3-1 招集
バタバタバタバタ……
けたたましい音とともに、首相官邸に自衛隊の特別輸送ヘリコプターが着陸する。
中から出てきたのは、護衛艦『しきなみ』に乗艦していた、北上三等海尉。
『特別緊急招集』応じて、太平洋の海域から、ヘリコプターで現着。
周りを見渡すと、数人の見覚えのある顔が
その中の一人、見たことのある顔の男が満面の笑みを浮かべて近づいてくる。
「よう、久しぶりだなぁ北上、オレっちだよ、『ハヤト』だよ。
自衛隊入隊の時の新人研修以来だなぁ」
そう言いつつ、握手を求めて右手を差し出す。
北上は、それを華麗にスルー。
ハヤトは振り返りながら、
「ええ~~……?」
北上はそのまま、少し離れたところにいた、高身長の女性の元へ
目の前まで来ると、まるでお手本のような、美しい敬礼をみせる。
サッ
「お久しぶりです、旭神律子一尉、北上三等海尉、ただいま現着しました」
旭神律子一尉と呼ばれたその女性も、少しだけ笑みをうかべ、敬礼。
「久しぶりね、北上三等海尉、待っていたわ。
アナタが私の『切り札』になると確信しています」
北上は、ほんの少しだけ微笑み、周りに聞こえないくらいの小声で話す。
「ご期待に沿えるよう励みます、律子先輩」
『律子先輩』は、すぐに険しい顔に戻る。
「状況はあまり芳しくないわ、
アナタたちの力がきっと必要になるはずよ」
北上も真顔に戻り、
「はい」
奥の方から、筋肉質のがっちりした体の、緑色の陸上自衛隊の常装を着た青年が駆け寄る。
「北上くん、お久しぶり」
「大門啓史三等陸尉か、元気そうだな」
「北上くんもね」
先ほどスルーされた、ハヤトという男も、近づいてくる。
「なんだよ北上、相変わらずつれないやつだなぁ」
北上は、一つため息をついて、
「俺の知り合いに、『ハヤト』なんてやつはいない。
俺の目の前にいるのは、『羽谷等』三等空尉だ」
「だから~、その名前は平凡すぎて気に入っていないんだよ~
『羽・谷・等だから、そのまま音読みで『ハヤト』って、周りの奴らには呼ばせているんだよ」
(『羽』の音読みは『ハ』じゃないんだけどな……)
大門がそう思うと……
「『羽』の音読みは『ハ』ではないぞ」
(あ、北上くんがつっこんだ……)
「いいんだよ、細けぇことは!」
ハヤトがキレ気味になる。
空気を読んだ大門が、二人をなだめながら、
「そうだね、『ひとし』くん……あっ」
ハヤトが不満そうな顔で、大門に詰め寄る
「だ、か、ら~、『ハヤト』だって言ってんだろ、ハ・ヤ・ト!」
「わ、わかった、わかったよ、『ハヤト』くん……」
ハヤトはご満悦の顔に戻り、
「ま、久しぶりに防衛大の『同好会』の四人が揃ったんだ、今日は景気よく行こうぜ! ね、『りっちゃん先輩』」
律子の目が、まるで絶対零度のような冷たい視線に変わる……
「あのねハヤト三等空尉、私の方がアナタより年齢も階級も上なんだから、『りっちゃん先輩』はやめなさい」
ハヤトは舌を出しながら、
「へ~い……」
「ハヤト三尉!」
ハヤトは敬礼しながら
「はい! わかりました!」
「よろしい」
律子は目を閉じ、頷く。
「私はこの後アナタたちとは別行動になるけど、紹介したい情報官がいるから、会議の後また合流しましょう」
「はい」
三人は敬礼して律子を見送る。
ハヤトはため息交じりに、
「はぁ~、久しぶりに見たけど、やっぱり『りっちゃん先輩』こえ~。
でも、あの『凛』とした感じで、ときどきデレるとこが最高にかわいいんだよなぁ」
官邸の入り口付近で、スーツを着た関係者の人が、メガホンで話す。
「これよりブリーフィングを開始する。各幕僚監部より招集の三等尉官は、第一会議室へ!」
北上が、ハヤトと大門に、
「呼ばれている、さあ集合だ、行くぞ大門、『ヒトシ』」
「北上お前……ワザとやってるだろ?」
*****
三人は、官邸の関係者に連れられ、そのまま第一会議室へ。
かなりの広さの会議室、丸い机に、テレビや雑誌などで見たことのある、偉そうな大臣たちが座っている。
奥には巨大なモニターが配置され、今回の騒動の情報が、事細かに映し出されている。
「おい! いったい何がどうなっているんだ!」
「病院は、大量のケガ人が搬送されてパニック状態だ!」
「テレビ局が乗っ取られて、電波が止められません、何か対策を!」
丸い机では、テレビで見たことがある大臣たちの『怒号』が飛び交う。
厚労相や総務相といった重鎮たちが、顔を真っ赤にして怒鳴ってる……まるで市場の競り市のようだ。
「うわ~、まるで『修羅場』だな、こりゃ……」
ハヤトが呟く。
「ひょっとして、北上三尉と羽谷三尉、それに大門三尉ですか?」
目の前にいたのは、身長が小さく、まるで小動物のような女性……
「申し遅れました、私は『安孫子 操』、情報本部所属で、階級は一曹の情報官です」
「ひょっとして、律子先輩が言ってた情報官……?
よろしくね『ミサオっち』、ハヤトでっす! ギュピーン!」
ハヤトは舌を出し、ウインクして挨拶。
「『ミサオっち』……? よ、よろしくお願いします」
「北上三等海尉だ、よろしく」
「大門三等陸尉だよ、よろしくね」
「よろしくお願いします……みなさん、旭神一尉が言っていた通りの人たちですね」
奥の方から、見たことのある同期の三人組が歩いてきて、話しかけてきた。
「やはりお前も来たな北上、予想通りだ」
「曳地三等海尉か、久しぶりだな……」
「何だお前かよ、よく懲りずに北上に絡むよな? 暇なのか?」
ハヤトが、あからさまに曳地三尉を煽る。
曳地海尉はハヤトをシカトし、北上に話しかける。
「今回の作戦の主役は私たちだ、お前の出番はない」
「オレっちは無視かよ……」
ハヤトは不満気。
「彼は曳地三等海尉、僕たちの代の首席卒業生で、北上くんのライバルだった人なんだ」
大門が、ミサオに小声で耳打ちする。
ミサオは、持っていたタブレットで検索をかける。
「本当だ、『歴代最高点で首席卒業』って書いてあります、凄い人なんですね」
「全員静かにしたまえ、ブリーフィングを始める」
後ろから歩いてきたのは『渡邊 明彦』内閣官房副長官。
喧騒がこだましていた会議室は、一瞬にして静まり返る。
「全員着席、これより「『レセプター』によるテレビ局ジャック事件」及び殲滅作戦の策定を開始する」




