9-3 掌握
「あ、あっぶねぇ……」
「先に『波』を地面に打って、地形を調べておいて正解だったな」
北上さん凄い、『ヒトナミ』を使って、船で使う『ソーナー』みたいなこともできるんだ……
(※海上自衛隊では『ソナー』のことを『ソーナー』と呼ぶ)
「ぶ、ぶぶぶ、が、ばばば……」
私が振り返ると、後ろで大門さんが『ヒトカゲ』を使って、サラダの口を無理やりふさいでいる!
「……このまま重力をかけ続ければ、お前の『ヒトクチ』は効果を発揮できない。
あとは北上くんとハヤトくんが、Gを倒して合流すれば、僕たちの勝ちだ」
「ぶ、ぶばばばば、ばああああ!」
サラダは重力に抗うため、必死に立ち上がろうとしてる。
「くっ……はあああぁぁ!」
バキ、バキバキバキ、バキンッ!
「へぶしんっ!」
大門さんはさらに『ヒトカゲ』の出力を上げ、サラダを押しつぶした!
サラダの周りは、直径三メートルほどが押しつぶされ、床がへこみ、ひびが入る。サラダはまったく身動きが取れていない。
「どうだ、絶対にお前たちに連携なんてさせないぞ!」
私がタブレットを戻すと、北上さんたちがまだGを追いかけていた。
Gが、飛びながら食堂のあちこちにあるゴミ袋を食べている……?
ガサガサ、バクンッ、バクンッ
「あいつなにしてんだ? ゴミ袋なんて食べて……」
「多分あれがアイツの能力なんだろう、注意しろ」
「了解」
ハヤトさんと北上さんが警戒しながらも、攻撃に転じる。
ハヤトさんはイオノクラフトで空中から、北上さんが地面からGを挟み撃ちに!
その時、Gがクルリと振り向き、口を開ける。
「人身掌握術、ヒトゴミ!」
バアアアァァァーーーーッ!
北上さんに向かって放たれた『ヒトゴミ』を、間一髪、ロールして避けた。
「大丈夫か、北上!」
「ああ、大丈夫だ……この匂い、『ダイオキシン』か……?」
Gが、自慢げに話す。
「ギャーハハ、そうだよ、お前たち旧人類が作った、最凶最悪の毒、『ダイオキシン』だ」
「だいおきしん……?」
「……『ダイオキシン』とは、塩素を含んだプラスチックや紙くずが、不完全燃焼したときに発生する猛毒だ。その威力は青酸カリの千倍以上と言われている」
「青酸カリの、千倍!?」
さすがの北上さんの知識、でもこれって大ピンチでは?
「人間が便利さを求めて捨てたゴミが、不適切な処理によって『最悪の毒』に変わる……それを害虫の代表のようなゴキブリのお前が使うとは、皮肉が効きすぎだ」
「ひゃはは、オレ様はお前たちのゴミを体内で低温燃焼させて、ダイオキシンを精製することができる。自分たちが作った『最悪の毒』で、死んじまいなーーっ!」
北上さんはその場で立ち、目を閉じる……
「おい、北上……」
「北上さん……」
「人身掌握術、ヒトゴミーーーーッ!」
バアアアァァァーーーーッ!
「北上ーーーーっ!」
北上さんは右手を開き、『ヒトゴミ』の前に突き出した。
手の平にはヒューマンスレイヤーの紋章が光ってる……
Gの『ヒトゴミ』が当たる直前、北上さんの目が開く!
「掌握!」
そう言って右手を握る。
パアアァァァ……
ザザザァァァ……
「はあああぁぁ!? な、なんだ今のは!?」
Gが驚いている……
「何? 今何があったの? 説明してミサオ!」
律子先輩からの通信……
「Gの驚きはもっともです……凶悪な『ヒトゴミ』が一瞬で消え、辺りは白い結晶と、霧状になった水、そしてなぜか清々しい空気が充満しています」
ハヤトさんが、肩についた白い結晶を舐める。
「しょっぱ! これは……塩?」
北上さんの説明が入る。
「ダイオキシンは『炭素・水素・酸素・塩素』が複雑に結びついた物質だ。
俺はダイオキシンの分子結合が持つ固有の『振動波(波)』を解析し、
逆位相の波動をぶつけて結合をバラバラに粉砕した」
「な、な、なん……」
Gが、動揺して、ワナワナ震えているのがわかる……
「バラバラになった『炭素(C)』『水素(H)』『酸素(O)」を、
その場で安定した『水(H2O)』『二酸化炭素(CO2)』『酸素(O2)』そして『塩(CI)』へと、波動で強引に組み替えた。お前の『ヒトゴミ』は、もう俺には通用しないぞ」
さすがのハヤトさんも呆れ顔。
「おいおい……北上、もう人間超えちゃってんじゃん……?」
このアルファチームの強さなら、ひょっとして……そう思わずにはいられません。
でも私たちは、想像すらしていませんでした……これから先に起こる『惨劇』を、『後悔』を、そして『絶望』を……
「大丈夫か、北上……! そんな、心臓が、止まってる――!?」
「えっ」
「残念だがもうお前たちは、その『メビウスの輪』から抜け出すことはできない、永遠にな」
さすがの北上さんの顔にも、焦りの表情が……
「このままでは全滅だ、どうする……?」
「命があれば、何とかなりますっ!」
「お前の波動は純粋すぎる……不気味なほどにな」
「スパイは、アナタだったのね……」
◆場面は変わり、テレビ局会長室。
テーブルの上でチェスをするレセプター。
後ろには、渋谷の大型ビジョンに映っていた、チャイナドレスの女と、スキンヘッドの大男の姿も……
レセプターは、チェスの駒を進める。
「チェスは、達人になれば、最初の『十手』で、勝敗の『九十パーセント』が決まると言われている」
二人は沈黙……
「今回も、勝敗は見えたようだな……」
レセプターは、クイーンの駒を、相手側のキングの前に置く。
「チェック・メイト」




