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未来から来た双子の兄が俺を離してくれない日常  作者: 西海子


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6.2025年11月2日

 日曜日のミサが終わり、少し遅れたけれど、と伝えて子供達にお菓子を渡した。


 昨日、極夜と一緒に作ったカボチャのクッキー。

 俺も少しは手際が良くなったと思っていたんだけど、極夜に言わせれば「危なっかしくて手を出さずにいられない」だそうだ。


 ――まぁ、確かに俺は極夜に甘やかされ放題で、料理の腕が上達するはずもないんだけど。


 歓声を上げる子供達と、それを微笑ましく見守っている信徒達。

 その中に、小野寺さんの姿があった。

 ご主人と二人で、少し大きくなった赤子を一人ずつ抱きかかえている。


 六月の半ば頃、小野寺さんから葉書をもらっていた。

 無事、産まれました……簡潔な言葉と神への感謝が並んだその葉書に、少しほっとしたものだ。


 それを覗き込んだ極夜が、思い出したように「あの人か」と呟き、「あのクズ神に祝福しろって言っておけよ」なんて言っていたので、その葉書を受け取った日に聖堂でちゃんと祈りを捧げておいた。


 ラディクルディ神の祝福を受けられたのか、それとも当然の様に両親に大切にされているからか、小野寺さんの双子は体調を崩すこともなくすくすくと育っているようだ。


 小野寺さんから、いずれこの子達も洗礼を、と相談されているのだが……まぁ、その辺りは子供達が自分で考えられるようになってからでいいでしょうと伝えている。


 神父の身で言うのもなんだが、それなりに生活に制限も出てくるからな。

 自分で考えて信仰は選んだ方がいい。


 ――これはかつて、苦しさから逃れるように父さんの残した信仰に縋った俺のようになってほしくないから、というのもある。


 小野寺さんご夫妻に声をかけた。


「お子さん達は良い子ですね、ミサの間も静かに聞いていてくれて」


 俺の言葉に、母になった女性は穏やかに笑った。


「えぇ、この子達、神父様の声を聞くのが大好きみたいなんです。ね?」


 ご主人もそんな妻を見てニコニコしていた。


「神父様の声、落ち着くみたいなんです。きっと貴方を通して神のお声を聞いているのでしょうね」


 ――いや……まさか、なぁ?

 異世界の神が赤子達に話しかけているとか……ないよな?


 ちらっとそんな事を考えたが……やりかねないな、という予感もあった。

 当たり障りなく挨拶をして、全員を送り出し、いつも通りに片付けなどに取り掛かろうとした時。

 ギイ、と脇のドアが開いて極夜が入ってきた。


「お疲れさん」

「ん」

「経理はやってやるから、片付けだけやってこい」

「うん」


 本来はこれも上にバレたらまずいことになる。

 それでも極夜が「金勘定なら俺がやった方が早い」と非常に合理的な判断をして、経理の作業を俺から奪い取った。


 二人でやれば早く終わる。その分、弟の午後の自由時間が増える。

 極夜にとってはそれが最優先なのだ。

 そんなわけで、俺の日曜日の仕事量は少し減った。


 俺が聖堂を掃除している間に、極夜がさっさと寄付をまとめ、帳簿に付け、金庫にしまって戻ってくる。

 早過ぎる……。


「外の掃除は?」

「今日はやらないでいい。落ち葉少なかったから明日やれば間に合う」

「よし、じゃあ俺はキッチンに戻ってるからな」


 ――これは「さっさと戻ってこい」という圧だ。

 俺は聖堂を出る極夜を眺めてから、ささっと床を掃いて、戸締りをして着替えに戻った。



 部屋着に着替えて、手を洗って、ようやくキッチンへ行くと、珍しく非常にあっさりした昼食が用意してあった。

 トーストと、ハムエッグ、コンソメスープ、エビとブロッコリーのサラダ。


 ――これを“あっさりした”と思ってしまうのは、贅沢に慣らされてしまったと自制すべきだろう。

 十分、手がかかっている。


「座れー、冷めるぞ」

「うん」


 極夜に促されて椅子に座る。


 あれ?

