3-2 暴食
「動物たちは、私たちを幸せにしてくれます。
だから動物たちを幸せにすることは、私たちの義務なのですよ」
わ―、パチパチパチパチ……
「動物愛護協会会長『由紀子』さま、ありがとうございました……皆様、『由紀子』さまに、もう一度盛大な拍手を!」
パチパチパチパチパチ……
総勢五百人はいる講堂、ペットの犬や猫を抱いている人も。
鳴り止まない拍手。
派手なメガネに、ギラギラの衣装を纏った『由紀子』が、壇上を手を振りながら降りていく。
由紀子が降りた先には、サングラスをかけた、屈強なSPが由紀子をエスコートする。
由紀子が壇上を降りた後も、拍手は鳴り止まない……
大盛況の中、由紀子が控室に戻ると、愛犬の『フレンチブルドックのサラダ』が、由紀子に駆け寄る。
「ハッ、ハッ、ハッ、ワンワン、ペロペロ……」
「あらあらサラダちゃん、ママのファンデーションが落ちちゃうでしょ? もうやめなさい」
周りにいた付き人たちも、ほっこり。
「由紀子さん、前足を骨折して、処分寸前だったサラダちゃんを引き取ったエピソード……私、もう、感激しちゃって……」
「あらあら、そんなことを言ってはダメよ、サラダちゃんの他にも、処分された動物はごまんといるのだから」
「あ、そうですね、すみません」
「私たちは世界中から、ペットの『殺処分』がなくなるその時まで、活動を続けますよ」
「はい」
ペットのサラダは、由紀子から離れず、ずっと足にしがみついている。
「サラダちゃん、お腹が空いたのね、晩御飯にしましょうか」
由紀子は、サラダと一緒に、控室の奥の台所に行く。
ガチャ、バタン
「テメー、アタシが気持ちよくしゃべってるのに邪魔しやがって、何様だコラぁ!?」
サラダは尻尾ダダ下がり、恐怖で震えている
「ペロペロしてアタシに雑菌が入ったらどうすんだ、ああ?」
由紀子は、きれいなタオルで、サラダがペロペロしたところを拭いている
「名前を呼んでも来ないくせに、エサの時だけキャンキャン言いやがって、このクソ犬が!」
由紀子はサラダの首根っこを掴んで放り投げ、蹴とばす。
「キャインッ!」
ガチャ
サラダを抱え、満面の笑みで由紀子が出てきた。
「みなさんお待たせ、さあ、明日の会議を始めましょう」
「はい」
ヒイイィィン……
サラダの額に、ヒューマンスレイヤーの紋章が光る
「へ、へへへ……」
「ん?」
「動物愛護協会会長か、よく言うぜ、オレのこの左足の骨折も、お前が蹴とばしたときのモノなのによぉ」
その場にいる、全員がキョトン顔
「えっと、どなたが喋っているのかしら?」
「オレだよ、オレ、サラダだよ!」
「サラダちゃんっ……?」
「エサはすぐ忘れる、機嫌が悪いと蹴とばす、この間死んだインコは、飼っていた猫に食わせていたよなぁ?」
「えっ、えっ?」
由紀子は、状況が呑み込めず、うろたえるばかり
「こんな諺知ってるか? 『飼い犬に、頭を食われる』ってよう!」
サラダは、由紀子に抱きかかえられながら、口が何倍にも巨大化した!
「人身掌握術、ヒトクチ!」
バクンッ!
……一瞬だった、由紀子の頭は、サラダの巨大な口の中へ
ドサッ
頭を失った体だけが、その場に倒れる。
「ひっ……」
「あれ? 違ったか? 『飼い犬に手を噛まれる』だっけ?
オレは犬だから、よくわかんねぇや、ギャーハハハ!」
その場にいた取り巻きたちは、全員腰が抜けて、その場で座り込み、涙を浮かべながら、後ずさる……
それを見てサラダが、舌舐めずりをする
「お前たちにも聞こえていたはずだ、オレが蹴られて叫んでいた声が……
なのにお前たちは何もしなかった、お前たちも同罪だ」
「ひ、ひいぃぃ、た、たすけ……」
付き人たちは、ドアノブを回し、外へ逃げようとする。
ガチャガチャッ
「えっ? あ、開かない? なんで? このドアには『鍵』なんてついていないのに!」
ヒイイィィン……
ドアの外には、お付きのSPが立っていた。
その額には『ヒューマンスレイヤーの紋章』が……
控室の中では、サラダが舌なめずりをして、お付きの人たちを値踏みしている。
「オレ様の幸せはよう、お前たち旧人類を、『駆除』することだよーーーーっ!」
バクンッ!
バシャーーッ!
「ぎゃーーっ!」
「い、いやあぁぁ!」
控室の窓の純白のカーテンが、真っ赤な『紅』に染まっていく……




