12-1 計算
「くうぅぅ……」
「うおおぉぉーーっ!」
「いくぞ、連携技、『マイクロブラックホール』!」
カアアァッ!
ズッドオォォーーーーンッ!!
ガガガガガガガガーー!
ガラガラガラガラ……
マイクロブラックホールの『ホーキング放射』により、とてつもないエネルギーの爆散が起こり、『メビウスの輪』の接合部分が、少しほつれる。
「今だ!」
私たち四人は、その一瞬をつき、見事脱出に成功する
ドガァーーンッ!
その威力は凄まじく、ちょうど四階北西に位置していた『下っ端かいぞくん』の頭の部分が、爆風で首からもげてしまう。
ギギギギギ……
ガガガガガーーッ!
ズ、ズズウゥゥン……
ガシャーーン
道路に落ちた『下っ端かいぞくん』の頭は、粉々に砕け、中の備品類も道路に散乱する
「た、助かった~」
「生きた心地がしなかったぜ~」
「『母ちゃんのツナマヨおにぎり』、おあずけですね、ハヤトさん」
「ああ、楽しみが残ったぜ」
目の前には、爆風で真っ黒こげになったキグルミが横たわっている
「おっと、こいつ、死んじまったのか?」
「まだ生きているよ、かろうじてな」
バッ!
私たち四人は、声がした後ろに振り返り、戦闘態勢を維持する
「魔術師……お前は『ノーダメージ』のようだな」
「限定空間からの爆風の方角を計算しておいたからな……
フム、まさか『特異点・マイクロブラックホール』まで生成するとは、少し『計算』を修正しなければならないようだな」
「今のオレっち達の技、見てなかったのかよ? お前たちに勝ち目なんてあると思ってんのか?」
「フッ……当然あると思っているよ、私の計算ではね」
「なんだと……?」
ハヤトさんが両手を合わせ、『ヒトスジ』を発動しようとする……
「おい、お前」
ビクッ!
「な、なんだよ……?」
「お前は先ほどの翁との戦闘と、『マイクロブラックホール』で能力を使いすぎだ、あと数回使えば意識を失って昏倒するぞ」
「な……」
大門さんも、魔術師の影を踏み、『ヒトカゲ』を発動しようとしている
「そしてお前もだ」
「!」
「ここで『ヒトカゲ』を使うのはよした方がいい……
先ほどの戦いでここの床は脆くなっている、ちょうどこの下の階は食堂の横、番組のロケで使う『爆薬』がしまってある倉庫だ。万が一床が抜けて爆薬が爆発したら……わかるな?」
「くっ……」
「わかっただろう、私はこの世のすべてを『計算』できる。お前たちがどんなに抗おうとも、私の『計算』の前では無意味だ」
魔術師は、余裕の笑顔で、私たちの周りをゆっくりと歩く。
「まったく、お前たちのような低俗な輩がいるから、私たちのような『高尚』なものたちが苦労するのだ」
魔術師は、やれやれと言った感じで、両手を上にして首を振る
「そこに横たわっているキグルミも、重度の自閉症らしい。
だから全然喋れないし、顔を隠すためいつもキグルミを着ていると言っていた」
「お前……仲間だろ?」
「さっきのオカマもそうだ……男としても、女としても機能しないのなら、生きている意味などない」
「なんだ、こいつ……?」
北上さんが、ハヤトさんの肩を掴んで説明する
「『優性思想』というやつだな……障害や疾患を持つ人間の出生や存在を、抑制・排除しようとする考え方だ」
私はタブレットを開いて調べる。
「『優性思想』……ありました。
『遺伝的な素質の改善を名目に、優良な人間を増やし、不良な人間を減らすという思想』です。
実際にナチスドイツや、昔の日本にも『優生保護法』という条例がありました。
でも今は、『優生保護法』は『母体保護法』へと変わり、
世界全体の考え方も、排除ではなく保護に変わっています」
「表向きは、な」
「なに?」
魔術師の言葉に、ハヤトさんが即座に反応。
「みんな、心の中では邪魔だと思っているよ……実際問題、何の役にも立たず、存在するだけで不快。
レセプター様が目指す、美しい人間、美しい地球には、不必要なものだ」
「このやろう、胸糞悪いことをべらべらと……」
「そうだよ、みんな頑張って生きているのに、僕だって……」
「世界中の人がみんな、アナタみたいな人ばかりじゃないんですからね」
「フッ、言っていろ、『劣等種』ども……」
北上さんが前に出る。
「本当に『高尚』な人間なら、相手を卑下したり、自分を優秀だなんて絶対に言わない。お前は、自分で自分の『格』を落としていることになるぞ」
「なんだと……?」
魔術師の顔が、凶悪に変わる……
私は思わず、心の中で叫んでしまった。
(北上さん、カッコいい……)
「やかましい、このクソボケが!
テメーらみたいな低能なサルごときが、私を愚弄するでないわーー!」
肩を震わせて、ワナワナしていた魔術師が、急に激高!
「フッ……」
北上さんは視線を逸らし、ちょっと苦笑い
「うわぁ……」
「ちょっと酷いな、あの言葉使い……」
「このザコキャラどもがぁ! 二度と舐めた口きけないようにしてやる!」
魔術師の右の目にヒューマンスレイヤーの紋章が光る
「人身掌握術・ヒトヨヒトヨニヒトミゴロ!」
ジャララララーーーーッ
魔術師の周りに、『数字』が集まってきて、それが鎖のように私たちに巻き付く!
「な、なんだこりゃ!?」
「ギャーハハ、どうだ、『数式』でできた鎖だ。
それは『円周率』を10万桁まで言えないと外れない仕組みだ!」
「なっ、10万桁!?」
「そ、そんなの無理です~」
パキィンッ
パアァァ……
「えっ?」
北上さんの『数式の鎖』の一部が、割れて霧散していく……
「3.14159265358979323846264338327950……」
パキィンッ
パアァァ……
「10万桁でいいのだろう?」
「ええ~~っ?」
ハヤトさんが、もう呆れた顔で呟く
「北上、お前、ウソだろ……」




