12-2 知性
パキィンッ
パアァァ……
「10万桁でいいのだろう?」
「ええ~~っ?」
ハヤトさんが、もう呆れた顔で呟く
「北上、お前、ウソだろ……」
北上さんの『数式の鎖』が、すべて霧散して、消えていく……
「き、貴様……」
私は『数式の鎖』で縛られながらも、タブレットの検索結果を確認。
「『円周率』の記憶、これまでの世界記録は『約七万桁』……
北上さんは、それすらもあっさり超えちゃったことになります。
まあ、確かにこれも、テストの勉強には出てきませんもんねぇ……」
さすがに私も、もう凄すぎて、言葉が出てきません。
北上さんは、ストレッチをして、余裕の構え……
「おのれ、ならば……!」
魔術師が、また異様な構え
「人身掌握術、ヒトヨヒトヨニヒトミゴロ!」
ジャララララーーーーッ
また数字が書かれた、『数式の鎖』を作り、北上さんに攻撃を!
「こんどは『ルート2』の数式の鎖だ、さすがの貴様も、今度は……」
北上さんは目を閉じ、ブツブツと数字を唱えだす。
「1.414213562373095048801688724209……」
「ま、まさか……」
パキィンッ
パアァァ……
パキィンッ
パアァァ……
北上さんの『数式の鎖』は、また全て霧散した。
魔術師のワナワナが止まりません。
「さっき、確か俺たちの作戦成功率は三パーセントと言っていたな、
だが俺たちの『女王』ならきっとこう言うだろう、『三パーセントもあれば十分だ』と」
「くっ、この『劣等種』がいきがりやがって……
テメーらは私たちの言うことを黙って聞いていいりゃいいんだよ! どうせたいした『計算』もできない、クズばかりのくせによぉ!」
魔術師は、怒りに任せて、唾を飛ばしながら恫喝する
「特に自衛隊……軍隊でもないのに『戦争ごっこ』をしているお前たちは最低最悪だ」
「なんだとっ!?」
「……」
ハヤトさんが即座に反応、北上さんは黙って聞いている……
「ただ走っているだけで給料を貪る、『税金泥棒』……『兵隊』ではなく『公務員』だと?
『公務員』が兵器を持ってなにをする? だから『戦争ごっこ』だと言われるのだ!」
「テメー……」
北上さんが、ハヤトさんの肩を抑え、静かに話し出す
「それでいい」
「なにっ?」
「俺たちが『税金泥棒』と言われている間は、この国は平和だという証だ、その罵りは、甘んじて受けよう」
「北上……」
「北上さん……」
「だが、ひとたびこの国に有事が起これば、俺たちはこの国のために命をかけ、この国の盾になる、それが俺たち『自衛官』だ」
「フッ、だから何だというのだ。ならば『公務員』ではなく『兵隊』として活動すればよかろう?」
まさか、こんなところで『自衛隊』の存在意義の話になるなんて……
北上さんは、一度目を閉じ、すぐに真っ直ぐに魔術師を見据える
「『専守防衛』……」
「なに?」
「俺たち自衛官は、相手から武力攻撃を受けた時にはじめて防御力を行使することができる。
これは日本の憲法の精神にのっとり、自衛のための必要最小限の力。
それが『専守防衛』、相手を屠るための力ではなく、『守るための力』……俺たちは『兵士』じゃない」
「綺麗ごとばかり並べおって……『兵器』を持って相手を倒すのならば同じことではないか!」
「違う、兵士は相手を屠れば『戦果』になるが、俺たちは『公務員』、相手を屠れば『罪』となる。俺たちは、それだけの覚悟を持って、職務についているんだ」
北上さん、凄い……
私がタブレットで、『自衛隊』の存在意義を検索する必要は、まったくなかったですね……
魔術師のワナワナが、さらに大きく……
「まったく、貴様らビチグソザコ野郎どもが……いちいち私の癇に障る事をベラベラと……」
ヒュンヒュン、ビシィッ!
魔術師は、『数式の鎖』を鞭のようにして、北上さんを攻撃!
「こうなったら、縛るのではなく、直接この鎖で貴様の肉をえぐってやるわ!」
北上さんも、戦闘態勢に
「悪いがこちらも攻撃させてもらうぞ、時間もないらしいんでな」
呪縛を外した北上さんは、魔術師の攻撃を走りながら避ける!
バシンッ!
バシンッ!
「ハヤト、背中を貸せ」
「あいよ!」
『数式の鎖』に縛られているハヤトさんが、北上さんの声に反応して、そのまま膝まづき背中を見せる。
トンッ、トーーンッ!
ハヤトさんの背中を駆け上がり、空中へ飛ぶ北上さん。
そのまま魔術師へ攻撃!
「バカめ、私の計算では、私の攻撃の方が『0・5秒』速い!」
そう言って、魔術師が自分の手刀を北上さんに!
「北上く……っ!」
タブレット越しに、律子さんの悲鳴にも似た叫びが!
私も思わず……
「北上さん、あぶなっ……」
「大門、俺の影を踏め!」
『数式の鎖』に捕らわれたままの大門さんが、左足を空中の北上さんの影に合わせる。
「人身掌握術、ヒトカゲ!」
ガッ!
ヒイィィ……ン
大門さんが、空中の北上さんの影を、『人身掌握術、ヒトカゲ』で踏む!
ギュンッ!
「落下速度が加速したっ!?」
「なっ……! 計算が……!?」」
北上さんの右足のキックが、魔術師に炸裂!
ズガァッ!
「はぶしゅっ!」
ドシャァッ!
北上さんのキックを受けて、魔術師はその場に倒れる。
「や、やったー!」
立ち上がり、もう恒例になった一言……
「この世には、『1+1が2以上』になることもある、勉強になったか?」




