16-6 希望
「フッ……」
北上は、観念し、目を閉じ覚悟を決める……
その時――
バタバタバタバターーーーッ
ビルの影から、律子が乗っていたヘリが飛び出す!
「北上くんーーっ!!」
「旭神一尉、危険です!」
自衛官の制止も聞かず、律子はヘリを飛び出し、空中の北上の元へ
ガシッ!
空中で北上を捕まえて、しがみつく律子
「律子、先輩……!」
「北上くん、命令違反よ……私に黙って勝手に死ぬなんて、絶対に許さないんだからっ!」
屋上でそれを見ていたハヤトが、もの凄く小さな声で呟く。
「あ、デレた……」
「くっ」
北上が、律子の背中についているパラシュートのひもを引く
バサッ
パラシュートが開き、二人は勢いよく舞い上がる。
「ふぅ……」
ハヤトも大門も、それを見て一安心。
北上と律子は、ゆっくりとテレビ局の屋上へ降りる。
北上が、律子の肩を借りて立ち上がる。
「まったく……随分と無茶をしますね、律子先輩」
「……他の誰に言われても仕方ないけど、アナタにだけは言われたくないわ、北上くん」
「フ、フハハハ……」
レセプターの笑い声……二人はその方向に視線を向ける。
「まさかあそこで『レールガン』とはな……
普通なら摩擦熱で燃え尽きてしまうところを、『ヒトナミ』の膜を張って防いだのか。
こういうのは何というのかな、『窮鼠猫を噛む』か、あるいは『イタチの最後っ屁』か……」
横になっていたレセプターは、ゆっくりと上体を起こす。
「北上、お前の『ヒトナミ』を受け、私の内臓は数か所が損傷した。
加えて、空中から直接屋上に落ちたため、骨もいくつか折れている……
だがまだ終わってはいないぞ、『第二ラウンド』といこうか」
「マジかあいつ、まだ戦うつもりか……」
ハヤトと大門も、満身創痍……
それを見た北上、律子から少し離れ、自分の右手を地面に添える。
「『人身掌握術、ヒトナミ』!」
ブゥン……
右手が一瞬光ったかと思うと、すぐ元に戻った。
「レセプター、お前を『説得』するのは、無理なんだろうな」
「当然だ、『害獣』の言葉など、聞く耳は持っていない」
「だからレセプター、お前を『脅迫』することにする」
「なんだと……?」
レセプターが、訝し気に北上を睨む
「お前の今までの行動を見て、一つだけわかった、確かなことがある」
「……」
「それは、お前がこの地球を妄信しているということだ」
レセプターの顔から余裕のようなものが消え、恐ろしく冷たく、そして鋭い視線が北上を捉える。
「だから、なんだというのだ?」
「だから、『地球』を人質にすることにした」
「なん、だと?」
「俺の『ヒトナミ』は、この世のすべての『波』を操ることができる。さっき、この地球の中心に向けて、『波動』を撃った」
「『波動』……?」
「この『波動』は音速で進み、地球の核まで(約6371キロメートル)到達すると、内部で核分裂を引き起こし、大爆発させる」
「な……」
初めて、レセプターの顔に冷や汗と、焦りの色が……
「つまり、あと『10分26秒』で地球は木っ端微塵となり、宇宙の藻屑と消える」
「貴様……」
ハヤト、大門、律子たちもビックリしている。
「お、おいおい、それって……」
「き、北上くん……」
レセプターは、北上を指差し、口早に話す
「いいのか、それで? 私やお前たちだけではなく、すべての人類も一緒に滅ぶことになるのだぞ?」
「このまま放っておいても、お前たちに駆除されるなら一緒だ」
対峙する北上とレセプター、そしてそれを見守る三人……
「北上……嘘だと言ってくれ!」
「あの目……北上くん、本気だ」
ゴゴゴゴゴ……
ビルが、いや地球が振動している……
「どうだ? 今俺の波動が、地球の『マントル』を通過している……
お前にはこの振動が、地球の『悲鳴』に聞こえるんじゃないのか?」
レセプターは大きく息を吸い込み、手を顔に当てる
指の隙間から、この世のモノとは思えぬ、恐ろしく冷たい目で、北上を凝視する
