14-2 告白
◆……知りたくなかった、驚愕の事実。
その衝撃の凄まじさを、律子の通信が伝える。
「レセプターのスパイは、アナタだったのね……」
北上は、少し悲しそうな顔をして、犯人のスパイを見る。
「レセプターに内通しているスパイの正体、それは、お前だな、ミサオ」
「えっ」
驚くミサオ、それもそのハズ、自分には一切身に覚えがない……
「本人が一番驚いているようだな、無理もない、今もお前の波動は『善意』しかない」
「それってどういう……?」
「俺が疑ったのは、その『善意しかない心』だ、ミサオ……
この世に一点も悪意のない人間など存在しない……たとえ『聖人』と呼ばれる人間であってもな」
ミサオに、そう言い放つ北上。
「先ほどのドブネズミのリンダとの戦闘、
ほんの少しでも悪意のある人間なら、あんな戦い方はできない……」
その場にいる全員が、先ほどのミサオの激闘を振り返る。
「まるで『人間』とは思えないほどの『純粋さ』……
お前の波動は純粋すぎる……不気味なほどに」
シュン……
ミサオの体から、聞きなれない音がした
下を向いていたミサオの口が、少し微笑む
「……フ、フフフ」
「ミサオっち……?」
「亡くなったお母さんに言われていたんです、『イケメンには気をつけなさい』と……
まさかこんな形でバレるなんて……さすが、レセプター様が一目置いている人物ですね、北上さん」
「ウソだろ、ミサオっち!? 本当に!?」
ハヤトも、大門も、信じられないという顔をしている。
「そうです、何を隠そう私が、レセプター様に情報を流し、アナタたちHSSを窮地に追い込んだ張本人です」
豹変したミサオに、北上が語りかける
「正体がわかった今でも、お前の波動は『善意』しかない……
今の戦闘に入るまで、俺ですらもまったく疑っていなかった……いったいどうやって俺たちを騙したんだ?」
ミサオは少しだけ、三人と離れる。
服の裾を少しだけ捲ると、ミサオのお腹には『ヒューマンスレイヤーの紋章』が……
「私もアナタたちと同じように、地球の洗脳を受けていない『ヒューマンスレイヤー』です。
人身掌握術の名は『ヒトマカセ』……自分の意識を『表層意識』と『深層意識』に切り分ける事ができる能力です」
「『表層意識」と、『深層意識』……?」
「そうか、今俺が感じている波動は『表層意識』のもの……『深層意識』では、別の事を考えていたのか」
さすがの北上も驚く。
「そうです、私の『表層意識』は、アナタたちに怪しまれないために、悪意なんて一点もない、本当に純粋な人間に設定しました。
でもそれが原因で北上さんにバレちゃうなんて、皮肉なものですね」
「なんで、こんなことを……」
ハヤトが、みんな一番聞きたかったことを聞く。
「決まっています……『お金』です」
「お、『お金』……?」
「だって、この世はお金がすべてじゃないですか。この世にお金で買えないモノなんてありませんよ」
ミサオは、あっさりと答える。
「そんな……でも、『愛や友情はお金じゃ買えない』っていうじゃないか」
「そうですね、確かに真実の愛や友情はお金では買えないかもしれません……
でも、知っています? お金が無いと、愛や友情は続かないんですよ」
「そ、そんなことは……」
ミサオは、三人の周りをゆっくり歩きながら、説明する。
「アナタたちや律子先輩は、自衛隊でもエリート中のエリート、今までお金で苦労したことなんて、一度もないでしょうね」
「……」
「実は私の今の肩書『情報官』も、お金で買ったまがい物です」
「そんな……」
タブレットで聞いていた律子も、さすがに驚く。
「びっくりですよね、律子さん……
でもこの世には、お金のためにこういうことをする人がごまんといるんです」
北上が続ける
「『お金のため』、と言ったな……何のためにお金が必要だったんだ?」
「私の両親は、世間知らずでお人好しでした……知り合いに騙されて、考えられないほど多額の借金を抱え、追い詰められた挙句、『ごめんなさい』と書いた紙だけ残し、自殺しました……私と弟だけを残して」
「……」
「保険金も親戚に騙され一文無しになり、私と弟には絶望しか残らなかった」
ミサオは上を向き、昔を回顧しているよう……
「私は死に物狂いで働きました、それこそ、どんなに汚い仕事でも……生きるために」
ミサオは、また三人を見る。
「そうして私は、『この世はお金がすべて』と思うようになりました」
三人と律子は黙っている……
「事実、世界中でお金にまつわる事件はなくなっていない……
お金が無いせいで、学校にも行けず、危険な仕事をしている少年もいます。
経済大国の日本でさえ、未だに『闇バイト』などの事件が後を絶ちません」
全員の頭の中に、同じことがよぎる……
確かに、今回の事件に隠れてはいるが、お金に関する事件や事故は、未だに続いている。
「世界は、人間は、未だに『お金』に縛り付けられているんです、それが真実」
三人と律子は、反論できずにいる。
彼女が、自分たちが想像もしないほどの苦労をしてきたことがわかるから……
「もしアナタたちが、お金が無いのに彼女や家族ができたらどうします?
おいしいご飯も、かわいい洋服も、遊びにも連れて行ってあげられない、
愛する人にひもじい思いをさせて、それで平気ですか?」
全員絶句……
「でももういいんです、私の目的は成就された、私の目的はHSSの全滅」
ミサオは、三人の方へ歩いてきて、両手を差し出す。
「レセプター様が一目置いているアナタたちだけは、このままでいいと言われています。そして報酬のお金は、今頃私の弟が受け取っているはず」
ミサオは、にっこりと笑って、
「さあ、私を拘束してください」
*****
「この後封印部隊が来る予定だ、それまでおとなしくしていてもらう」
ミサオは一切の抵抗をせず、おとなしくしている。
北上に、拘束具をつけられながら、ミサオが語りだす。
「フフ……ダンテの神曲では、最大の罪は『裏切り』……
裏切者は、地獄の最下層コキュートスにて氷漬けにされるといいます、今の私にピッタリですね」
ミサオは、これから先、自分が背負うであろう『業』を確かめるように呟く。
北上は、静かに話を聞いている。
「私の『人身掌握術・ヒトマカセ』……まさに他力本願、
『表層意識』の善人にまかせて、深層の私はずっと隠れて、お金のことばかり考えていました、最悪ですよね」
後ろめたさからなのか、ミサオは、北上の顔を一切見ようとしない。
ここで北上が、口を開く
「……『他力本願』、よく悪い意味でつかわれることが多いが、元々は仏教用語。
その本当の意味は、弥勒菩薩が全世界の人間の幸せを願う、という意味だ」
「……」
カチャン
拘束具が付け終わった。
北上は、目を合わせないミサオの背中から、静かに話す。
「前に俺が言ったな、一点の悪意もない人間など存在しない、と。
その逆もしかりだ、お前が本当は世界の平和を願っていること、波動で伝わっている」
ミサオの肩が震えている。
「北上さん、本当に最後までかっこいいんですね、ズルいです……
ううぅぅ、ぐすっ、ひっく……」
耐え切れなくなったミサオは、声を上げて泣き崩れる。




