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幻獣の絆  作者: 斎佳奈
東京編
14/29

商店街の面々

ガチャンと和菓子屋の鍵が掛かった。その直後だった。


鉄斎は腕を組んだまま前方を見据えた。


商店街の入口。四方から男たちがゆっくりと近づいてくる。一見すれば普通の人間だ。だが、目つきが何となく違う。獲物を追う目だった。


「悟」


鉄斎が呼ぶ。


「はい」


「まずお前から行け」


悟は一瞬だけ鉄斎を見た。試されている、そう直感した。鉄斎は自分の実力を知らない。自分もまた、鉄斎の実力を知らない。ならば話は簡単だ。戦って見せればいい。


「分かりました」


次の瞬間。風が吹いた。悟の姿が消える。敵の男が反応した時にはもう遅かった。短剣が閃く。


一人。二人。男たちが吹き飛ぶ。だが。敵も前回の襲撃とは違った。


「囲め!」


怒声が飛ぶ。男たちが散開する。左右へ。背後へ。悟を包囲するように動き始めた。


「ほう」


鉄斎が口元を歪める。


「学習してやがるな」


金属音が響く。悟が一人目の刃を弾く。そこへ二人目。さらに三人目。連携が速い。屋根の上にも気配がある。術者か。前回より明らかに準備してきていた。


「思ったより歓迎されてるみたいですね」


悟は苦笑した。頬の傷は塞がり始めていたが、脇腹にはまだ鈍い痛みが残っている。前回の襲撃から、まだ一日も経っていない。


そのまま身を沈める。頭上を刃が通過する。反撃。風刃が走る。男が吹き飛ぶ。しかし次が来る。さらに次。数が多い。さすがに一人では抑えきれない。


「ほう」


喫茶店のマスターが感心したように言った。肩には小さな管狐が乗っている。


「速いですね」


「若いからねぇ」


反物屋の女将が扇子を開く。


「男前だし」


「気になるの、そこかよ」


金物屋の主人が呆れる。三人ともまだ動かない。店先から戦いを眺めているだけだ。まるで野次馬だった。


その頃には悟の周囲に六人以上の男が集まっていた。敵も本気だ。一人を抑えるためにここまで人数を割いている。


「右から二人」


マスターがぼそりと呟く。不思議とよく響く声だった。


悟が反射的に横へ飛ぶ。直後。死角から迫っていた刃が空を切った。男たちの表情が変わる。


「何だ?」


「なぜ読まれる?」


よく見れば、屋根の上にも、電柱の陰にも、看板の裏にも。小さな影が商店街中を走り回っている。敵が気付いた時にはもう遅かった。


「左」


悟が身を沈める。頭上を火球が通過した。屋根の上の術者だった。


「チッ!」


術者が舌打ちする。その瞬間。女将がくすりと笑った。


「随分とせっかちだねぇ」


狐火が灯る。店先。屋根。街灯の上。青白い火が次々と現れる。男たちが動きを止めた。次に女将の姿が増える。一人。二人。五人。十人。気付けば商店街のあちこちに同じ姿が立っていた。


「どれが本物だ!?」


誰かが叫ぶ。女将たちが一斉に笑う。その声だけがあちこちから響いた。


「全部本物かもしれないよ?」


「ふざけるな!」


敵が突っ込む。すり抜ける。幻だった。その隙に悟が懐へ飛び込む。男が吹き飛んだ。


「やるじゃねぇか」


金物屋の主人が感心したように呟く。


だが、次の瞬間。屋根の上から巨大な火球が放たれた。先程までとは比べ物にならない。真っ直ぐ悟へ向かう。悟は息を呑んだ。


避けきれない。そう思った瞬間だった。


目の前を巨大な影が横切る。


火球が触れた。だが爆発は起きない。


まるで巨大な甲羅に受け止められたかのように、火は音もなく霧散した。


「やれやれ」


低い声が響く。いつの間にか金物屋の主人が悟の前に立っていた。その背後には、青黒い甲羅の幻影が揺らめいている。


「迷惑な話ですねえ」


主人は消えた火球の方へ視線を向ける。


「人様の店先に火球なんか撃ち込まないでいただきたい」


次の瞬間。甲羅の影から蛇が飛び出した。敵の足へ絡みつく。悲鳴。男が地面へ転倒した。


「ははっ」


悟が笑った。


「助かります」


「貸し一つですよ」


主人が笑った。その様子を見ていた鉄斎がようやく腕を解いた。


「ほう」


鉄斎が小さく頷く。


「悪くねぇな」


その時だった。商店街の奥。和菓子屋の方向から。


ゴンッ!という鈍い音が響いた。全員の動きが一瞬止まる。


女将が目を細める。


「あらあら」


マスターがため息をつく。


「裏から回りましたか」


鉄斎は額を押さえた。


「馬鹿が」


そして小さく呟く。


「おかみを怒らせやがった」

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