくださいね」


静子が言う。


一成は苦笑した。


「善処します」


誰もその言葉を信用していなかった。


巌が腕を組む。


「応援は呼ぶか」


「そうですね」


悠真は頷いた。少し考える。


「御岳にも声を掛けておきましょう」


静子が小さく頷く。


「狼の里ですね」


「はい」


悠真は静かに言った。


「この界隈で何か動きがあるなら、あちらにも伝えておくべきでしょう」


一成は何気なく窓の外へ視線を向けた。


今夜はやけにカラスが騒がない。


夜の山はどこまでも静かだった。まるで息を潜め

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