9-2 晩餐
私たちは、三階の食堂へ。
食堂の厨房の扉を開けると、そこには、飛んでいる小さな黒い虫と、フレンチブルドックのワンちゃんが、私たちを待っていた……
「よう、やっと来たな、待ってたぜ。
オレ様の名前は『G』、こっちは犬の『サラダ』だ、よろしくな、ギャーハハ」
「ワンワンワン……腹減ったぜ、早く食わせろ!」
ハヤトさんが、話の口火を切る。
「マジか、ヒューマンスレイヤーって、人間だけじゃないんだ……」
横には、両手を縛られて天井から吊るされた人間と、巨大な丸いボールに入れられた大量の人間が。
おもむろに、ゴキブリの『G』が、吊るされた人間の足を切る。
ザシュッ
「ぎゃあ!」
「何してんだ、お前!」
「ギャーハハ、何って、『血抜き』してんだよ、足を切ってな。
お前たちだって釣った魚でやっていただろ? 鮮度を保つためだとか言って、魚の尻尾を切っていただろうが」
確かにそんな光景を、テレビで見たことがある……
「お前たちニンゲンは、妊娠している鮭の腹を掻っ捌いて、中のイクラを取り出して『おいしそう』とか言ってたよなぁ?
『ヒツジの肉は、やわらかい若いヒツジに限る』とか言ってたよなぁ?
それを見る、母親の気持ちも考えずによぉ?」
「いやっ! やめてお願い、何でもしますから!」
「ママ、怖いよう……」
明らかに妊娠中の女性や、子供をかくまっている母親たちから、悲鳴にも似た嘆願が叫ばれる。
「ひ、ひどい……」
思わず私は、言葉を漏らす
「ひどい? 今までお前たちニンゲンが、日常的にやってきたことなのに?」
「そ、それは……」
「あとなんだっけ? 『踊り食い』だっけか? 生きがいいって理由でよくやるよな? おいサラダ、やってやれよ」
「人身掌握術、ヒトクチ!」
バクンッ、バクンッ!
「ぎゃーーーー」
「た、助けてくれーーーー!」
サラダの口は、何倍にも大きくなり、ボールに入った人間たちを生きたまま口に放り込む。
「テメー、なんてことを……」
ハヤトさんが飛び掛かろうとするのを、北上さんが、肩を抑えて制止する。
「ギャーハハ、オレ様たちはただ、お前たちがやっていたことをニンゲンに置き換えただけだぜ」
……確かにそう、私たち人間は、他の動物に対してそういうことをしてきた……ただ、気づかないフリをしていただけ。
「お前たち旧人類は、動物たちを勝手に『経済動物』とか言って、食うために飼育しているよなぁ。
なのに、『鮮度が命』『賞味期限』『消費期限』なんてものを勝手に作って、それを過ぎたら食べもせず捨てちまってる」
「ぼ、僕はいつも命に感謝して食べているよ」
「大門さん……わ、私もそうです、食品だって、必要なものだけ買うようにしています!」
「お前たちはな……ただ世界的にはどうだ? 食品の廃棄量は日本だけでも年間六百万トン。世界なら25億トンだ。 本当に全ての人間たちが感謝しながら食べているのなら、こんな数字には絶対にならねぇ!」
「う……」
「でも、でも、私聞いたことがあります。
食品ロスを少しでもなくすために、冷凍技術で消費期限を遅らせたり、
『3Dプリンター』という機械を使って、辺境の地にも食品を届けることができるようにしていると」
……ネットで見ただけの知識だけど、これは真実のハズ。
「確かにそうだな。だがそのシステムを完全に運用するまでには、最低でもまだ三十年はかかる……
お前たちはそれまで、何もせずただ黙って見ているつもりなのか? あ?」
「そ、それは……」
「もうわかっただろ? お前たちは地球にとっての『害獣』なんだよ!
毎日何億という動物を、食料として殺害しているのに、感謝もせず、食べきれないと言っては捨てる。
地球の裏側では、食べるものが無くて餓死するニンゲンが何億人といるのによ」
「くっ……」
大門さんも私も、何も言い返せず絶句……
「じゃ、弱肉強食……」
「あ?」
「『弱肉強食』だ……動物の世界では当たり前だろ?
強いものが弱いものを食べる、これは人間だけじゃねぇ! 人間だけ責めるのはおかしいだろ!」
ハヤトさん、そうです、人間だって動物ですから!
「へへへ……じゃあ新人類が現れて、地上の『最強種』でなくなったお前らも、『強きもの』に食べられたとしても、文句は言えねぇなぁ……」
「えっ、それは……」
忘れていた……私たちは地上の『最強種』だったから、今まで平気だった。
『最強種』じゃなくなったら、私たちは、もう……
そこに、北上さんが一歩前に出る。
「確かに、お前の言うことはもっともだ。
だが、俺たちもこのままおとなしく駆除されるつもりはない、抵抗はさせてもらう」
「北上さん……」
「ああいいぜ、抵抗できるならなぁー!」
そう言って戦闘態勢に入るゴキブリの『G』とサラダ、アルファチームのメンバー。
「いくぞ!」
「ミサオ、そちらの状況は? タブレットで動画を送って」
「律子先輩、わかりました」
私はタブレットを『動画モード』にして、アルファチームの三人を映す。
「ゴキブリのGは、食堂の入り組んだ地形を利用して逃げ回っているみたいです、
北上さんとハヤトさんが追っています」
ブ~ン……
「ギャーハハ、鬼さんこちら、手のなる方へ~」
厨房を曲がったGを追いかけて、北上さんとハヤトさんもそこを曲がる……
「飛べハヤト、下だ!」
「うおっ!? ……イ、イオノクラフト!」
フワッ……
ハヤトさんが浮いた先には、床一面に粘着質の罠がびっしり敷かれていた。
「チッ、せっかくの『ニンゲンホイホイ』、不発か……」
ゴキブリのGが、残念がっているのがわかる……
「あ、あっぶねぇ……」
「先に『波』を地面に打って、地形を調べておいて正解だったな」




