3-3 国難
官邸の第一会議室で、会議が始まる。
丸いテーブルの一番奥には、内閣総理大臣『和氣 司』総理。
その横に内閣官房副長官の『渡邊 明彦』。
反対側には、内閣官房長官の『倉澤 道貴』。
他の椅子には、防衛大臣の『守山 傑』。
統合幕僚長の『千代 誠』。
海上幕僚長の『鵜飼 信嗣』。
航空幕僚長の『高梨 遼太郎』。
陸上幕僚長の『小笠原 克己』。
国家安全保障局長『菊池 啓史』。
警察庁長官『坪内 康成』。
内閣情報官『三本木 信征』。
厚生労働大臣の『小平 進』大臣や、
総務大臣の 『臼谷 大作』大臣もいる……
日本の国防を担う、錚々たるメンバーである。
招集された三等尉官たちは、後ろ方のパイプ椅子に、並んで座る。
会議の口火は、官房副長官から
「まずは、今回の事件を起こした張本人と思われる、『レセプター』と呼ばれる人物の素性から」
後ろの大画面にも、『レセプター』の色んな写真とデータが表示される。
「本名『白井輝』、二十三歳
IQ130の天才で、中学ですでにマサチューセッツ工科大学の入学試験をパス。
子供のころから『神童』と呼ばれ、周囲からも将来を期待されていた逸材です。
去年、同工科大学を首席で卒業。
髪の毛から、まつ毛、肌まで真っ白な、『アルビノ』と呼ばれる免疫疾患持ちです」
大臣たちがザワつく。
「凄い経歴だな……」
「こんな天才なのに、あんな事件を起こしたのか?
まったく、『天才となんとかは紙一重』とは、よく言ったものだ」
官房副長官の話は続く
「彼の指先からは微弱な電流が流れており、彼が操作するコンピューターは、
通常より150パーセント処理能力が向上するそうです」
「なんだそれは?」
「もはや、人間ではないということか……?」
官房副長官は、持っていたファイルをパタンと閉じて、
「自らを『新人類』、『地球の代弁者』と呼び、それを我らに知らしめるために、
今回のテレビ局ジャック事件を起こしたようです」
「『地球の代弁者』って……ただの痛い『妄想癖男』じゃないのか?」
「その可能性はありますが、不思議な力を扱います」
全員で映像を見る……
画面には、SAT部隊との死闘の映像が流れる。
「人身掌握術、ヒトキリ!」
ババババババーーッ
「人身掌握術奥義、ヒトタチ!」
ザンッ!
「これは……」
冷や汗を流し、信じらないといった表情で、お互い顔を見合わせる大臣たち。
「何なのだいったい? なにかの『兵器』なのか?」
官房副長官の説明が再開される。
「レセプターの言葉をそのまま使うなら、これは、
人類を駆除するために、地球がヒューマンスレイヤーに与えた、『人身掌握術』という技です」
「じんしんしょうあくじゅつ?」
画面には、『人身掌握術』という文字が表示される。
「ん? 『人心掌握術』ではないのか? 字が違うぞ」
「いえ、これで合っています。
通常は『心』ですが、これをあえて『身体』という文字で表現しています」
ミサオが、持っていたタブレットを開いて、北上、ハヤト、大門に説明する。
「本来の『人心掌握術』とは、相手に対し『理解』『共感』『信頼』を用いて、
その人の心を掌握する『会話術』のことです」
それを聞いてハヤトが答える
「さすがのオレっちでも聞いたことあるぜ、それを使ってようは相手の『信頼』を得るって手段だろ?」
「そうですね、普通は一般企業などで、上司が部下に対して行う『管理術』のことを指すんですが……」
官房副長官の話が続く
「これは、『人心』を掌握する術ではなく、あくまで我々人類の『身体』を『掌握』するための技術になります。
術の名前には、必ず『ヒト○○』という形式が使われます」
「『人』の『身体』を掌握する術か……
うまいことでも言ったつもりになっているのか? 忌々しい」
「ふざけて、我々をバカにしているんじゃないのか?」
また大臣たちの怒号が飛び交う
ハヤトが眠たそうに、この状況を眺める。
「なんか、壮絶な会議になってきたな……
オレっちは昨日『ブルーインパルス』の飛行訓練中に突然呼び出されたから、
あんまり寝てないんだよ、少し仮眠してもいいかな? ふ、ふあぁ……」
もの凄いあくびをするハヤト
「不謹慎だよ、ハヤトくん……」
大門が焦ってハヤトを揺する。
ギロッ!
一瞬、渡邊官房副長官が、ハヤトを睨んだような気がした。
「やべっ、ヒュ~ヒュ~……」
ハヤトは、鳴らない口笛でごまかす。
「あ、あはは……」
ミサオは苦笑い。
そのまま官房副長官が続ける
「『人身掌握術』は個人差・個体差があり、すべてを把握するのは不可能です」
「そのヒューマンスレイヤーというのは一体何者なのだ?」
この会議で初めて、和氣内閣総理大臣が喋った。
渡邊官房副長官が、持っていたタブレットを操作すると、画面が『ヒューマンスレイヤーの詳細』に切り替わる。
「『ヒューマンスレイヤー』とは、人類を駆除するための存在で、レセプターの忠実なる『駒』……
レセプターの呼びかけにより、能力が覚醒する模様です」
画面に、『ヒューマンスレイヤー』の推定特性が表示される
①覚醒条件:レセプターの『呼びかけ』への共鳴。
②精神変貌:性格の凶暴化、旧人類を『家畜・害虫』とみなす選別意識。
③肉体変異:骨密度の上昇、および爪・歯などの『硬質化』。
④知覚上昇:動体視力、反応速度、反射神経の異常向上。
⑤生存能力:痛覚の減退、および新陳代謝の加速による『致死耐性』。
⑥紋章発現:身体の任意部位への『ヒューマンスレイヤーの紋章』の発現。
⑥感染経路:大地(地球)への直接接地を条件とする共鳴波の伝播。
⑦対象種:人間のみならず、犬・猫等の動物全般への波及。
「人類の駆除だと? まるで人を『虫けら』か何かのように……」
小平厚生労働大臣が叫ぶ。
「まさにその通り、『ヒューマンスレイヤー』は、能力が覚醒すると、
急に人類を『虫けら』や『家畜』のように見下すようになり、性格も狂暴化します」
大臣たちは、冷や汗を流している者、眉間にしわを寄せている者、目を閉じて沈黙している者など様々。
守山防衛大臣の質問
「条件は? ヒューマンスレイヤーになるための選別方法や条件はなんだね?」
「今のところ分かっていません、レセプターの好みなのか、あるいはランダムの可能性も……」
「それじゃ対策のしようがないではないか……」
「レセプタ―に近ければ近いほど洗脳、覚醒しやすく、
このままレセプターが、海外などに逃亡すれば、さらなる被害の拡大も想定されます」
「それだけは避けてくれないと……」
菊池国家安全保障局長が泣きそうな顔で答える
「能力自体は、レセプターの呼びかけで覚醒するようですが、
この性格が変わる、いわゆる『洗脳』は、この地球、大地にじかに触れていることが条件らしいです」
大臣たちは全員沈黙……
「以上がヒューマンスレイヤーの詳細となります」
目を閉じていた和氣内閣総理大臣が、目を開き話す。
「……これから先の展開は、どうするつもりかね?」
「ここからは、自衛隊情報本部所属の、旭神律子情報官に説明をしてもらいます」




