4-3 警告
「そんなもの、実行させるわけないだろう……」
ある人物の額に、『ヒューマンスレイヤー』の紋章が浮かぶ……
先ほどまで、レセプターやヒューマンスレイヤーのことを説明していた官房副長官、『渡邊 明彦』。
「どうしたんだ、渡邊官房副長官、いったい……」
倉澤官房長官が、後ろから渡邊副長官の肩を叩く……
ドシュッ!
「えっ?」
渡邊官房副長官の手刀が、倉澤官房長官の体を貫いている!
「あ、ああ、ああああ……」
バタッ
倉澤官房長官は、その場でうつ伏せに倒れる。
緑色の、美しい模様が描かれた、官邸第一会議室の絨毯が、もの凄い勢いで深紅に染まっていく……
ザワッ!
「なっ……!?」
その場にいた誰もが、いったい何が起こったのか理解できずにいた。
北上と律子、一部のSP以外は……
「総理!」
総理大臣専用のSPが、自分の身を挺して和氣総理をかばう。
北上と律子の二人も、総理をかばおうと、総理の方へ走り出す。
「なんだなんだ!?」
ハヤトと、他の自衛隊員たちは慌てふためく。
「渡邊副長官が、ヒューマンスレイヤーだったんだ! 全員戦闘態勢を!」
大門が叫ぶ。
北上と律子も和氣総理の前へ、渡邊副長官はその場から動いていない。
「これだけの数から逃げ出すことは不可能です、渡邊副長官、投降してください……これは『警告』です!」
律子が、震える指先で拳銃の安全装置を外す。
自分の上司(三本木内閣情報官)の上司、まさに『雲の上の上司』である渡邊に、投降を勧告する。
「抵抗したら、どうだというのだ、旭神一尉」
渡邊副長官は、両手を広げ、撃ってみろと言わんばかり。
それもそのはず、『ヒューマンスレイヤーに拳銃は効かない』……先ほど律子が自分で言ったばかりである。
ハヤトや他の自衛官たちも、渡邊副長官の方に集まる
「そうだ、試してみっか」
「どうしたのハヤトくん?」
「さっきの会議で言っていただろ? 『ヒトキリ』って技は基本技だから、みんな使えるって」
「えっ?」
ハヤトは、右手を上にあげて、叫んでみた。
「人身掌握術、ヒトキリ!」
ババババババーーーーッ!
ハヤトの右手から、複数の真空の刃が飛び出す!
「うわっ、ホントに出た!?」
ドドドドドーーッ!
「うわぁ!」
「ひぃっ!」
渡邊副長官は走ってヒトキリを避け、他の大臣に当たりそうになる。
「ハヤトくん、初めての技をこんなところで使っちゃダメだよ!」
「ゴ、ゴメーン!」
そこに、前に北上に突っかかってきた、曳地三等海尉が近づく。
「おいお前、確かハヤトっていったな? 今のをもう一度だ」
「えっ」
「いいから、早くしろ!」
(なんだ、こいつ……?)
とりあえずハヤトは、言われた通りにしてみる。
「人身掌握術、ヒトキリ!」
ババババババーーーーッ!
「人身掌握術、ヒトアタリ!」
曳地三等海尉は、人差し指を渡邊副長官へ向ける、すると……
ドドドドドドーーッ!
「ぐわぁっ!」
ハヤトの撃った真空の刃は、今度は渡邊副長官に全弾命中した!
「スゲェ……今いったい何をしたんだ?」
曳地が答える。
「オレ様の『人身掌握術・ヒトアタリ』は、相手がどんな防御をしようと必ず攻撃が当たる術……渡邊副長官、観念するんだな」
渡邊副長官は、服はボロボロに、体中のあちこちから出血している。
「くそっ、ならば……」
渡邊副長官が集中する……額の紋章が光る
「人身掌握術、ヒトスカシ!」
スウゥゥ……
渡邊副長官の姿が消えていく……
「なにっ?」
渡邊副長官の姿は、完全に消えた。
「フフフ、どうだ? 私の『人身掌握術・ヒトスカシ』は、自身の姿を消すことのできる能力……この状態なら、貴様たちに邪魔されず、大臣たちを暗殺できる」
第一会議室には、渡邊副長官の声だけが響く。
「まずいぞ、このままじゃ……」
その時、一人の男が耳に手を当てて、目を閉じる。
「右側……菊池局長の後ろにいる!」
「なにっ!?」
近くにいた、太っちょの大男が、その方角に技を発動する。
「人身掌握術、ヒトオシ! どすこ~い!」
ズドンッ!
「がはっ!」
誰もいなかった空間に、突如壁にめり込んだ渡邊副長官が姿を現す!
「おいの『人身掌握術、ヒトオシ』は、相手に『圧力』をかける技ですたい」
もう一人、さっきの耳に手を当てていた人物も、渡邊副長官に向かって話す
「オイラの『人身掌握術、ヒトギキ』は、自分の聴覚を数百倍にすることができるんだ。
アンタの足音はおろか、服の擦れる音、心臓の鼓動、呼吸音まで、すべて聞こえていたよ」
「くそっ……」
曳地三等海尉を中心に、『ヒトギキ』と『ヒトオシ』の隊員が並ぶ。
「どうだ? オレ様たち『ブラボーチーム』の連携は……
今回の作戦は全てオレ様達に任せて、お前たちは黙って見ているがいい、ハッハッハ」
「……曳地三等海尉、まだ終わっていません」
おそらくブラボーチームの情報官と思われる若い男性自衛官が、曳地の横で、渡邊副長官を指差す。
「大丈夫だ、今の連携を見ただろう? あいつがこれから何をしようが、全部ひねってやるよ」
「……一応、もと官房副長官ですよ、『あいつ』呼ばわりはどうかと」
「へっ、知るかよ、『あいつ』はもうオレ様たち人類の敵だ!」
曳地は、北上たちの方に向き直して、再度煽る。
「北上、お前はこれまで通り、オレ様の背中を眺めていろ。
お前は、オレ様の後ろを付いてくるのがお似合いだ、ハーハハハ」
ハヤトが北上に耳打ち。
「なんだあいつ、偉そうに……」
北上が、過去を回想しながら、ハヤトや大門に話す。
「……あいつは、曳地は学生の頃常に学年トップの成績だったらしい。
中学生の頃一度だけ、俺があいつの成績を抜いて一番になったことがあったんだ」
「へぇ~、お前たち、学校が一緒だったってことは、幼馴染だったのか」
「その後、俺は曳地から色んな嫌がらせを受けた」
「い、嫌がらせ?」
「教科書を隠されたり、授業の時間をワザとずらされたり……」
「……」
大門が、うつむいたまま、無言に。
「その後、曳地は『テストの点数』をとれる勉強法に切り替えたらしく、嫌がらせはなくなり、曳地もその後ずっと成績トップを維持し続けた」
「それで防衛大を首席で卒業できたわけですね」
タブレットで曳地の成績を確認していたミサオが、納得の顔。
「俺は、『成績のための勉強』というのが得意ではなかったから、自分の興味のある勉強に専念できて、逆に良かった。
ただ、それからというもの、こんな風に何かあると、よく絡まれることが多くなってな……」
「ふ~ん、そんなことがあったんだな」
北上が、大門が真っ青な顔で俯いているのに気が付く
「大門、大丈夫か?」
「う、うん……ちょっと気分がすぐれなくて」