 粗末だった木の椅子。固い座面の古い椅子が、座面にクッションのある座り心地の良いダイニングチェアになっていた。


「……椅子?」

「腰が痛くなるから買い換えた」


 簡潔な一言に、まぁ椅子ぐらいならいいか、と無言で受け入れた。

 神への祈りを終えてから「いただきます」と口にして、食事を始める。

 コンソメスープが温かくて美味しい。具材の入っていないスープは疲れていても飲みやすくて助かる。


 量自体は普通の成人男性なら少し物足りない、という程度までは日常的に食べられるようになった。

 これは完全に極夜のコントロールが上手かった、としか言えない。


 元々食が細かったので、俺としては今の量でも十分食べていると思うんだが、極夜に言わせるとまだまだらしい。


 さくさくとトーストを齧っていると、極夜が向かいで食事を進めながら何でもないことのように言った。


「夕食は、パーティーだからな」


 ……。


「は?」

「は?――じゃないだろ、誕生日だぞ、今日」


 …………。

 少し考えて、極夜をまじまじと見つめる。


「誕生日……今日?」

「――十一月二日、俺達が生まれた日」

「あー……忘れてた」

「白夜はこれだから放っておけないんだよ……午後、外出できるだけの体力は残ってるか?」


 それだけ言ってブロッコリーを口に放り込んでもしゃもしゃしている極夜に、俺は少し考える。


 ――歩き回るのは、正直辛い。ただ、出掛けられないほどではない。この点で見ても、俺の体力は一年前よりは随分マシになったんだろう。


 トーストを一旦お皿に置き、極夜を眺めて少し首を傾げた。


「歩き回らないなら、多少出歩くのは問題ない」

「よし、じゃあ食べ終わったら出掛ける支度だ」


 何を企んでいるのか知らないが、まあ極夜が機嫌よく言っているのと、事前に俺に打診したことから悪いことにはならないだろう。



 そんなわけで、二人でのんびりと昼食を終えた後、俺は極夜が選んだ服に着替えて連れ出された。


 ――教会の前に横付けされたタクシーに詰め込まれた俺は、どこに行くのかも分からないままだった。

 配車アプリで呼んだのか、行き先を確認しなくとも運転手さんは車を走らせ始めた。


 三十分ほどの乗車時間、極夜とポツポツ会話をして過ごしていると、到着したのは郊外にある大型ショッピングモールだった。


 なんだ? 買い物?

 不思議そうな顔をしていたのだろう、俺を見てニタリとあの邪悪な笑みを浮かべた極夜は、俺の手を掴んで意気揚々とモール内へ向かっていった。


 程なく、俺は兄のこの行動の理由を知る。



「PS5とswitch2、両方買うか。あとは、大型のモニターとスピーカー、ソフトも何本か……お前、何やりたい?」

「ゲームなんてやったことないからわからないよ……」

「嘘だろ? こっちではずっと流行ってたんじゃないのか?」

「あの母さんだぞ? ゲーム機なんて買ってくれなかったよ」

「マジか……この一年、お前とゲームやろうと思って色々調べてたんだぞ!?」



 結局、極夜が何本かの対戦ゲーム(?)を購入しているのを、俺は何を言っても無駄だと悟って眺めていた。

 ついでとばかりに冬物の服を何着か買って、極夜は満足そうにしていた。


 大きな荷物は今日中に配送してもらえるということで、手続きを済ませた後、買ったゲームについてカフェであーだこーだ喋ってから、十六時前に教会へと戻る。


 疲労が限界だった俺は、そのまま仮眠するためにベッドに直行。

 極夜はやることがあるから、とキッチンに戻って行った。

 その辺りで、俺は眠りに落ちたようだった。



 ふと目が開いた。

 もう真っ暗だ。


 体内時計的には十八時ぐらいな気がする。

 目を擦りながらベッドを出て、そのままキッチンへと向かう。


「極夜……?」


 極夜はそこにいた。

 笑っている。


「起きたか、じゃあ、誕生日のパーティーだな」


 テーブルにはドンと大きなケーキが置かれている。

 ベタなイチゴのホールケーキだけど、明らかに買ってきたものじゃない。極夜が作ったものだろう。

 ロウソクだろうか、33と28の数字が刺さっている。


 それ以外にもオードブルと言っていいのか、極夜お手製の様々なお惣菜が大きなお皿に色々と乗せられている。


 ――全部とは言わないが、ほぼ俺の好きなものだ。何故かその端に栗きんとんがあったのは解せないが。


 いい大人がこんなに絵に描いたような誕生日のパーティーって……と思わないでもなかったが、まぁ、二十……いや、二十一年ぶりの二人揃った誕生日だ。

 こんなのもいいか。


 椅子に座って、肩を竦めた俺は極夜が注いでくれたぶどうジュースで乾杯した。


「ハッピーバースデー……って歳でもないけど」

「ハッピーバースデー、馬鹿言え、存分に祝うぞ」


 極夜の返答に、自然と笑いが零れた。


 そうだ、これは極夜にとって、当たり前にあるはずだったが得られなかった誕生日のお祝い。

 一日ぐらいは羽目を外したっていいか。


 そんなわけで、ケーキや料理を摘まみ、届いたモニターやスピーカーを二人で部屋に設置し、ベッドに座って二人でゲームをした。


 操作も覚束ない二人で、互いに「ヘタクソー!」と笑いながら。



 二人の誕生日。

 この日、三十三歳と二十八歳は、小学生に戻ったようにゲームではしゃいで、はしゃぎ疲れてベッドでくっ付いて眠ったのだった。

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