5-2 秘匿
ヒューマンスレイヤーに捕まった北上さんに、怠惰のマエストロが近づく
「ヒヒ、ヒヒヒ……派手に暴れたわりに、あっさりと捕まったなぁ。
まあ、ワタシのこの『ヒトククリ』の前では、どんな強者であろうと同じことよ」
「くっ……」
「おい、オレっちたちで北上を助けるぞ!」
「了解!」
ハヤトさんが大門さんに号令をかける!
その時、怠惰のマエストロが何かを思いついたかのように話す。
「おおそうだ、このままお前を操り、残りの奴らも、お前に掃除してもらおうか」
「えっ……北上さんが、私たちを……?」
「マジか、それはさすがに、ヤバいじゃん……?」
私たちの脳裏に、さっきの北上さんが映る。
あんな格闘術を使われたら、私たちじゃ……
「ヒーヒヒヒ! さあその力で、自分の仲間を八つ裂きにするがいい!
人身掌握術、ヒトククリ!」
怠惰のマエストロの指先から糸が伸び、北上さんに刺さる!
その時――
「人身掌握術……ヒトナミ!」
ブンッ……!
ガクンッ……
「えっ?」
怠惰のマエストロの動きが、急に止まり、その場に倒れる。
「な、なんだこれは?
急に視界が、回りだして……?」
怠惰のマエストロは、地面にひれ伏している
「た、立てない……?」
怠惰のマエストロが倒れると、他のヒューマンスレイヤーたちも、糸が切れた人形のようにその場に倒れ、動かない。
立ち上がって、怠惰のマエストロを見下ろす北上さん……
「俺の人身掌握術、ヒトナミは、この世のすべての『波』を操ることができる。
お前の糸を通じて波を送り、お前の脳を揺らし『脳震盪』を起こさせた」
「な、な……」
怠惰のマエストロは、何が起こったのか、わけがわからないという顔をしている。
「なるほど、数十人のヒューマンスレイヤーと戦った時も、あの術で触れた瞬間に『脳震盪』を起こさせていたんだね」
さすが大門さんの分析力。
北上さんは、自分の両手を怠惰のマエストロの頭に添える
「悪いが先を急ぐんでな」
ブンッ!
「がっ……!」
たぶん、さらに強力な『波』で、脳を揺らしたのでしょう……
「お前の敗因は、俺と一瞬でも繋がってしまったことだ」
怠惰のマエストロは、白目をむき、口から泡を吹いてその場に倒れる
ドサッ……
(北上さん、カッコいい……)
私は、まるで推しのアイドルを見るかのような目で、北上さんを見る……
ブーーーーーーッ!
ドサァッ!
「ああ! ミサオっち!?」
私は、北上さんのあまりのかっこよさに興奮し、鼻血を出して倒れてしまいました。
ハヤトさんが、私を抱えながら、
「おい北上! お前、カッコつけすぎだぞ!」
「ス、スマン……」
お母さん、アナタの言ったことは正しかったです。
「イケメンには気をつけなさい」……
でも、アナタの娘は、それとは別の理由で殺されるかもしれません……(出血多量で)
*****
「これでよしっと、完了」
ハヤトさんが、怠惰のマエストロを特別な拘束具で拘束し、手をぱんっぱんっと叩く。
他のヒューマンスレイヤーも全員、特別な拘束具で拘束済み。
「この後、特別な拘束部隊が潜入予定だ、それまでこのままおとなしくしていてもらおう」
北上さんが、ヒューマンスレイヤー全員に言い放つ。
「よし、俺たちはこのまま先へ進もう」
私たち四人は、ヒューマンスレイヤーたちをその場に残し、先へ進む。
その時――
「ピーピー、安孫子情報官、私だ、三本木だ」
「えっ?」
私の『インカム』に、三本木内閣情報官から通信が入った。
「この通信は『秘匿通信』になっている、他の三人には聞こえない、君だけに話しかけている。三人と少し離れることはできるか?」
「は、はい……」
私は三人にそ~っと話しかける。
「あの、すみません、ちょっとだけ先に行ってて下さい」
「あ、ミサオっち、ひょっとして『お花摘みに行く』ってやつ?」
「ハヤトくん、デリカシーないな、もう……」
私は三人と少し離れた場所へ。
「三本木内閣情報官、私にいったい……」
「先ほどの戦闘、安孫子君のタブレットの動画で確認した、率直に聞こう……どうだった?」
「はい、凄く強かったです、頼りになりました」
「だな、私もそう思う」
三本木内閣情報官、なにか『奥歯にものが挟まったような』言い方……
「だが、彼らは『ヒューマンスレイヤー』だ」
「!」
「何かのきっかけで、彼らがレセプター側につき、我々の敵になる可能性がある」
「そんなっ……」
私は、言いかけて途中でやめた、確かにその可能性は否めない……
「そうなったら、今度は彼らが、私たちの最大の脅威となる、わかるね?」
「……」
私は、なにも反論できなかった。
「そこで、君に『極秘任務』を与える」
「『極秘任務』?」
「もし彼らが裏切ったら、君が彼らを『射殺』するんだ」
「しゃ、射殺!? 私が、北上さんたちを……?」
私は驚きのあまり、タブレットを落としそうになる。
「そうだ、君たち情報官の帯同には、この『極秘任務』も含まれている」
「そんな、無理です、私に北上さんたちを射殺することなんて……」
「大丈夫だ、彼らは完全に君の事を信頼し、油断している。
そして、君の持っているその拳銃には、『ヒトアタリ』の能力が付与してある」
『ヒトアタリ』……あの曳地三等海尉の使っていた能力……
「その拳銃なら、相手がどんな防御をしようが必ず命中する。
それなら君でも、彼らを射殺することが可能だ……
いいか安孫子情報官、これは『命令』だ、必ず実行するように、以上だ」
プツッ……
「……」
私は、腰のホルダーに入っている『拳銃』を取り出す。
能力が付与されているからだろうか、ぼんやり光っているような気がする……
「これで、私が、北上さんたちを……?」
チカッチカッチカッ……
拳銃を見つめる私を、点滅するオレンジ色の電光掲示板が照らす……




