5-1 潜入
『激動の総理官邸事件』から半日後……
私たちは、自衛隊の特別装甲車に乗って、とうとう事件の発端場所、レセプターの住まう要塞、『伏魔殿』、『テレビギルド』へ到着。
テレビ局の入り口では今も銃声が鳴り響き、テレビ局内部でも爆発や悲鳴が聞こえてきます。
周りには野次馬の人や、他のテレビ局のアナウンサー、空に中継のヘリコプターも飛んでいます……
「律子情報官、『アルファチーム』四名、18:10(ヒトハチヒトマル)ただいま現着しました!」
私は、タブレットに映し出されている、『律子情報官』に、敬礼をしながら現着を知らせる。
「着いたわね、ブラボー、チャーリーの二チームは、すでに地下駐車場から潜入を開始、二十分が経過しているわ」
……実は、私のミスで、アルファチームは現着が遅れてしまったのである。
タブレットと、情報本部とのリンクに手間取ってしまって……
祥子先輩に、足引っ張るなと言われたばかりだったのに。
「いい? 今『テレビギルド』の正面玄関には、すでに自衛隊・機動隊・SATの合同部隊が、多数のヒューマンスレイヤーたちと戦闘中よ。アナタたちはこの隙に、手薄な地下駐車場の入り口から潜入、エレベーターを使って、最上階にいると思われる『レセプター』の確保、および『射殺』が任務よ」
「しゃ、射殺……」
ゴクリっ
普段聞きなれない言葉を聞いて、少し緊張してきました……
申し遅れました、みなさん初めまして、私の名前は『安孫子 操』、自衛隊情報本部所属の情報官です。
歳は23歳、階級は一曹、好きな食べ物はシュークリームです。
いよいよ作戦開始です、メンバーの三人は、やる気十分です!
「ってか、正面玄関のあの大部隊が陽動かよ……すげぇな」
「失敗は、許されないってこと……だよね?」
「気負い過ぎは良くない、俺たちは命令通り動けばいい」
全員で地下駐車場入り口へ移動。
ここで、『アルファチーム』のメンバーを紹介したいと思います!
まずは『羽谷 等』三等空尉。
自分の名前が気に入っていないらしく、周りには、音読みにして『ハヤト』と呼ばせているそうです。
性格は……『チャラい』です、『チャラすぎ』です。
でも、航空自衛隊の『ブルーインパルス』に乗っていたらしく、以外にも有能な方かもしれません。
そして『大門 啓史』三等陸尉。
がっちりした体に、迷彩の制服がよく似合っています。
性格は……『おとなしい』方です、必要な時以外全然喋りません。
時々青ざめて俯いている事があります、何か過去があるのかも……?
最後に『北上 櫂』三等海尉。
『イケメン』です……『イケメン』すぎます……
きっと幾人もの女性を泣かせてきたことでしょう、
私にはわかります、え~わかりますとも。
昔、亡くなったお母さんが、「『イケメン』には気をつけなさい」と言っていましたから。
「大まかな作戦は、こちらから指示します。
でも、細かな事由の判断は、そちらに一任します、いいわね?」
「はい」
もう一人、私の尊敬する先輩、『旭神 律子』一等情報官。
私の所属する情報本部の直属の上司で、私の憧れの先輩です。
先輩を一言で表すなら、『クールビューティ』、もうこれしかありません。
あのトュルトュルな長い髪、凛々しいお顔、この世で一番似合うメガネ……
あー神よ、なぜあなたは律子先輩に『二物以上』を与えたのですか?
……ほどなくして私たちアルファチームは、命令通り、地下駐車場に到着。
ジジ・ジジジ……
駐車場の中は薄暗く、いつもは眩しいくらいに光っているライトも、半分以上が壊れていて、残っているライトも、チカチカ点滅するものや、光量が落ちているものばかり……
うっすら煙が舞っていて視界が悪く、喉の奥も痛いです。
ケホケホ……
「警戒しながら進もう、誰か潜んでいるかもしれない……」
北上さんを先頭に、ひとかたまりになって移動する。
ガタッ
「ようやくお出ましか……」
車の影から現れたのは、数十人のヒューマンスレイヤー……
体のあちこちに、紋章が浮かんでいます!
先頭の北上さんが、ヒューマンスレイヤーたちに話しかける。
「どうやら、俺たちを待っていたようだな、誰の差し金だ?」
「それを、答える義務はないなぁ……どうせお前たちは、ここで死ぬんだから!」
数十人のヒューマンスレイヤーが、私たちに襲い掛かってきました!
