4-1 作戦
「ここからは、自衛隊情報本部所属の、旭神律子情報官に説明をしてもらいます」
「自衛隊情報本部の旭神律子一尉です」
敬礼する律子。
「ここからは、この事件の鎮圧を目的とした作戦の内容を説明いたします」
律子情報官が、持っていたタブレットを開く。
と、同時に、後ろの画面も『『テレビギルド』鎮圧・掃討作戦」の画面に切り替わる。
「最初の報道から、約47時間が経過しました。
現在のところ、警察・自衛隊・SATの合同特殊部隊が、
テレビ局で複数のヒューマンスレイヤーと交戦中ですが、
拳銃が効かなく、特殊能力を持つものも多く、現状は思わしくありません」
大臣たちが、席から立ち上がり、指差しながらモノを言う。
「周りの諸外国や、アメリカはどうしたんだ?
こういう時のための安保理条約だろ?」
「諸外国も、アメリカも、自国で発生したヒューマンスレイヤーの対応に追われているようです。
ですが、日本以外ではヒューマンスレイヤーの発生は数名程度……
おそらく、あのレセプターと呼ばれる自称『新人類』が、日本にいるからだと推測されます。
諸外国やアメリカも、この後どうなるのか、日本の対応を見極めてから判断するつもりなのかと」
「くそっ……」
律子情報官は、メガネを直しつつ、話を続ける。
「現状を打破すべく、特別な作戦を立案・実行中です。
作戦名は『プロジェクトHSS』」
「プロジェクトHSS? なんだねそれは?」
「海上・航空・陸上の各自衛隊を確認したところ、能力が発動しているのに、
地球の洗脳を受けていない者が十数名いることが判明しました」
ザワザワ……
「なんと、それはレセプターの言う『人身掌握術』を使える、『こちら側の人間』ということか?」
旭神一尉は、会議に参加している者を全員見据えた後、タブレットに視線を戻す。
「そうです。 彼らを招集して、特殊部隊を編成し、レセプターを確保する作戦です」
「ほう、その部隊名は?」
「HSS……『ヒューマンスレイヤーズ・スレイヤー』です」
「人類を殺すものを、さらに殺すもの、か……毒を以って毒を制すというわけだな。皮肉の利いた、いいネーミングだ」
千代統合幕僚長が、あごに蓄えた髭を触りながら感想を述べる。
ハヤトが、思い出したかのように大門に話し出す。
「そう言えば、北上は護衛艦、オレっちは戦闘機に乗っていたから『地球の洗脳』は受けていないけど、陸自のお前はどうして平気だったんだ?」
「僕もその時はどうやら陸自の演習中で、10式戦車に乗っていたから……
あの分厚い第四世代の複合装甲が、『洗脳の波動』をシャットアウトしてくれたみたい」
「ヒュ~、さすがは日本が誇るハイテク戦車、命拾いしたな大門」
ハヤトが少し茶化す。
「……正確には、装甲だけじゃなく、車内の対NBC防護システム(核・生物・化学兵器対策)が、外部からのあらゆる『干渉』を遮断してくれたんだと思う」
「たい、えぬびー……?」
大門の話に、ハヤトの頭の上に『はてな』が浮かぶ。
北上が、ハヤトの肩をポンッと叩きながら、
「さすがだな大門、お前のその『分析能力』は、きっとこれからお前の武器になる」
「すでに、各幕僚監部に招集をかけ、この首相官邸に集結しています。
あとは作戦本部を設置し、彼らに作戦内容を伝え、実行するだけとなっています」
後ろで座っていた三等尉官たちに、視線が集まる。
「……あんな若造たちに、この国の命運を?」
「正気か?」
周りの老齢な大臣や、ベテランのSPたちが、顔を見合わせながら耳打ちする。
彼らの発言は、希望に満ち溢れ、未来に光り輝く若者たちを嫉妬しての発言にも聞こえる……
画面には、各自衛隊員たちの詳細なデータが表示される。
「三人で一組となり、それに『情報官』を一人ずつ付け、合計四人のチームを三チーム編成します。
この『情報官』には、主にこちらからの『指示』を伝え、現場の状況をこちらに伝える役目となります」
三本木内閣情報官が、付け加える。
「情報官がいることで、現場の情報がリアルタイムに伝わり、こちらも臨機応変に作戦を策定することが可能です」
「情報官には他に、自衛隊のデータベースや、テレビ局の詳細なデータなどを閲覧できる、特別な『タブレット』を持たせてあります。これで潜入や戦闘のサポートも担います」
律子情報官は、自分が持っているタブレットを掲げ、皆に見せる。
「作戦を実行するにあたり、レセプターが拠点の要塞としている『テレビギルド』の詳細を表示します」
【目標地点:株式会社テレビギルド 本社ビル】
①基本構造 地上十階、地下三階。鉄筋コンクリート及び強化ガラス構造。
最上階には『会長室』や『展望台室』が、屋上には電波塔、子供用のアトラクション、緊急用ヘリポートなども
②会社概要 創業五十五年 資本金九十億円 年間売上高約三千億円
ニュースやドラマよりバラエティに注力
しかし、名物アナウンサーや、名プロデューサーを多数輩出。
③外観 白を基調とし、北西角に巨大オブジェ『下っ端かいぞくん』設置
その内部はアトリウムとして、局の歴史などを展示。
④防衛線 全フロアのセキュリティシステムは、レセプターに掌握されており、認証などによる潜入はほぼ不可能と思われる。
⑤地下駐車場 今回の潜入ルートとして選定。
出入口が三か所あり、各階へ通じるエレベーターがある。
「また、テレビ局の従業員も多数人質になっている可能性があり、
その救出も任務の一つとなっています」
坪内警察庁長官からの檄が飛ぶ。
「そんなことを言っている場合ではなかろう、もう十数名の死人もでているのだぞ! レセプターの『射殺』が最優先だ!」
小平厚生労働大臣がなだめる。
「まあまあ、与党の支持率のこともありますし、ここは穏便に……」
律子情報官は、誰も気づかないほどの小さなため息を一つついた後、話を続ける。
「現在、警察・自衛隊・特殊部隊の合同チームによる作戦を実行中ですが、
これを『陽動』とし、今回のHSS三チームを警備の手薄な『地下駐車場』から潜入させる予定です」
臼谷総務大臣が、手元のプリントを見ながら話す
「ふむ、『地下駐車場』か……勝算はどのくらいかね?」
「自衛隊のAIを総動員し、出した作戦の成功率は、現在のところ『72パーセント』となっています。
最上階の会長室にいると思われる『レセプター』を確保、または『射殺』を最終目的とします」
守山防衛大臣
「ん~、まあ今のところこれしかないであろうな……
このまま放っておけば、国の沽券にかかわる」
ガタッ!
和氣内閣総理大臣が、勢いよく椅子から立ち上がる!
「よし、たった今から、首相である私により、正式に『プロジェクトHSS』を発動、この首相官邸に作戦本部を設置し、レセプターの『確保』、および『射殺』を実行せよ!」
「はい!」
陸海空の自衛官総勢九名と、情報官三名が、一斉に敬礼する。
ヒイイィィン……
「そんなもの、実行させるわけにはいかない……」
ある人物の額に、『ヒューマンスレイヤーの紋章』が浮かぶ……




