14-1 正体
「あ……」
「……待ってたよ、必ず来ると信じてた」
そこには、ハヤトさんを肩に抱えた北上さんが。
「ハヤトのお陰で命拾いした、もうキモイとは言えないな」
フフ、あの北上さんが『デレてる』……
北上さんは、ハヤトさんを安全な場所に腰かけさせる。
「う……」
「気が付いたか、ハヤト」
私は安心して、体中の力が一気に抜け、その場に倒れそうになる……
「大丈夫か、ミサオ」
北上さんが、私を抱えてくれた。
「ミ、ミサオっち……?」
「ハヤトさん、無事だったんですね、よかった……」
「ミサオっちは、あんまり無事とは言えないな……」
「だ、大丈夫です……『命さえあれば、何とかなります』、エヘへ……」
私も、役に立てたかな……?
三人に『罪ほろぼし』、できたかな?
人類のこと、ほんのちょこっとでも、守れたのかな……?
ポタッ
私の目から、涙が一粒、左腕に落ちた……
えっ……? 左腕に?
「北上さん、これ、なんか変です」
「どうした、ミサオ?」
「潰れたはずの左目から涙が……それに、ないはずの左腕に、涙の感触が……」
「なに?」
北上さんは、ないはずの私の左腕や、右足を触って確かめている。
「これは……、『幻覚』……?」
「あ~あ、バレちゃった? バレちゃ仕方ないわね~」
奥から、リンダがトコトコ歩いてきた。
「そうか、どうやらお前の『人身掌握術、ヒトパピローマ』は、細胞の異常増殖ではなく、相手に『幻覚』を与える能力か?」
「その通り!
この『人身掌握術、ヒトパピローマ』は、相手の脳内麻薬を操作して、相手に幻覚を見せることができる術」
『脳内麻薬』……
脳内麻薬とは、人間の脳内で自然に分泌される、神経伝達物質の総称
基本的には、痛みやストレスに反応して分泌され、身体や心の負担を軽減する役割を持つ。
逆に、麻薬や覚せい剤など、幻覚や毒性の高いもので、脳内麻薬に反応する物も多い
代表的なものに、『ドーパミン』『エンドルフィン』『アドレナリン』などがある
「アタイの周り半径十メートル以内の『限定空間』にいる者の『脳』に干渉して、同じ幻覚を見せることができるのよ」
そう言えば、私たちの周りには、薄い『霧』のようなものが立ち込めている。
これで私たちの脳に、直接干渉していたのね……
北上さんが立ちあがり、リンダを睨む。
「お前の攻撃が、幻覚だとわかった今、もう俺たちには通用しないぞ」
「それはどうかしら……?」
「どういう意味だ?」
「ニンゲンはみんな、『脳』に支配されている。
想像で妊娠したり、焼けた石だと信じたものを当てると、本当に火傷したりする……(プラセボ効果・ノセボ効果)
たとえ幻覚だとわかっていても、『脳』がそう判断したら、体が勝手に反応してしまう。
ニンゲンは、『脳』の指示には逆らえない、アタイのこの術から逃れることはできないよ」
ドブネズミなのに、なんて人間に詳しいの……
「そうか、ではやってみろ」
「北上さん……!」
「北上くん……!」
北上さんは、そのまま無防備に、リンダの方に歩いていく。
「ニンゲンのくせに、強がるのも今のうちだけよ! くらえ、『人身掌握術、ヒトパピローマ』!」
ドフゥッ!
「くっ」
バフゥッ!
リンダが叫ぶと、北上さんの腕や足が吹き飛んでいく!
