15-3 憤怒
大門VSスキンヘッドの男
「オレたちの連携を避けるため、引き離す作戦か……なるほど」
スキンヘッドの男は、体の埃を落としながら話す。
「……ここは『展望室』の下、多分『編集室』だね、こんな狭い空間だと、キミのさっきの攻撃は難しいハズ。 しかも……」
バタバタバタバタ……
その『編集室』からも見える、展望室の窓の外に、他のテレビ局のヘリコプターが飛んでいるのが。
「あのヘリコプターのライトに照らされて、今落ちてきた『穴』の、剥き出しになった鉄骨の影がここまで伸びている。
今僕が『ヒトカゲ』を使えば、あの無数の鉄骨がキミに落ちてくるよ」
確かに、大門の足元には、ヘリコプターの影に照らされて、天井の鉄骨の影が伸びている……
「フッ……」
スキンヘッドの男は、不敵な笑みを浮かべる
「逆、だな」
「えっ?」
シュンッ!
ドスッ!
「うわぁっ!」
スキンヘッドの男の体から、一本の長い『トゲ』が瞬時に伸び、大門の肩口に刺さる
「オレのこの『ヒトツキ』は、オレの意思で速さも、長さも、硬さも思いのまま。
こんな狭い空間では、お前の方がオレの『ヒトツキ』から逃れることはできない」
「く、くそっ……」
その時、スキンヘッドの男の目に巻かれていた包帯がとれる。
「そ、その目……?」
その両目は、焼けただれ、眼球も潰れた状態だった……
「キミは、盲目だったのか」
「オレは……インドのカースト制度最下層、『アンタッチャブル(不可触民)』出身だ」
『カースト制度』……
インドのヒンドゥー教における身分制度。
四つの階級があるが、その中にさえ含まれない、最も不浄と呼ばれているのが『アンタッチャブル』。
1950年の憲法改正により差別は禁止されたが、未だその慣習は根強く残っていると言われている。
「オレたち『アンタッチャブル』は、上の命令には逆らえず、『物乞い』させられることが多い。
その時に、少しでも慈悲を仰ぐために、ワザと目を焼き潰される子供が、今も後を絶たない」
「そんな……北上くんの通り名も『触れられない者』、同じ言葉なのに、中身は『雲泥の差』だ……」
大門はショックを隠せない。
「なぜだ? なぜオレたちはこんな目に合わなくてはならない? オレたちがいったい何をした?」
スキンヘッドの男は、両手を開き、天井を見上げ、まるで天にモノ申すかのように叫ぶ
「なぜ殴る? なぜ斬る? なぜ撃つ? なぜ折る? なぜ泣かす?
なぜ堕とす? なぜ嵌める? なぜ犯す? なぜ侵す? なぜ壊す?
土地が、名誉が、尊厳が、プライドが、そんなに欲しいのか? そんなに大事か? 他人の命を奪ってまで、手に入れなければいけないものなのか?」
大門は、ただただ圧倒される……
「なぜ殺す? なぜ奪う? なぜ憎む? なぜ恨む? なぜ妬む?
なぜ蔑む? なぜ羨む? なぜ戦う?
正義とは、悪とはなんだ? なぜ神は助けてくれない?
オレたちは、支配され、奪われるために生まれてきたのか?
ほんの少しでも、他人を思いやる気持ちがあれば、戦争なんて起きないのに!
なぜ世界はこんなにも残酷で、無慈悲で、理不尽なのだ?」
大門は圧倒され、後ずさりする。
「『初期化』だ……
レセプター様の掲げる理想世界、『完全世界』が完成し、今まで強欲を貪ってきた者たちが『淘汰』されれば、
この地球は、差別も、戦争もない、素晴らしい世界に生まれ変わることができる……」
大門は、俯きながら、静かに話し出す。
「多分、僕なんかじゃ想像もつかないほどの地獄を、体験してきたんだろうね……
僕には、キミの考えが間違っている、とは言えない……
僕は、キミの問いに対する、正確な答えを持っていない……」
大門は、悲しそうな顔で、そう答える
「でも、これだけは言わせてほしい。
『世界は、少しずつだけど、良くなっていってる』……
昔みたいに、奴隷制度が当たり前だったり、世界規模の大戦争なんか今は起こっていない。
民主主義の国家もたくさん増えたし、慈善活動も盛んにおこなわれている」
スキンヘッドの男は、黙って聞いている
「インターネットでも、『殺す』よりも、『愛』の方が、検索数が多いんだ。
世界には、まだ良い人もたくさんいる、壊すんじゃなくて、失くすんじゃなくて、 『たとえ1mmでもいい、少しずつ、みんなで世界を良くしていこうよ』」
「……」
一瞬、スキンヘッドの男の顔が、微笑んだように見えた……
「甘いな……」
「えっ」
「いかにも、平和ボケした日本の『甘ちゃん』が、言いそうな言葉だ……
もう……手遅れなんだよ、『腐った果実は、二度と元に戻ることはない』! 世界は、『初期化』させるべきなんだーーっ!」
スキンヘッドの男が構える!
「『人身掌握術、ヒトツキ』ーーッ!」
「なんでわかってくれないんだ! バカヤローーッ!
『人身掌握術、ヒトカゲ』ーー!」
ガガガガガガーーッ
ドドドドドドーーッ
狭い『編集室』は、白い煙にまかれる……
煙が晴れる……大門は、無事だった。
『ヒトツキ』の無数のトゲは、ちょうど大門を避けて、周りの編集の機械に突き刺さっている。
スキンヘッドの男は、天井からの無数の瓦礫と鉄骨に刺し貫かれていた。
「ゴホッ……」
血を吐くスキンヘッドの男、鉄骨のせいで、まったく身動きもできないようだ。
大門は、トゲに触れる。
「これは……? こんな強度じゃ、鉄骨を遮るどころか、僕を貫くこともできないじゃないか……」
スキンヘッドの男のトゲは、まるで『紙』を丸めたような程度の強度だった。
「キミ、まさか、ワザと……?」
「フッ……な、何のことだ? ただ、オレより、お前の方が強かった、それだけ、だ……」
「ちくしょう、バカやろう、ちくしょう……」
大門は、その場で泣き崩れる




