14-3 脅迫
北上、ハヤト、大門の三人は、四階の直通エレベーターで、最上階の『会長室』へ向かう……レセプターがいると思われる部屋へ。
「ハヤト、お前、術を使えるほど回復したのか?」
「いや、あと二・三回ってとこかな……」
律子からの通信が入る。
「北上くん、ハヤトくん、大門くん、アナタたちに全てを任せてしまうこと、申し訳なく思っているわ」
「りっちゃん先輩……」
「でも最後に、最重要指令を伝えます。『絶対に生きて帰ること』、これは命令よ」
エレベーターの中、沈黙が続く……
俯いていたハヤトが、突然喋り出す。
「まあ、なんだ……
ここまでこれたオレっちたちって、凄いよなぁ~、あの曳地がいた『ブラボーチーム』も、優秀そうな祥子情報官がいた『チャーリーチーム』よりも上ってことだもんなー、オレっちたちスゲー! ナーハハ!」
北上が、小さなため息を一つつき、ハヤトに返す
「ハヤト、無理に明るく振る舞う必要はない。
気持ちはわかるが、ミサオがスパイだったという事実は、変わらないのだから……」
「で、でもよう……」
チーン
エレベーターは、目的の『最上階』へ到着。
「この廊下の一番奥が『会長室』だ、何か仕掛けてくるかもしれない、警戒を怠るな」
ゴクリっ……
三人は、覚悟を決め、歩き出す
歩きながら、ハヤトが質問する
「レセプターに会ったら、どうするつもりなんだ北上? 説得するのか? こんなことはやめるようにって」
「それは現実的ではないな、人類を『害獣』と吐き捨てるレセプターに、俺たちの声が届くとは到底思えない」
今度は大門が、おそるおそる聞く……
「じゃあ、やっぱり『抹殺』……?」
ゴクリっ……
北上が振り返り、二人に話す。
「……一応、本部からの指令は、『説得を試みて、ダメなら射殺せよ』と言われている。
だが俺は、たとえレセプターを射殺しても、この先の未来は変わらないような気がしている」
「じゃあ、どうするつもりなんだ?」
北上は、一瞬目を閉じ、自分の考えを二人に話す。
「そうだな、一番近い言葉で表現するなら……『脅迫』、かな?」
「き、『脅迫』!?」
三人は、話しながらも進んで行く、そして――
「着いたぞ、会長室だ」
三人に緊張が走る……
ガチャ、
ギイィィ……
重苦しい雰囲気の、会長室のドアを開ける
開けてすぐ、三人は身構えるが……
「誰も……いない……?」
その時、突然天井のスピーカーから、音声が流れる
「『HSS』の諸君、予定変更だ、私は今そこにはいない。
その会長室に行く途中にあった、『展望室』にいる……待っているぞ」
北上たちは来た道を戻り、途中にあった『展望室』と書かれた看板を見つける。
階段を上がると、『展望室』と書かれたドアが……
ボタンを押すと、自動でドアが開いた
シュイン
……そこには、真ん中で椅子に座ったレセプターと、その後ろに『チャイナドレスの女』と『スキンヘッドの男』が立っていた。
「ようこそ、『HSS、アルファチーム』の諸君、私が地球の代弁者、『レセプター』だ」
……報告にあった通りの、身長175センチほどの、高価なスーツを着た男性。
髪の毛も、眉毛も、睫毛も、瞳も、そして肌の色も、全てが真っ白な二十代前半くらいの男……
「お前が、レセプターか……」
北上とレセプター。
新人類と旧人類の代表者が、初めて対峙する……
少し微笑んでいるレセプター、その動きには、余裕すら伺える。
展望室はかなりの広い空間で、後ろには巨大な窓ガラスが、手前はギャラリーとしていろんなものが展示してある。
目の前のテーブルには、大きなお皿にバナナの皮が綺麗に六枚に剥かれ、並べられている。
「私が選抜した『ヒューマンスレイヤーアドバンスド・シックス』を破り、よくぞここまで辿り着いた、褒めてやろう」
「このやろう、何様のつもりだ……」
今にも飛び掛かりそうなハヤトを、北上が制止する。
ウイィィン……
突然、レセプターたちの後ろのカーテンが自動で開いていき、その窓にはこの街の夜景が、所狭しと広がっている……
「これは……?」
「見るがいい、この展望室からの眺めを……どうだ、まるで『銀河』のようだろう?」
確かに、その巨大なガラス窓から見える景色は、暗闇に、何百万、何千万と輝く星のように、いろんな建物からの光があふれている。
「この最上階の展望室は、ちょうど屋上部分に半分せりだした場所にある。この高さなら、この街を一望できる」
レセプターは、ガラス窓に向かい、その『銀河』を眺める。
「お前たち『害獣』が、ここで生活を営み、暮らし、笑いあい、愛し合い、奪い合い、そして殺し合い、憎み合う……
この光は、地球を貪って得た光だ。まさに『害獣』」
「……」
「ゴキブリの『G』が言っていたな、
毎日何億という動物を、食料として殺害しているのに、感謝もせず、食べきれないと言っては捨てる。
地球の裏側では、食べるものが無くて餓死するニンゲンが何億人といるのに」
「う……」
「『終末のアリス』も言っていたな、
『そもそも環境汚染は、自分たちのせいかどうかはわからない』
『自分の国より、もっと他の国の方が汚染している』
『便利になったのだからいいだろう?』
――ふざけるなっ! と」
「くっ……」
「大気を蝕み、海を汚染し、大地を勝手に作り変えてきた……
幾万もの生物の種を絶滅に追いやっても、『それは仕方のない事』と言って平気な顔をしてきた」
レセプターは、展望室の窓の『銀河』をバックに、悠然と演説する……
まるで、内閣総理大臣の所信表明のように――
まるで、教会の大司教が、信者に説くように――
「さすがのお前たちでもわかるだろう、お前たち旧人類が、地球にとっての『害獣』だということが」
三人は、何も言わずに沈黙……
「フッ……」
レセプターは少し微笑む。
『レセプター』……
受容体とは、生物の体に何らかの刺激があった場合に、それを受け取り、伝達する化学伝達物質。
その働きは、シグナルの中継、増幅、統合の三つに大別される。
地球からの声を『受信』し、ヒューマンスレイヤーに駆除を『伝達』するもの。
――この髪の毛も、眉毛も、睫毛も、そして肌の色も、全て『白き男』。
果たして、人類にとって彼は、抗うべき『悪魔』なのか? それとも従うべき『神』なのか……?