「あわわわわ……」
「ハヤト、大門、お前たちは下がってミサオを守れ、ここは俺に任せろ」
「えっ」
「マジか北上、お前かっこつけすぎじゃね?」
バッ!
ガシッ!
ブンッ!
北上さんは、襲い来るヒューマンスレイヤーたちの攻撃を、受けては返し、避けては投げ、ほとんど一撃でのしていく!
「凄い……(北上さん、カッコいい……)」
それを見ていたハヤトさんがボソッと……
「そうだった、あいつ自衛隊に入隊して、『自衛隊格闘術』を極める前から、すでに『マーシャルアーツ』の達人だったな」
確かに、あの動きは映画やドラマなんかでよく見る、『達人の格闘家』の動き……
ものの数分で、数十人いたヒューマンスレイヤーを、のしてしまいました!
「ふぅ……どうやらこいつらは、ヒューマンスレイヤーの中でも、術を使えない雑兵のようなやつららしいな」
いやいやいや、『イケメン』なのにこの強さ……
おー神よ、なぜあなたは『二物以上』持つものを二人も作ったのですか? 不公平です……
コツ、コツ、コツ……
奥の、エレベーターの方から靴音が……
「あ~やっぱりワタシが出ることになるのか……」
四十代くらいの、長髪の男性……?
「あ~面倒くさい、面倒くさい、面倒くさい、面倒くさい、面倒くさい!
働きたくない、働きたくない、働きたくない、働きたくない、働きたくないーー!」
「なんだ、こいつ……?」
さすがのハヤトさんも、訝し気に男性を見てる……
「ワタシはよぉ、働くのが大っ嫌いなんだ……働かないで、一生楽して生きていきたい」
その男性は、面倒くさそうに、やる気がなさそうに、私たちに近づいてくる。
カチッ
男性は、手に持っていた何かのスイッチを押す。
ジャ、ジャ、ジャーンッ!
地下駐車場のスピーカーから、大音量の『クラシック音楽』が流れ出す!
「クラシック音楽はいい……
ワタシは、一生なにもせず、クラシックを聞きながら過ごしたい……なぜそれを邪魔する?」
男性は異様な構えをみせる。
その指先には、なにかキラキラしたものが見える……
ヒイィィン……
男性の肩口に、ヒューマンスレイヤーの紋章が光る!
「人身掌握術、ヒトククリ!」
男性の指先から、無数の『糸』が伸び、倒れているヒューマンスレイヤーたちに突き刺さる!
ザザァ!
倒したはずのヒューマンスレイヤーたちが動き出す!
「なっ……?」
「どうやら、生き物の神経網に『糸』を繋ぎ、身体を操ることができる術らしいな。 あの面倒くさがりな態度……なるほど、『怠惰のマエストロ』って感じか」
「いや、そんなうまいこと言ってる場合じゃ……」
冷静な北上さんの分析に、ハヤトさんの突っ込み……
もう熟練の『芸人さん』のようです!
怠惰のマエストロが、気絶していたヒューマンスレイヤーを操ってきます!
「まずはピアニッシモ(極めて静かに)だ」
静かに、でもゆっくりとヒューマンスレイヤーたちが北上さんに近づく。
「そしてア・ピアチェーレ(自由に、思い通りにはさせない)!」
ヒューマンスレイヤーが、一斉に北上さんに襲い掛かる!
「くっ!」
ドガッ
バシッ
北上さんが、またヒューマンスレイヤーたちを倒す!
「人身掌握術、ヒトククリ!」
キュウゥゥン……
怠惰のマエストロの指から、また糸が伸びて、ヒューマンスレイヤーたちの体に刺さる。
「そこはフォルテッシモ(特に強く)だ」
「お前はフェローチェ(荒々しく、野蛮に)!」
怠惰のマエストロの命令で、倒したはずのヒューマンスレイヤーたちがまた北上さんに襲い掛かる!
「いくらでも倒してくれて構わない、気絶してようが、死んでいようが、この術には関係ないからな」
「くっ……」
「北上さん! そんな……」
さすがの北上さんも、際限なく攻撃してくるヒューマンスレイヤーになす術もなく、捕まってしまう……
「さあ、『クライマックス』といこうか……ククク」




