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【完結】害獣認定  作者: みっど
第14章 表と裏・二つの正解
39/52

14-2 告白

 ◆……知りたくなかった、驚愕の事実。

 その衝撃の凄まじさを、律子の通信が伝える。


「レセプターのスパイは、アナタだったのね……」



 北上は、少し悲しそうな顔をして、犯人のスパイを見る。

「レセプターに内通しているスパイの正体、それは、お前だな、ミサオ」

「えっ」

 驚くミサオ、それもそのハズ、自分には一切身に覚えがない……


「本人が一番驚いているようだな、無理もない、今もお前の波動は『善意』しかない」

「それってどういう……?」

「俺が疑ったのは、その『善意しかない心』だ、ミサオ……

 この世に一点も悪意のない人間など存在しない……たとえ『聖人』と呼ばれる人間であってもな」

 ミサオに、そう言い放つ北上。


「先ほどのドブネズミのリンダとの戦闘、

 ほんの少しでも悪意のある人間なら、あんな戦い方はできない……」

 その場にいる全員が、先ほどのミサオの激闘を振り返る。


「まるで『人間』とは思えないほどの『純粋さ』……

 お前の波動は純粋すぎる……不気味なほどに」


 シュン……

 ミサオの体から、聞きなれない音がした

 下を向いていたミサオの口が、少し微笑む

「……フ、フフフ」

「ミサオっち……?」


「亡くなったお母さんに言われていたんです、『イケメンには気をつけなさい』と……

 まさかこんな形でバレるなんて……さすが、レセプター様が一目置いている人物ですね、北上さん」

「ウソだろ、ミサオっち!? 本当に!?」

 ハヤトも、大門も、信じられないという顔をしている。

「そうです、何を隠そう私が、レセプター様に情報を流し、アナタたちHSSを窮地に追い込んだ張本人です」


 豹変したミサオに、北上が語りかける

「正体がわかった今でも、お前の波動は『善意』しかない……

 今の戦闘に入るまで、俺ですらもまったく疑っていなかった……いったいどうやって俺たちを騙したんだ?」


 ミサオは少しだけ、三人と離れる。

 服の裾を少しだけ捲ると、ミサオのお腹には『ヒューマンスレイヤーの紋章』が……

「私もアナタたちと同じように、地球の洗脳を受けていない『ヒューマンスレイヤー』です。

 人身掌握術の名は『ヒトマカセ』……自分の意識を『表層意識』と『深層意識』に切り分ける事ができる能力です」


「『表層意識」と、『深層意識』……?」

「そうか、今俺が感じている波動は『表層意識』のもの……『深層意識』では、別の事を考えていたのか」

 さすがの北上も驚く。


「そうです、私の『表層意識』は、アナタたちに怪しまれないために、悪意なんて一点もない、本当に純粋な人間に設定しました。

 でもそれが原因で北上さんにバレちゃうなんて、皮肉なものですね」

「なんで、こんなことを……」

 ハヤトが、みんな一番聞きたかったことを聞く。


「決まっています……『お金』です」

「お、『お金』……?」


「だって、この世はお金がすべてじゃないですか。この世にお金で買えないモノなんてありませんよ」

 ミサオは、あっさりと答える。

「そんな……でも、『愛や友情はお金じゃ買えない』っていうじゃないか」

「そうですね、確かに真実の愛や友情はお金では買えないかもしれません……

 でも、知っています? お金が無いと、愛や友情は続かないんですよ」

「そ、そんなことは……」


 ミサオは、三人の周りをゆっくり歩きながら、説明する。


「アナタたちや律子先輩は、自衛隊でもエリート中のエリート、今までお金で苦労したことなんて、一度もないでしょうね」

「……」

「実は私の今の肩書『情報官』も、お金で買ったまがい物です」

「そんな……」

 タブレットで聞いていた律子も、さすがに驚く。

「びっくりですよね、律子さん……

 でもこの世には、お金のためにこういうことをする人がごまんといるんです」


 北上が続ける

「『お金のため』、と言ったな……何のためにお金が必要だったんだ?」


「私の両親は、世間知らずでお人好しでした……知り合いに騙されて、考えられないほど多額の借金を抱え、追い詰められた挙句、『ごめんなさい』と書いた紙だけ残し、自殺しました……私と弟だけを残して」

「……」


「保険金も親戚に騙され一文無しになり、私と弟には絶望しか残らなかった」

 ミサオは上を向き、昔を回顧しているよう……

「私は死に物狂いで働きました、それこそ、どんなに汚い仕事でも……生きるために」


 ミサオは、また三人を見る。

「そうして私は、『この世はお金がすべて』と思うようになりました」


 三人と律子は黙っている……

「事実、世界中でお金にまつわる事件はなくなっていない……

 お金が無いせいで、学校にも行けず、危険な仕事をしている少年もいます。

 経済大国の日本でさえ、未だに『闇バイト』などの事件が後を絶ちません」


 全員の頭の中に、同じことがよぎる……

 確かに、今回の事件に隠れてはいるが、お金に関する事件や事故は、未だに続いている。

「世界は、人間は、未だに『お金』に縛り付けられているんです、それが真実」


 三人と律子は、反論できずにいる。

 彼女が、自分たちが想像もしないほどの苦労をしてきたことがわかるから……


「もしアナタたちが、お金が無いのに彼女や家族ができたらどうします?

 おいしいご飯も、かわいい洋服も、遊びにも連れて行ってあげられない、

 愛する人にひもじい思いをさせて、それで平気ですか?」

 全員絶句……


「でももういいんです、私の目的は成就された、私の目的はHSSの全滅」

 ミサオは、三人の方へ歩いてきて、両手を差し出す。


「レセプター様が一目置いているアナタたちだけは、このままでいいと言われています。そして報酬のお金は、今頃私の弟が受け取っているはず」


 ミサオは、にっこりと笑って、

「さあ、私を拘束してください」


 *****


「この後封印部隊が来る予定だ、それまでおとなしくしていてもらう」

 ミサオは一切の抵抗をせず、おとなしくしている。


 北上に、拘束具をつけられながら、ミサオが語りだす。

「フフ……ダンテの神曲では、最大の罪は『裏切り』……

 裏切者は、地獄の最下層コキュートスにて氷漬けにされるといいます、今の私にピッタリですね」

 ミサオは、これから先、自分が背負うであろう『業』を確かめるように呟く。

 北上は、静かに話を聞いている。


「私の『人身掌握術・ヒトマカセ』……まさに他力本願、

『表層意識』の善人にまかせて、深層の私はずっと隠れて、お金のことばかり考えていました、最悪ですよね」

 後ろめたさからなのか、ミサオは、北上の顔を一切見ようとしない。


 ここで北上が、口を開く

「……『他力本願』、よく悪い意味でつかわれることが多いが、元々は仏教用語。

 その本当の意味は、弥勒菩薩が全世界の人間の幸せを願う、という意味だ」

「……」


 カチャン

 拘束具が付け終わった。


 北上は、目を合わせないミサオの背中から、静かに話す。

「前に俺が言ったな、一点の悪意もない人間など存在しない、と。

 その逆もしかりだ、お前が本当は世界の平和を願っていること、波動で伝わっている」


 ミサオの肩が震えている。

「北上さん、本当に最後までかっこいいんですね、ズルいです……

 ううぅぅ、ぐすっ、ひっく……」

 耐え切れなくなったミサオは、声を上げて泣き崩れる。


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