「北上さんっ!」
でも北上さんは、そのままリンダに向かって歩いていく……
驚くリンダ。
「そんな、幻覚だと分かっていても、『痛み』はあるし、『恐怖』も感じるはず……なのに、なんで……?」
「どうやら俺は、この『限定空間内』であれば、お前と同じことができるようだ」
「アタイと、同じこと……?」
「まさか北上くん、自分で自分を『調律』しながら……」
「自分で自分を『調律』……? そんなことが?」
確かに北上さんは、自分の手の平を、自分に当てている。
「ああやって、『ヒトナミ』を使って、自分の『脳』のシナプスを、自分で『制御』しているんだ。あれなら、リンダの『ヒトパピローマ』に対抗できる」
「北上さん、凄い……」
「お前が、ミサオや大門にしたこと、俺は『怒っている』んだ……人間を舐めるのも、大概にしろ!」
「北上さん、まるでハヤトさんが乗り移っているみたい……」
リンダは少しビビりながらも、虚勢を張る。
「くっ……だ、だから何だって言うのよ、アンタたちは地球にとっての『害獣』、アンタたちは、『駆除』される存在なのよ!」
「それは、お前が決めることじゃない!」
「な、なによ、アンタなんか、アンタなんかーーーーっ!」
バオオオオオォォォーーッ!
リンダが幻覚で、巨大な『恐竜』みたいなモンスターに!
北上さんに襲い掛かる!
「北上さんーーーーっ!」
北上さんが、自分の右手を開き、前に突き出す。
ヒイィィン……
手の平の『ヒューマンスレイヤーの紋章』が輝く
「掌握!」
バフゥッ!
「なっ……!」
北上さんが、自分の右手をギュッと握ると、
リンダの幻覚が、風に当てられた煙のように消えていく……
ザザアアァァ……
「そ、そんな……」
(マズい、これはマズい……アタイの動物としての『生存本能』が、コイツはマズいと告げている……)
なんでだろう、リンダの考えていることが手に取るようにわかる……
きっとこの『霧』のせいで、お互いの脳内がリンクしているのかも。
バッ!
急に後ろを向いて、一目散に逃げようとするリンダ
リンダの考えていることがわかっている北上さんが、それを見逃すはずもなく……
「逃がさん、『人身掌握術、ヒトナミ』!」
ブウンッ……
北上さんが叫ぶと、リンダの退路に、大量の『猫』の姿が!
「な、なん……」
「さっき言ったはずだ、俺はお前の作ったこの『限定空間内』であれば、お前と同じことができると。
今、お前の目の前にいるのは、大量の狂暴な『猫』の幻覚だ」
「あ、ああ、あああ……」
「シャーーーーッ!」
「ニャーーーーゴッ!」
「ギャーーーーッ!」
リンダは大量の凶暴な猫たちに襲われて、悲鳴を上げている。
「リンダは今、狂暴な猫たちに、生きたまま食われる幻覚を見ている。終わったら拘束しよう」
「北上、お前、エグっ……」
さすがのハヤトさんも、少し引いている……
数分後、私たちの幻覚も解け、リンダも拘束。
私も、戻った手足を確認して、北上さんのところへ。
「やりましたね、北上さん」
「ああ、お前たちの頑張りのお陰だ」
「エヘへ……」
なぜだろう、北上さん、少し悲しそうな顔をしている……?
「律子先輩からの通信で、俺たちの中に『スパイ』がいると言っていたな」
「あ、はい。『ブラボーチーム』と『チャーリーチーム』が捕まってしまったのは、そのスパイから情報が流れたせいだと」
律子先輩からも、通信が入る。
「自衛隊の『AI』もそう判断したわ、そして、そのスパイがおそらく『アルファチーム』の中にいるだろうということも……」
「オレっちたちの、中に……?」
ゴクリっ……
北上さんが、私たち三人の顔を見ながら、話す。
「俺は、この『ヒトナミ』の能力のお陰で、なんとなくその人の『性格』を、『波動』で感じることができる……しかし、俺たちの中に、『悪意の波動』を持つものはいなかった」
「……」
「だが、今の戦闘でやっと気づくことができた、『スパイ』の正体……」
「えっ……!?」
◆……知りたくなかった、驚愕の事実。
その衝撃の凄まじさを、律子の通信が伝える。
「レセプターのスパイは、アナタだったのね……」