「この波動を消すことができるのは、この世で俺だけだ……さあどうする? あまり時間は残っていないぞ」
「……」
「……」
しばしの沈黙が続く……
ハヤト、大門、そして北上の額にも、冷や汗が滲む。
そして……――
「いいだろう、私を殺すがいい」
レセプターは、微笑みながら両手を広げる。
「たとえ私を殺しても、未来は変わらない」
自信ありげな表情……多分そうなのだろう
北上も、レセプターを見据えながら、静かに語る
「そうだな、俺もそう思う」
「北上……?」
「だから、俺はお前を殺さない選択をしようと思う」
「どういうことだ?」
「お前を、急速冷凍機でコールドスリープ、つまり封印させてもらう」
「封印……だと?」
レセプターの顔が、また訝し気になる……『想定』していた答えと違うから。
「なぜ殺さず封印する?」
「お前を殺したら、すぐに第二第三のレセプターが誕生する仕組みなんじゃないのか?」
「なぜそう思う?」
「俺が地球なら、きっとそうする」
レセプターは、子供のように目を見開き、ビックリした顔をして、笑い出す
「フ、フハハハ……まったく、旧人類にしておくには惜しい男だ、お前は」
「封印の期間は百年だ」
「百年!? そんなに?」
北上が言った言葉に、ハヤトが反応した
「いや、足りないぐらいだ……たった百年で俺たちは、今の人類を説得し、地球に『害獣認定』を取り消させなくてはならない」
「いいだろう、お前たちに百年の猶予をやろう」
パチンッ
レセプターは、腕を上げ、指を鳴らす。
「私を封印したままにしたり、このまま殺そうとしても無駄だ。 今全人類の遺伝子に、『ヒューマンスレイヤー』に覚醒する『種』を植えた」
「『ヒューマンスレイヤーの種』……?」
「今からちょうど百年後に、この『種』は開花する……その数は、全人口のおよそ十分の一。 これは、私を殺そうが、封印し続けようが、必ず百年後に覚醒する」
「全人口の、十分の一……八十億人いたら、およそ八億人……?」
「この覚醒を破棄できるのは私だけだ……せいぜい、良からぬことを画策するのは、考えた方がいい」
そう言って、レセプターは、北上たちの拘束を受け入れる……
拘束が終了して、北上は『波動』を止めた。
戦いは終わった。
しかし、これで人類は、『勝利した』と言えるのだろうか……
――数時間後、自衛隊の特別拘束部隊、特殊災害事後処理班が到着。
重症のハヤトと大門は、ストレッチャーに乗せられる。
北上も、律子の肩を借りないと立って歩けないほど疲弊していた。
ストレッチャーで横になりながら、ハヤトが北上に語りかける
「終わったな……」
「いや、『始まった』というべきだな……俺たちには『大仕事』が残された」
「そうだね、せっかく手に入れたこの『希望』を無駄にしないためにも、僕たちはさらなる『努力』が必要だ」
ストレッチャーに乗せられた大門の目は、もう前を向いている。
世界は知った――、『平和』の本当の意味を。
世界は知った――、これは『希望』ではなく、『猶予』なのだと。
世界は知った――、これは、『終わり』ではなく『始まり』なのだと。
世界は知った――、この世界の未来は、自分たち次第……
……
……
……
そして百年後……――
ピーーーー……
「アラート解除、自律神経系、再起動。
血中酸素飽和度、98パーセントニ上昇。
脳波パターン、アルファ波検知、覚醒レベル上昇」
装置のモニターに、いろんなデータが表示される。
「生命維持装置オフ、脈拍異常ナシ、対象者覚醒シマス」
バシュゥーーーー……
ウイィィィン……
コールドスリープ装置のハッチが開く。
中には、百年前とまったく変わらない姿の、レセプターの姿が。
ゆっくりと、目が開く……
「さあ旧人類よ……お前たちの答えをみせてもらおうか」
END
ご愛読ありがとうございました。また次回作でお会いしましょう。




